目が覚めた。......ん?「目が覚めた」?
 死んだあとは、魂だけになっているみたいなもんだと思ってたが、肉体はそのままなのか?なら、きれいに戻っていたりして。
 そう期待しながら、手で目を擦り、起き上がると、手が汚いことに気づく。そしてよく見ると、俺のいる場所がついさっきまでいたところと同じであることにも気付いた。辺りは吸ったらやばそうな瘴気とぎりぎり我慢できる程度の悪臭に満ちている。

 「......死んでなおこんな場所にいるってのは、地獄にでも落ちたのかねぇ」

 だとするなら、クラスメイトも王族も全員、死んだらここに来るだろうな。俺をあんな目に遭わせたのだから。
 というか、さっきから瘴気をもろに吸い込んでいるのだが、体に異常は無い。人体に無害とは到底思えないのだが、死んでる以上は無効なのか。
 ここはどこか、俺はどうなったのか、色々考えながら、あてもなく歩いていく。
 どこへ進んでも瘴気は晴れず、悪臭もそのままだ。これが永遠に続くものなら、まさに地獄とよべるだろう。

 歩くこと数時間、そろそろ適当な岩場があれば座って休もうかとキョロキョロ見回すと、後ろから足音が聞こえてきた。振り返るとそこには背が俺より少し高いくらいの男性らしき人が項垂れた様子で立っている。

 (いつから後ろにいた?それに、こいつなんかおかしいぞ。)

 体つきは俺に近い体型だが、妙なのはこいつの格好だ。服を着ていない。よく見ると、それ以前に、男の象徴である証がついていない。何より最も目を引いたのは、この男の肌の色だ。

 全身赤紫色の不気味な様相だ。そして俺は、こんな肌の色をした生き物とつい最近目にしていたのだ。

 「モンストールたちと同じ色...?」

 そう、モンストールの特徴の一つである赤紫色の肌。関係していないとは思えない。

 さらに、俺がおかしいと断定した要素はもう一つ。生前、廃墟の地下で 遭遇したあのモンストールたちが纏っていた濃い瘴気。しかもこいつは、今までのよりもとびきり禍々しく震え上がるくらいにヤバいそれを纏っている。

 「まさか、あいつらのさらに強い奴だとでもいうのか!?てゆーか、モンストールがいるってことは、ここは......現実の世界?」

 あの世にまで生前の生き物(どちらかと言えば化け物)がいるのはあり得ないと俺は考えている。それに、この瘴気は上で見たのと同じだし、この場所はあの崖から落ちたところにあると考えられる。そうだとすれば、ここがあの世ではないと言える。

 (じゃあ、俺は、死んでいない...?)

 そう思ったが、その可能性は否定した。あの状況で助かるのは無理あるし、実際耳にしたあの、体が潰れる音。紛れもなく、俺は死んだはずだ。
 では、今の俺は一体何なんだ?
 自分の身について調べたいところだが、それどころじゃないようだ。

 「.....................」

 さっきから目の前にいるモンストールは、俯いたままで、俺を見ていない。だけど、こいつから逃げられる気がしない。見ていないけど俺を捉えているような感じだ。

 そして、それは突然だった。目の前にいたモンストールが一瞬で俺の後ろに移動した。ただ移動しただけじゃない。そいつは腕を振り上げ、手は鉤型の構えの格好でいる。少ししてボトッと音がして、みると...腕が......これ、誰の右腕...?
 やけに右腕が軽い。みると、肩から先が無い。あれは、俺の、右腕だ。

 「―ッ!?......あ?」

 右腕の喪失も衝撃だが、右腕の他にも体に違和感があった。その違和感の主である自分の腹を見ると、自分の広げた手のサイズくらいの大穴が空いていた。

 ―—あ、死んだ。この後、激痛に襲われ、出血多量で死ぬんだろうな

 と頭を過ぎり、やがてやってくる激痛に恐怖する。

 が、いつまで経っても痛みを感じない。腹も。右腕も。何も感じない。普通なら致命傷だ。ただの一般高校生が立ってられる傷じゃない。
 だけど、あいつに隙ができた。今のうちに、全力で逃げよう。
 前回と同じ轍は踏まない。逃げることが、今の俺にとって最善策だ。
 訳が分からない事態だが、一先ずあいつから離れるのが先だ。
 腹に大穴を空けられ、片腕失ったため腕振りがまともにできない状態で走れるのか、と不安だったが、普通に速く走れた。とにかくがむしゃらに走り、あいつが完全に追ってこなくなるまで走り続けた。
 10分間ずっと全力で走り続けていたが、その間疲れることは一切無かった。


                   *

 完全に撒いたことを確認して、その場で大の字になって仰向けになる。と、そこで、走ってきた跡に血が全く無いことに気付いた。あれだけの傷を負えば、夥しい量の血が地面についていておかしくないのだが。それどころか、

 「腹にあった大穴が、塞がっている!?」
 さっき思い切り穴を空けられたはずだが、その傷は全く見当たらない、右腕も出血は止まって、ていうか、なんか右腕に塵が集まってきているんだが!?

 「マジで俺の体どうなってるんだよ!?......つーか、ステータス。」
 体の異常の原因を知るには、ステータスプレートを見れば何か分かると思い、2度の高所からの落下の衝撃にビクともしなかった頑丈プレートを取り出し、ステータスを見る。


カイダ コウガ 17才 人族 レベル11
職業 ゾンビ
体力 0/40
攻撃 40(390)
防御 40(350)
魔力 20(160)
魔防 20(200)
速さ 40(400)
固有技能 全言語翻訳可能 逆境強化 五感遮断 自動再生 略奪 感染



 「............職業、ゾンビ!?」

 俺は、死んだが、魂はまだこの体に宿っている。だが、この体はもう死んでいる。死んだ生き物がなお、生きているように動き回っていることを、フィクションとかではこう呼ばれている。


 ―ゾンビ。俺は、ゾンビとして生まれ変わった。