王宮地帯を抜けてスーロンたちが向かったとされる民家地帯へ移動する。よく見ればあちこちで家が燃えている。キシリトが燃やして回っているみたいだ。その際に仲間の鬼たちを保護していってる。
思った通り、この辺りの獣人どもは戦士兵レベルまでは戦えない。手負いの彼らでも余裕でひれ伏させられるだろう。
4人の鬼の襲撃により獣人たちは逃げだしていった。同時に隷属されていた鬼も次第に増えていった。といっても、死んだ数の方が多かったらしく、保護できたのはせいぜい10人程度だった。それだけ食糧や虐待なので殺されてきたのだろう。スーロンたちに怒りや憎しみが混じった表情が見てとれる。
彼らの救助活動は、俺たちが合流してから5分経ったところで終了した。獣人一人に尋問したところ、今いる鬼たちが全員だそうだからだ。これで本当に鬼族たちの勝利となったな。まずはひと段落だ。
保護した鬼たちのほとんどが非戦闘員だった。中には戦士だった奴もいたのだが、虐待によって戦士廃業となってしまっていた。それだけ酷いことされてきたと思うと残酷な獣どもだなぁと言わざるを得ないな。
女鬼なんか日々獣どもの慰み物扱いされていたらしく、目がやや虚ろとなっている。スーロンたちに保護されたことで安堵の涙を流していた。
「みんな酷い仕打ちを受けてきたってことは、こっちには痛いほど伝わった。まったくロクでもない種族だなぁ。復讐のつもりで虐げたのか知らんが、こいつらのやってることは復讐じゃないと、これだけは言える」
俺の言葉にアレン、カミラ、スーロンたちも耳を傾けて聞く。
「復讐ってのは、主に自分が害された時や傷つけられた時、その憎悪を晴らすべくする行為だ。単に自分が傷つけられる、大切な人が殺されるといったのが動機の代表例だな。ま、あいつらが家族や大事な所持品が殺され奪われ壊された、っていうのなら復讐として虐げるのはまだ分かる。
けど違うんだろ?あいつらはただ領地を奪われただけ。鬼族たちは戦の中で仕方なしに戦闘兵たちを殺しただけ。生きる為に殺した。そこに復讐もクソも無いはずだ。ならあの獣どもがやっていたことは、ただの悦楽による虐待だ。正当性など微塵も無い」
俺の話にみんな真剣に聞いていた。保護された鬼たちもいつの間にか聞いていた。俺の言葉にいくつかがこいつらの心に沁みたようだ。
「だから...もしお前らが獣人族に憎悪を抱いているなら、あいつらを殺したいと考えてるなら、それは正当な復讐行為だ。蹂躙して虐げて犯して殺すも、全て赦される。あいつらにはそうされる資格があるから。
と、いうわけで...お前らはどうしたい?」
言いたいこと言って、最後に鬼族たちに判断を委ねた。最後に全てを決めるのはこいつらだ。そうするべきだ。これは俺の復讐ではないのだから。
俺の問いかけにしばらくしてから一人の男鬼が声を上げた。
「殺したい...復讐してやりたい。ああそうさ!あの獣どものせいで俺はもう戦士としての生命が断たれた!誰も獣人を傷つけていない俺が!こんな目に!!俺はやるぞ!絶対に赦さない!!」
怨嗟満ちた目を燃えている家に向けながらそう叫んだ。男の決断をきっかけに次々武装蜂起を唱える鬼たちが出てきた。
穢された屈辱、虐げられた恨み、身内を殺された憎しみなど、色んな動機を聞いた。気が付くと、俺たちの空間には、どす黒い感情の渦が見える錯覚が起きるくらいに、空気が凄くなっていた。復讐を望む者がこんなに集まるとこうなるのか、と俺は驚嘆した。
「お前らの気持ちはよく分かった。これより、今回お前らを救った鬼族の代表であるアレンが、少し前にこのカイドウ王国を滅ぼすと宣言した。この国の頭と主戦力どもはもう死んだ。残りは雑魚だけ、駆除活動だ。復讐したい奴らは全員アレンに続いて、存分に恨みを晴らしてこい」
アレンを紹介して俺は復讐を煽った。全員金角鬼は知っているようで、アレンを崇めるように見ている。アレンは少し恥ずかしそうに身を捩るもすぐにとりなして、号令をかける。
「後はこの国全てに総攻撃をしかけるだけ。土地や民家建物、そして何よりも獣人たちを滅ぼしに行く!その気がある人は、みんな私たちについてきて!」
その言葉に鬼たちは全員雄たけびを上げて賛同した。全員一致で、獣人族どもに復讐する方針が決まった。ああ...!面白くなってきた!今まで害されまくってきたこいつらが、一致団結して悪の根源どもを根絶やしに行く。なんて面白い展開だ!これこそ復讐の醍醐味!こうじゃなくっちゃ!
「じゃあコウガ、カミラ。私たち行って来るね。獣人族を、完全に滅ぼしてくる」
俺とカミラに手を振ると、スーロンをはじめとする鬼族たちを率いて再び町や森へ侵攻した。
「なんだかアレンが族長みたいに見えました。もう立派に鬼族のリーダーできてますね」
「ああ。アレンの目標...鬼族の復興もそう遠くないなきっと...」
二人してアレンの成長に嬉しく思い、彼女を眺めていた。
そして鬼族たちの逆襲が始まった...!
獣人族どもは一方的にアレンたちによって蹂躙されていった。抵抗するもスーロンやソーンの圧倒的膂力の前に為す術なくひれ伏し、そんな奴らを他の鬼たちがリンチして痛めつけた。
悲鳴と助けを呼ぶ声を上げる獣人族たちを、鬼族たちは実にいい顔して虐げて苦しめて、そして殺していった。少し前までは、お互い逆の立場だったのが、今はすっかり逆転している。獣人族たちも、以前はああいう顔をして鬼族たちを虐げていたのだろうか。いや、そうに違いない。じゃなきゃ鬼たちがああまで復讐に走ったりはしないからな。
「あははははは!!こうしたいとずっと思っていた!俺をあんな風に虐げて苦しめてくれたツケ全部払ってもらうぞぉ!!」
「あんたが!愛人を殺してくれやがったな!?だからあんたの大事な人を殺してからあんたも殺す!!」
「悪魔の族め!お前ら最低魔族はここで滅べばいい、死ねぇ!!」
「おらっ!やるならこいよ!!獣が鬼に勝てると思うなぁ!俺たちを害したこと後悔しながら死ねよおおお!!」
「あっははははははは!気持ちいい!!復讐ってこんなにも気分が良いものなんて!今まで耐えた甲斐があったよ、こうやって憎い獣どもをぶっ殺せるのだからぁ!!」
「ひぎぃ!?悪かった!今までのこと全部謝罪するから、赦し...あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”...!!!」
「来るなぁ!やめ、ひ!?ひいいいいいいいいいいい!!」
「ぎゃああああああああああああああああああ!?」
あちこちから鬼族たちの怒号と獣人族どもの悲鳴が聞こえる。実に愉快だ。
家や森、草原が燃えていく中獣人族どもが殺されていく様を、俺は面白がって眺めていた。飽きることなくずっと...。
1時間は経った頃、彼らの復讐タイムは終了した。獣人族が暮らす地帯は焼け野原と化し、人も全員死んだ。獣人族は、今日を以て絶滅した。ドラグニア、ハーベスタンに続き、今度は魔族の国が滅ぶとは思ってなかったが、これはこれで面白いから良いや。
復讐が終わって余韻に浸っている鬼族たちだが、その中でアレンだけは俺のところにやってきて、これからのことを聞いてきた。彼女もみんなのところに混ざって喜びを分かち合いたいだろうに、しっかり族の長としての自覚を持ってるなぁ、感心。
「ここを鬼族の領地として大丈夫かな?移動無しで楽だし、ここは自然に囲まれて悪くないと思うのだけど...」
アレンはここを鬼族の村...土地の規模的に里?を興すことを提案した。彼女の言うことは間違ってはいないが、この大陸にはあの王国があることに問題がある。
「確かにここは鬼族が暮らすには申し分無い環境だし住みやすいだろう。ただ、このベーサ大陸には、サント王国が存在してて、まぁそのなんだ?ちょっと厄介になりそうで...」
途中言葉を濁してしまったが、それでも伝わってくれたらしく、アレンはあっと気づいて少しシュンとする。可愛い。
「そうだったね...あそこには、あの人がいるもんね?近いところにいるのはダメだよね?」
「まぁそうなるな。悪いがここで暮らすのは諦めよう。この土地は別の使い道として利用するよ。で、鬼族たちの暫くの住むところなんだけど...」
そこまで言ってどこにするか思案する。とここで、カミラがあのーと提案持ちかけてきたので話を聞く。
「私の故国...ハーベスタンはどうでしょうか?私の家もあるし、今は国民はほとんどパルケ王国に移住しています。仮に人がいたとしても、亜人族と共生していた彼らは鬼族がいても気にならないだろうし、生活物資もまだ豊富だと思います」
故ハーベスタン。カミラの家もあるし、モンストールに攻められたとはいえ民家などに被害はほぼ無い。色々便利だろうし良いかもしれない。けど気になることが。
「それこそ、ここと同じ問題が浮上しないか?あそこの隣国にはそのパルケ王国があるんだ。鬼族を良く思っていないあの国の隣に移住させて、大丈夫なのか?」
「それに関しては問題ありません。以前私は、ディウル国王に故ハーベスタン王国に保護した鬼族たちを移住させることを伝えて、それを承知したと言質も取りました!パルケ王国に干渉しないことを条件に、鬼族が故ハーベスタン王国に住まうことは前以て納得してもらっています!」
「え...マジ?いつの間に」
そんな約束いつ...あ、そういえば、カミラだけ謁見部屋に残って少し話があるって言ってたな。あの時にそのことの相談をしてたのか。こうなることを予想しての行動だったのか...流石は世界トップの軍略家、頭のキレは俺なんか軽く上回ってる。
「ドラグニアは?あそこは人一人完全にいない無法地帯だから使えると思うのだが」
「無法地帯だからこそ危険です。あそこはもうモンストールが支配していると考えた方が良いと思います。戦えない鬼族が暮らすには過酷かと。あとハーベスタンと違ってドラグニアが滅んだことはいち早く世界中に知れ渡っています。ならば既にサントやイード王国の兵士たちの駐屯地として占領されている可能性があります。今は人族たちに遭遇するのはまずい、ですよね?」
「...ハイ。仰る通りです。よし、全部カミラの言う通りに動こう!」
「ふふっ、ありがとうございます。これで目的地は決まりましたね」
完璧な理論・予測に脱帽してカミラの提案に乗った。了承してくれたことにカミラは満足気に笑った。作戦練るにおいてもう彼女の右に出る者はいないねこりゃ。
「...ということだアレン、みんなをハーベスタンに連れてくぞ?ひとまずはそこで暮らしてもらおう」
「うん!文句無いよ。じゃあみんなをまとめて行くから待ってて」
アレンも了承して、早速鬼たちをまとめに行った。今はもう急がなくて良いのだが。まぁとにかくここはさっさと出るのが吉か。もしかしたらサントかイードの人間が監視とかで来る可能性あるかもしれないし。
それに、俺にはここでまだやることがある。この死体の山をこのままにしておくのとすぐバレるだろうし。それを誤魔化す為のカモフラージュを今から行う。
“屍族転生の種”。これを死んだ獣人族全員に埋め込んで、ゾンビとして動かす。
「こいつらを、俺のゾンビ兵として使役する。念の為の戦力確保だ。あと獣人族が滅んだことを隠す為のカモフラージュも兼ねて、だ」
念じた数だけの量の種がその場に現れる。それら全部を自動で死体に埋め込ませる。俺のゾンビ兵軍団の完成!
「そんなアイテムがあったのですね...。コウガと同じ種族がいくつも出てきている」
「こいつらは俺と違って自我が無い。俺の命令に従うだけの道具だ。今はあのまま寝かせたままにしておこう。鬼族たちの為に」
やや戦慄して呟くカミラに返事しながら、這いつくばったまま待機せよと思念を飛ばして命じる。鬼族たちにとって獣人なんてもう見たくねーだろうし。
用事は済んだ。アレンたちも準備できたみたいだし、そろそろ出るとするか。
こうして、アレンと仲間の鬼族たちによる復讐は一旦幕を閉じる。彼女の笑顔が見れてよかったよ、ホント。