俺たち一行は港で船をもう一隻買って、それですぐに出航した。
 今人族の中でいちばん大きな勢力はサント王国だ。イードとも連携取るようになってからいっそう勢力増しているそうだ。そんな国がある大陸に長居するのは面倒だ。
 俺を危険人物として手配したのもサント王国だ。だからこそ今すぐベーサ大陸を離れるのが最善だ!というカミラのありがたい助言に従い、さっさと大陸を出た。

 日付が変わった朝、オリバー大陸に着き、故ハーベスタン王国に戻ってきた。カミラの家と王宮には誰もいないので、そこに鬼族たちを住まわせることに。
 といってもここに住まわせるのは、非戦闘員の鬼たちだけだ。俺・アレン・カミラに加え、スーロンたち3人は休養摂ってからまたここを出ることに。
 別に俺一人で良かったのだが、より強くなるにはアレンの協力が必要だし、カミラはついて行きたいと頼んできて、スーロンたちも強くなりたいとのことで、そういうメンツになった。

 「カミラは何でついて行こうと?」
 「え、と...単純にコウガと一緒にいたいと思って!あと、色々サポートもしてあげたいとも思って!ダメでしょうか...?」
 「いや?何か援助してくれるのはありがたいし。じゃあ頼むな?」
 「はい!任せて下さい!」

 という感じでカミラも同行することに。それにしても不思議なもんだ。俺みたいな男に好意を寄せてくれる女がいるなんて、世界は一つだけじゃない、いくつもあるのだとすれば、こんな俺を好きになってくれる女は意外といるのかもしれない。復活して良かったと思うよこの時ばかりは。

 丸一日休養を摂った翌日。俺たちは再びハーベスタンを出る。昨日は鬼たちの住むところは彼ら自身で決めてもらって、その後は全員で祝勝会的な飲み会を開いた。保護鬼たちは久しぶりのまともな食事や酒に感極まって泣きながら飲み食いしていた。全員夜が明けるまでずっと宴会タイムを愉しんだ。
 だから出発したのは昼前だった。当分の間は鬼たちで好きに生活させることに。現族長となっているアレンが戻るまではまとめ役は無しということにした。リーダーがいなくても彼らならしっかり生活できるだろうと思ってのこと。
 長くて3ヶ月は空ける予定だと伝えて彼らとしばらくお別れした。

 で、これから俺たちはどこへ行くのかというわけだが...


 「よぉ、そんなに久しぶりではない再会だな?また来るとは思ってなかったが」
 「色々理由があって、また厄介になる。よろしく頼む」

 陽が沈みかけの頃、サラマンドラ王国のいちばん大きな家というか屋敷前、竜人族の族長・エルザレスと今挨拶している。
 復讐前にアレンの仲間と会うべく訪れたこの国に、再び訪問して彼のもとへ来た。複数の鬼族の戦気を感知した竜の戦士たちがこうして出迎えてくれた。ドリュウが俺とアレンに手を上げて挨拶してきたので、俺は会釈し、アレンは軽く手を振った。

 「アレン!仲間をまた保護できたんだね!それも凄く強い人たちを!また来てくれて、会えて嬉しい!」

 そう大きな声でアレンに近寄ってきたのは、この国の中での最年長のピンク髪で、堕鬼種の女鬼・センだ。堕鬼種とは、幻術類の魔法の扱いに長けた鬼で、敵を惑わす攻撃を得意とする。妹のガーデルも幻術を扱える。
 センたちとの再会にアレンも満面の笑みだ。とここでセンが今気づいたのか、アレンをまじまじと見て大変感心したと言いた気なリアクションをとる。

 「アレン、ちょっと見ないうちにまた凄く強くなったね?戦気が段違いだよ」
 「うん、かなり強い敵といっぱい戦ってきたから。私もう一人で災害レベルの敵ともまともに戦えるし、勝てるよ!」
 「えっ本当に!?あの化け物たちと戦えるの?うーん、アレンがまた遠くなっていってるぅ...」
 「そう気を落とさないで、セン。みんな協力すればあの人型にだって勝てるよ!」
 「あ...スーロン!?あなたも生き残ってくれてたのね…!」

 と、スーロンたちとの再会にセンたちが喜び合って会話に花咲かせている間、俺はエルザレスに今まで起きたことを簡単に話す。

 「亜人族の国ではやはり派閥争いが起こってたか。だがそれは病等の原因も関係していたことだったのだな。
 何より驚いたのが、獣人族が滅んだ...いや滅ぼしただと?あの大国を潰すとか、お前ら想像以上にぶっ飛んでるなぁ」
 
 エルザレスをはじめこの場にいる竜人族全員が驚きに染まっていた。

 「相手がどんな規模だろうが関係無い、それが言えるだけの力が俺にはあるのでね。ま、俺の敵にならない以上は潰すことはしないさ」
 「誰もお前の敵になると考える愚者はいねーよ、少なくとも竜人族はお前と同盟関係としてやっていくつもりだ...で?そんなキチガイに強いお前が何しにここへ来た?鬼族たちの引き渡しならいつでも構わないぞ。最近鬼族を住まわせる土地を手に入れたんだろ?」
 「それもあるが別に急ぎじゃない。あいつら5人がそこに行きたいってんならすぐ案内するが、それはあいつらの意思次第だ。今回は、主に俺の都合でまた来たんだ。ここでしばらく修行したい」

 用件を問うたことに対する俺の答え、それは修行だ。王道バトル漫画で必ず出るあの修行だ。これから修行編に入るのだ。
 が、俺の答えがよほど意外だったのか、エルザレスもドリュウも、いつの間にか話を聞いていたセンやスーロンたちも呆けた顔をしていた。

 「は...?修行?お前にとってはるか格下にあたる俺たちと修行なんかしたって何の糧にもならないだろう?というか俺たちが殺されるオチだろう。お前の相手なんか御免だぞ」

 エルザレスが見た目とのギャップ違和感全開の崩れた口調で俺の修行発言を否定しやがった。他の奴らも拒否反応している。失礼な。俺だって必要だと思ったから言ってるのに。

 「あのなぁ。さっきは誰が相手でも余裕だってこと言ったけど、それは人族と魔族に限定した話。この世界には俺と同じかそれ以上に理から外れた勢力がいるだろ?...魔人族だ。そいつらのトップと一度やり合ったんだが、本気じゃない状態のあいつと引き分けて終わった。こっちは本気だったのに、だ。
 もし万全になったあいつと今のままの俺が戦ったところで、簡単に負ける。そうなればこの世界は今度こそ終わる。魔人族は他に数人いると聞いた。Ⅹランクの軍勢が、遠くない未来この世界を潰しにくる」

 魔人族の話を聞いた全員が、茶化すことなく受け止めて、戦慄して真剣な表情になる。

 「俺は以前魔人族の長...ザイートに手酷くやられて殺すことができずに逃げられた。しかも俺の復讐相手を数人殺してくやがったしな。奴にはかなりの恨みを持っている。復讐するつもりだ。が、今のままではそれは叶えられないだろう。
 だからしばらくの間、ここや色んなところで俺自身を強化させるつもりだ。奴をぶっ殺せるくらいにな...」

 そこまで話して深呼吸する。なんかここまで真剣に話すのは珍しいなと自分で思った。今の話を聞いたエルザレスは、尚も難しい表情を浮かべたままだ。

 「お前が言いたいこと、考えていることは全て理解した。だがどう強くなるつもりだ?能力値の向上を図るなら、俺たちと戦ったって僅かなレベルアップしか期待できないぞ?さっきも言ったが俺たち全員はお前と比べてはるか格下なんだからな...ったく自分で言ってて惨めになってくるぜ」
 
 途中卑屈になりながら俺に修行の方法を問う。ま、そこが今回の重要点なんだが...。と、ここで突然アレンに向き直って姿勢を正す。いきなりの行動にアレン本人はもちろん、カミラもギョッとした。気にすることなく、日本人式の頼み事をする姿勢(頭を45度下げる)で、俺はこう言った。


 「アレン、俺に拳闘術を教えて下さい!!少しの間、武術の師匠になって下さい!!」

 「.........ほへぇ??」


 声を大にして言った頼み事に対するアレンのお返事は、可愛らしい声だった...!

 「えーと...?だから、俺にアレンが持ってる武術の知識を教えて欲しい、ってことなんだけど...頼めないか?」
 何か謎の沈黙が続いたので慌てて付け加えて言った。

 「え?...あ、うん。教えるのは良いのだけど。私の拳闘術覚えて、コウガは強くなれるの?」
 アレンは特に嫌そうな反応は見せず、単に疑問を呈した。

 「ああ、なれる。俺は以前ザイートにオリジナルの格闘技をいくつかぶつけたんだが、どうも当たりが悪くて、決まらなかったんだ。あんな技術じゃあ次戦う時めちゃくちゃ苦戦する。能力値のことは自分で何とかする。けど技に関しては俺一人には限界がある。だから一族秘伝の拳闘術を皆伝したアレン、他にスーロンやソーンにも教えを乞いたいと考えてたんだ。相手の急所を正確に突く技、身体をより自在に正しく扱って繰り出す技、型がしっかり取れるようになることなど...。
 とにかく俺にはそういう技に関する経験が圧倒的に乏しいんだ。元いた世界では格闘技を習ってはいたんだけど、あそこまでのは習得できなかったしな。
 だから強くなるには技が必要だ!そしてそれを習得するにはそういう道に精通しているアレンたちが必要だ!頼む!」

 さらに言い募って、再度頭を下げてスーロンたちにも教えを乞う。するとアレンが俺の頭を上げさせて目線を合わせる。頬を染めて笑顔で返事した。

 「畏まらないで。コウガの為ならいっぱい教えてあげる!それで強くなってくれるなら協力するよ」

 快諾してくれたと分かり、ほっとしながらありがとうと言う。とそこに、センがアレンに何か耳打ちをする。話し終えるとアレンがにゃあ!と可愛い声を上げて頬をまた染める。そしてそのまま俺に近づいて何か言い足してきた。

 「...そ、その代わり!技を教える日には、何か私の言うことを何でも聞くこと!それが条件!いい?」

 照れながらそんなことを言いだした。端でセンがニマニマとアレンと俺を交互に見つめてやがった。あの鬼女、策士やなぁ...。けどゾンビの俺なら、どんな内容だろうが叶えてやれるか。まして相手がアレンなら、な。

 「ああ、その条件飲もう。言うこと聞いて強くなれるなら安いもんだ」
 「!...うん!約束ねっ!...えへへぇ」

 契約成立したことにアレンがあどけない仕草をしながら喜びの意思を示した。うーん、アレンのことだから無茶な要望はそうないと思いたいが、R18な内容だとこのお話に載せられることができなく...やめとこう。
 要求が叶って喜び合うアレンとセン。そして...

 「ああそんな!?アレンとコウガが上下の関係に!?なら私がコウガの下になってたくさん尽くしてあげなければ...!」
 「大丈夫だよ。カミラだってちゃんと頼めばきっと構ってくれるよぉ」
 「!そ、そうでしょうか?じゃあ私もコウガに何か―」

 困った様子でいたカミラにスーロンが俺に聞こえる音量で助言してカミラをその気にさせていた。まったく、これからは遊びで過ごすんじゃないんだぞ?息抜きの時間だけなんだからな!?
 
 「......まぁというわけだ。あと竜人族のお前らにも何か技を教えてもらえれば、と思ってんだけど―」
 「「「「「何か教えるごとに、1つ何でも言うこと聞いてくれるなら是非引き受けよう」」」」」
 「......この野郎どもめ」

 いつリハーサルしたのか、竜人全員が声揃えてアレンと同じことを言いやがった。
まぁいい、俺を怒らせるようなことはしないだろうから多少はこいつらのパシリとかにだってなったるわい!

 こうして修行の算段はついた。今日は鬼族たち、スーロンたちの歓迎会という形で締めて、修行は明日からとなった。
 これからの修行で、俺は俺の技をさらに強くさせて戦力を上げまくる。魔人族など敵じゃないと思えるくらいに...!!