アルマー大陸にあるサラマンドラ王国。
この国も、5年前のモンストール急襲以来の大規模戦争が勃発していた。
主力級の竜人族戦士、約10名。その他戦士約100名。
対する敵勢力は、災害レベルモンストール・魔物が各50体、同様に上位種が数十体、そして魔人族一人。
数は魔人族たちが上だが、主力級の竜人戦士たちの活躍によって、モンストールと魔物は数十分で全滅した。
しかしその数分後、たった一人の男によって、サラマンドラ王国は壊滅の危機に瀕することとなった。
「―――残りの戦闘可能な竜人は......3体。とはいえうち一体は取るに足らない雑魚か。ちなみに辛うじて息がある奴らを入れると5体残っている、か」
竜人たちを見下ろして残りの戦闘可能な者を数えているのが、魔人族序列2位のヴェルドだ。
彼は既にサラマンドラ王国最高レベルの戦士を半分以上殺害していた。殺された戦士たちは、Sランクのモンストールたちにも苦戦しない実力者だったのだが、ヴェルドの前にはまるで歯が立たず、無惨に敗れて命を落とした。
現在戦える竜人は...
「ドリュウやリュドを圧倒してやがる...!くそ、あいつの言う通り、俺では全く相手にならないのか...っ」
戦士の序列7位である、炎蜥竜《サラマンダー》の異名を持つ男、オッド。彼は仲間の女戦士の応急処置をしながら悔し気にヴェルドを睨みつける。今自分が出ても無駄に命を散らして終わるだけだと悟り、出撃出来ないでいる。
「親父の言う通り、いやそれ以上だ。親父やコウガ以外でこんな強い化け物
がいるとは思わなかったぜ。反則だろ、ったく」
まだ人型でいる蛇種のカブリアス。悪態つきながらも、密かに魔力を溜めて、彼も「限定進化」の準備をしている。
「あの頃よりも数段力つけやがって、いったい何をやればそうなるのやら...。これはあの頃と同じ、死ぬ覚悟を持って臨まなければな...」
そしてこの国の王である、蛇種のエルザレスだ。殺意を込めた目をヴェルドに向けて睨みつけている彼は、怒りに満ちている。仲間が大勢殺されるのを止められなかった自分と、諸悪の根源であるヴェルド両方に対する怒りだ。
彼の傍には、既に「限定進化」を発動した状態のドリュウもいる。進化によって発達した強靭な尻尾を剣として自在に扱う戦法をとり、Sランクの敵を数体斬り伏せてきたが、ヴェルドの数撃でかなり深手を負って瀕死状態でいる。
「魔人族の小僧が...!五体引き裂いて葬ってやるから、そのつもりでかかってこい...!!」
「お前らこそ、俺との絶望的な戦力差を思い知って死ぬがいい!」
「「「限定進化!!」」」
残る3名も「限定進化」を発動させて、死闘が始まる。
この後の戦いで、サラマンドラ王国とその周辺は、地図を描きなおさなけばならないくらいに、地形が変わることになる...。
*
過去最大の戦争が開始されて数時間、状況は魔人族たちにとって思いもよらない展開となった。
一人一人が世界を脅かすレベルの力を有する魔人族が、格下で、忌むべき種族の人族に二人も落とされたのだ。
だが人族側も甚大な犠牲を被っている。その主な犠牲だが、イード王国が滅亡した。数体で国一つを滅ぼし得る力を持つ災害レベルのモンストールはやはり強く、イード王国の精鋭戦士を以てしても敵わず、ついに国は滅び、土地も滅茶苦茶に破壊された。これにより人族の戦力はかなり減らされた。
戦況は魔人族側が優勢となっている。このまま進めば消耗が激しい人族が敗北するのは確実になっていく。
...このまま進めば、だが。
「ありえない...!たかが人族に同胞が二人も......。侮っていた、100年以上前の時の奴らと同じと考えない方が良いということか」
魔人族本拠地、モニターがたくさんある部屋で、序列3位のベロニカは、予想外の戦況に少し感情を荒げる。魔石によって大幅に強化された自分たちは、人族も魔族も滅ぼすのは容易いと高を括っていたが、それが大きく覆された。
「クロックさんと、リュドルが殺された!?人族がそんなことができることなど...!」
「リュドルはともかく、あの4位のクロックさんまで落とされるとは、あいつらに何があるっていうんだ?」
同部屋にいるベロニカ以外の魔人族2人も信じられないという様子で声を荒げる。
序列8位アオザに9位のリトム。彼らは現在待機中である。が、戦況が変わったことでそれも終わることになりそうだった。
「そういえば、ザイート様が言うには、人族は少し前に再び異世界から人族を召喚を行い、あの時と同じ特別な力を持った戦士をそろえたとか。おそらくまた奴らによって同胞がやられたのだろう。それか、あのイレギュラーの男によるのか、だけど」
ベロニカは二人に聞こえるように呟いて、さらに集中して今度は魔族勢力の様子も感知する。なおそのザイートは数刻前からここを発っている。
「亜人族・竜人族の方は未だ抗戦中。鬼族のところは、屍族が全滅している...!鬼族がここまで強いなんて...生き残りどもが想像以上に進化していたらしい。ネルギガルドめ...あの時ちゃんと殲滅していれば」
恨み言を吐き捨てた後、二人の方を向いて指示を出す。
「お前たちと残りの屍族たちを率いて、人族たちを一掃する。戦力が高い人族の誰かが同胞を殺したはずだ。同胞を相手した以上ただでは済んでいないはず。そいつらを消しさえすればあとは総崩れになるはず。行くわよ...!」
「「はい!!」」
ベロニカの指示に従い、残る戦力を動員させる。彼女の言う通り、魔人族と戦った各地帯にいる人族たちはかなり消耗している。犠牲者もたくさん出て主戦力も今は休戦中だ。そんなところに、残る魔人族と災害レベルのモンストールが攻め込めば、全滅は必至である。それを見越したベロニカは、今が好機と見て動く。
数分後、建物の外には残り全ての屍族が勢ぞろいしておりいつでも出陣できる状態だ。建物のてっぺんからその光景を眺める三人の魔人族も、いざ戦地へ行こうと息巻いた。
「よし!ではこれより人族の殲滅に――――」
―――“悪食《あくじき》”
ベロニカが号令をかけようとした刹那、どこからか背筋が凍るような声が響いた、そんな気がした...!
その直感は正しく、突然前方から無数の闇色に染まった化け物の口腔が、魔人族と屍族の群れを襲った!
「「「―――!!?」」」
咄嗟に3人は「魔力防障壁」を張って、正体不明の攻撃を防いだ。
が、下にいた屍族はそれらを防ぐことすらできず―
「「「「「―――ガギャアァ!!?」」」」」
無惨に喰い荒らされていき、瞬く間にただの肉塊と化していった。
わずか数秒で、凄惨な死体の山が出来上がり、生き残っているのはベロニカたち3名の魔人族たちだけとなった。
「は.........は?」
「同胞たちが一瞬で......死んだ、だと!?」
突然過ぎる事態に、二人は頭がまともに働かず理解が追いつかないでいる。ベロニカも何が起きたのかが把握できないでいるが、少なくとも今自分たちは敵の攻撃の範囲内にいると悟り、障壁を張り続ける。
(これほどの魔法攻撃……いや魔法攻撃なのか!?敵はいったい―――)
敵の正体を暴くべく前方を睨みつけると、大量の屍の上に誰かがいることに気付く。その形《なり》は人族の男であり、ザイートの情報を瞬時で思い出したベロニカは、顔を青ざめて戦慄した。
「お、前は......まさか...!?」
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―視点は変わり...っと、ようやく自分を認識してくれたことに気付き、俺はやっとかと呟いて、魔人族どもに話しかけた。
「お邪魔しまーす、魔人族のみなさん。俺が甲斐田皇雅でーす!」
―残虐な笑みを浮かべながら、俺は自己紹介をして魔人族どもを睨みつけた…!