辺り一面に、獣人どもの血や肉片が転がっている。全部俺の仕業だ。

 「ひ、ひぃぃぃ...ガッ!」
 「嫌だ、嫌だぁぁ...」
 「こんな、化け物、勝てるわけないって、ぇゲッ...!」

 一人とまた一人、殺して回る。興味深い固有技能持つ奴は噛み殺して奪っていった。
 後半になると普通に殺戮しまくって、気付けば敵は全滅していた。
 泣き叫ぶ様、命乞いをする様、絶望する者怒りや悔しさに震える者などを見ているとやっぱり気持ちが良い。

 結局俺ははムカつく奴らを虐げて遊ぶのが好きらしい。アレン、こんな俺でゴメンなホント。
 けど楽しくて仕方ないんだ。気に入らないムカつく雑魚やクズどもを一方的に痛めつけて苦しめて残酷に殺すのが快感でたまらないんだ!

 この世界でゾンビになってから、そういった気持ちが一層強くなった。ま、今回はそれだけが理由で殺しまくっているわけじゃないのだけど。
 数ある獣人どもの中から珍しい固有技能を手に入れたり、既存の固有技能をさらに強化したりすることが、目的の一つ。

 「狂ってやがる...!こんな残酷なことを、無表情で淡々とやりやがってぇ!これだけ同胞たちを殺して、何とも思っていないのかお前は!?」

 少し離れたところから怒声がした。見れば頭から血を流してふらつきながら立ち上がって俺を非難する虎戦士...ロンブスといった奴だったか?何やら俺がやったことに対してひどくお怒りのようだな。

 「お前にとって獣人族は特に恨みや憎しみなど無いはず。言わば無関係の人族だろ!?なんでここまでのことが出来る!?なんでそんなに淡々と俺たちを殺せるのだ!?」

 フラフラよろめいて俺に近づきながら怒りの形相で疑問をぶつけてくる。あー分かってねーのかコイツは。それこそがもう一つの、簡単な理由だってのに。

 「アレンは俺の“大切な仲間”だ。そんな彼女を害したクズどもは俺の敵だ。だから慈悲も無く当たり前に痛めつけて苦しめてぶっ殺す...シンプルで分かりやすい答えだろ。
 つーかテメーらも鬼族に対して散々虐げて辱めて、殺してきただろうが。
 同じだよ。俺はアレンたちに変わって死んだ鬼族たちの無念や恨みをこうやって晴らしてやってるだけ」

 単純な理由だ。アレンは俺にとっていつの間にか大事な人間...鬼になっていた。同じ復讐者として意気投合した。色々自分のことを話し合って友情が芽生えた。共に行動していくうちに親密な関係となった。彼女を失いたくない人として認識するようになってた。
 そんな彼女が傷ついているところは見たくない。彼女を傷つけるクソゴミカスどもは一人たりとて赦さない。自分が害されたと捉えて存分に復讐して殺す!

 「ぐ...!?く、そぉ......」

 俺の言葉に反論できない虎戦士は悔しさに歯噛みして、力尽きたのか俺のところまであと数歩のところで倒れた。そんな虎野郎を、俺は無表情に止めとして首を噛み千切った。

 「がっ!くぞぉゴプッ...!また...鬼どもに、敗け、たか...」

 そうこぼして虎の獣人戦士は死んだ。それからも俺の殺戮は続く。

 「ギャイン!?」
 「アぎゃあ!!」
 「助け―ギャウン!!」
 「ふぅはははははははは!!死ねぇ犬ッカスどもがあああああ!!このクソ害獣が目障りなんだよ犬が二足歩行してんじゃねぇ犬が人語話してんじゃねぇ!!」

 迫りくる獣兵の中で犬種を積極的に殺して回った。俺は犬がクソ嫌いだ。
 犬は害獣だ。不快な生物だ。以上から積極的にこいつらを根絶やしにする。向かって来る以上はこいつらを積極的に殺す!!

 数分後、俺に向かって来る獣兵はもう現れなかった。辺り一面死体だらけだ。こんなところ現実の動物愛護団体が目にしたら俺は確実に訴えられるだろうなぁ。

 殺戮をしておきながらそんな呑気なことを考えてながら、カミラのところに行く。「魔力防障壁」を解いて終わったぞと声をかける。

 「お疲れ様ですコウガさん。あの軍勢をあっという間に壊滅させるなんて、さすが災害レベルモンストールの群れを潰しただけありますね」
 「いや、今回の敵の総合戦闘力は、Sランクモンストールを倒せるくらはあったぞ。魔族のトップクラスの戦士が集まればそれくらいのレベルにまで達するみたいだな。それなりに遊べたよ。使える固有技能も手に入れたしな」

 労いの言葉をかけてきたカミラにそう返す。獣人族...魔族全ての実力は人族を凌駕している。故ドラグニア王国でザイートの肉を喰っていなかったら、今回はけっこう苦戦していただろうな。
 さっき殺した虎の戦士なんかは能力値平均5000を超えていた。他の奴らも2000~3000はあった。そんなのが数十匹もいたんだ。普通の軍勢だったらあっという間に敗北しているだろうよ。

 ま、今の俺は魔人族以外なら誰が相手だろうが余裕だ。雑魚だ。
 
 「行こうか、アレンたちのもとへ」

 カミラが死体を踏んで転ばないよう彼女の手を引いて歩いた。カミラは嬉しそうに俺の手をギュッと握って、引かれるまま後に続いた。

 破壊された王宮のところまで行くと、傷だらけでボロボロの3人の鬼と、疲れ切って大の字になりながらも、こっちを見てやってやったぞと笑みを浮かべているアレンがいた。
 しゃがんで彼女に手を伸ばすと、掴んでそのまま俺を彼女自身に引き込んだ。当然俺はアレンの胸元に倒れる形になる。カミラやスーロンたちが驚く中、アレンは幸せそうに俺に話しかけてくる。

 「コウガ、これで私も...復讐できたよ。今私凄く満足してる。充実した気分になってる。私自身の憎悪を消しただけじゃなくて、死んでいった仲間たちの無念も晴らせたような気がして、とっても気分が良いの。
 やっぱり間違ってなかった!復讐することは人として間違ってない感情であり気持ちだってこと。コウガも、こんな気持ちになれたんだよね?私やっとコウガのこと全部理解できたんだって思ってる。お互い復讐を果たせたから...」

 ギュッと抱きしめたまま、自分の想いを全て吐露する。復讐達成の余韻にだいぶ浸っているようでよく喋る。それだけ嬉しかったのだろう。

 「アレンも俺と同じ、復讐できてスカッとしたんだな。それで良いんだ。間違ってなんかねーさ。正しいことなんだ。自分と自分のように想っている人を不快にさせ害するクズども・悪は滅ぶべきなんだ、殺されて当然なんだ。生きてちゃいけねーんだ。
 とにかく、よくやったな。格上相手に、よく復讐を果たした」
 「スーロンと、キシリト、ソーンがいたお陰。そしてコウガが他の獣人を相手してくれたから、集中してあいつと戦えた。ありがとうコウガ...!」

 頭を撫でながらアレンを褒めるとお礼を言って俺の髪に顔をうずめた。少し湿り気を感じることから、泣いているのだろう。そんなアレンを、俺は愛しく思うのであった...。

 っていつまでもこの状態でいるわけにもいかないよなぁ。後ろからいくつも視線感じるし。タップして離してもらって振り向くと、カミラが凄く羨ましそうに見つめていて、スーロンたちはややビックリ顔をしていた。

 「やっぱり二人は、そういう関係に...!?」
 「人族と親密関係...興味深い」

 スーロンが興奮して、キシリトが興味津々に、ソーンは目をキラキラさせていた。さっきまで彼らは死闘を繰り広げていただろうに、オンオフしっかりしてやがる。

 「敵の頭を潰したのは良いが、これでまだ終わりってわけじゃないんだよな?リアルタイムモニターで映っていた鬼たちがまだ残っている。あいつらを保護してやっとこちら側の勝利ってことになる」

 俺の言葉にみんながそうだと頷く。俺たちが来たことであいつらを殺すことはしないにしても、人質とか取ってくる可能性は否定できない。
 そこで、生き残りの鬼たちの保護はスーロンたちに任せることに。残りの獣人族どもは今の彼らでも十分殺せるくらいの雑魚だ。非戦闘員しかいないだろうからな。
 3人ともやる気満々に民家の方へ駆けだした。それを見送った後、アレンとカミラを連れてある場所へ向かった。

 そこには、おそらくアレンによってそうなったのだろう、首が無い獣人の王ガンツの死骸があった。
 話があると言って付いてきた先がここだということにアレンが不思議そうに俺に視線を寄越す。

 「話っていうか...まぁコイツを見れば分かると思うんだ...ほら」
 そう言って死骸に指をさすアレンたちもそれを見て...しばらくして二人とも驚愕に目を見開いた。

 
 「え...!?そんな!」
 「まさか、こんな状態だというのに!?」

 驚くのも無理無いだろう。何故なら《《ソレ》》はまだ死体ではなかったのだから。
 切断された首の断面から、新たにその上の部分が生えようとしているのだから。

 「首が、生えようとしている!?」
 「さっき、完全に死んだことを確認したのに...!」

 カミラが恐怖に震えて、アレンがあり得ないと言いたげに戦慄している。

 「タフさが売りだとカミラはそう言ってたな?けど、まさかここまでタフだってことは流石に思っていなかったみたいだな」
 「は、はい...こんな状態になればどんな生物だろうと普通生命活動は終わるはずです。こんなの、初めて見ます」
 「ならコイツが普通じゃないってことだ。この現象の答えが、こいつの固有技能にある」

 「鑑定」した内容を二人に説明する。ついでこいつのステータスの全容も。


ガンツ 80才 獣人族(獅子種) レベル125
職業 戦士
体力 100/10000
攻撃 7500
防御 9990
魔力 1000
魔防 5000
速さ 2500
固有技能 獣人格闘術皆伝 炎鎧《フレイム・アーマー》 咆哮 怪力 神速 魔力光線(炎熱) 超生命体力 限定進化 瘴気耐性 不死レベル1

超生命体力...「生命体力」の上位互換。身体が頑丈になり強靭な肉体となる。生命力も通常の生物に比べて非常に高い。

不死レベル...屍族の肉を喰らうことで得られる属性。最大レベルは3まで。対象の不死レベルは1。



 これが、ガンツの正体だ。体力と攻撃、防御値がとても高い。格闘戦特化の戦士だな...いや獣どもはみんなそうか。だがアレンとカミラが注目したのは、能力値よりもとある二つの固有技能だ。

 「 “瘴気耐性”?それに... “不死レベル”!?」

 どの獣人族にも、いや全ての魔族や人族にも無いだろう、あり得ない技能があることに、二人は信じられないものを見ている顔をした。

 「まるで、モンストールじゃないですか...これって...!」

 落ち着きを戻したカミラが的確な指摘をする。その言葉にアレンがあっと声を上げる。

 「その通りだ。この二つの技能を持っているってことは、こいつはモンストールの力を得ているということになる。さらにこいつ自身の固有技能である“超生命体力”が合わさったことで、今のこの状況が起きている、ってことになるんだろーな。ある意味不死身の肉体を得たってことだ...俺のようにな」
 「それってまさか...!」

 俺の言葉にアレンが何かに気付き思わず叫ぶ。俺と同じ考えにたどり着いたみたいだな...。

 
 「こいつも俺と同じ、《《モンストールの肉を喰ってきた》》クチだ。それで不死性の力を手に入れやがったんだ」

 「「...!?」」

 もっとも、俺程に頻繁に喰ってきたわけじゃないのだろう。3回程度かそれ未満ってところだろう。まさか、俺以外にあいつらを喰って生きていられた生物がいたとは俺も驚いた。

 「初めてこいつと会ってから、ずっと妙な気配がしてたんだ。モンストールと似た死の臭いが...。だから俺だけこの状態に気づけたんだ。ある意味同類だからな...
 なぁそうなんだろ?いつまで狸寝入りコいてるつもりだ?反論があるなら聞くぞ?」

 二人に俺がコイツに気付いた訳を話してから、ずっと死体のふりしているデカ物に声をかける。アレンもそいつに目をやると、その体が...少し動いた。
 あっと声を出してたじろぐカミラに、油断なく構えるアレン。それらをよそに、低い声がデカブツから響いてきた。

 「まさか、俺の正体が見破られるとはな...。よりによって、人族のお前が、俺と同じことをしていたとは、な...。それも、かなり重度に摂取して、あいつらに近づいてやがる...!」

 さすがに致命傷を負ったばかりだからか、身じろぎすら困難な様子で声も途切れ途切れだ。瀕死状態で辛うじて生きながらえているってところだ。

 「俺はテメー以上に特殊だからな。ま、俺のことはいい。今回のことは無関係だからな。だがテメーの固有技能は非常に使い勝手が良い。テメーの肉を喰らう為にここに来た。だがその前に、テメーに用があるだろう人も一緒に連れてきた...アレン」

 そう言ってアレンの肩を軽くたたく。俺の意図に気付いたらしくアレンは小さくありがとうと言ってガンツの前に立つ。

 「悪いが最後は俺に回してくれ。死体になると奪えないからな」
 
 俺の忠告に頷いてから、アレンはガンツの胸倉を掴み上げる。首部分は不気味に蠕動している。生えるまでまだかかるみたいだ。

 「鬼族は、領地は奪っても、お前たちと違って人権まで奪うことはしなかった。知性ある生き物を食糧にしたりしなかった。命を奪うことは、しなかった...!父さんも母さんもそうはしなかった、そうさせなかった。魔族を統一して平和な暮らしを築くことも考えてきた。
 なのにお前たちは、弱った私たちを見て、奴隷にしたり殺したりした!戦争で殺されるのは仕方ない。もし仲間が殺されてもあの時の私は復讐しようとは考えなかった。
 だけどお前たちは戦争していないに関わらず私たちを攻撃して、鬼族を絶滅に追い込んだ!しかもあんな風に虐げたり、辱めて!挙句殺した!!だからこうやって復讐しに来た!今度は私がお前を虐げる番だ!!そして...殺す!!」

 ガンツに恨み言をたくさん述べて、持ち上げた腕をその場で一気に振り下ろしてガンツを地面に思い切り叩きつけた。

 「ぐがっ...!」

 肺の中の空気が全て漏れ出し同時にあばら骨も折れて吐血した。それだけでもちろん終わらず、胴体を何度もクローで引き裂いた。肉を断つ音が静かな空間に何度も響く。同時にガンツの苦悶に満ちた声も響いた。
 地面に叩きつける、引き裂く、殴る、蹴る、連打...色んな攻撃手段を以て動けないガンツを徹底的に痛めつけて虐げている。

 「がっ、ぎゃあ!お、前ぇ...ぐはっ!この痛み、屈辱はぁ!あ”あ”!!絶対にぃぃ!!があああああ!!」

 これだけやられてもガンツは尚もアレンに憎悪に満ちた目を向けていた。肝は据わっているみたいだ。だから獣の王になれたのだろうな。性根はクズだが。

 「お前が鬼族を恨む資格なんて無い。戦争に敗れたからといってただその鬱憤を晴らしてるだけのお前に、復讐する資格なんて無い!理不尽を強いたお前ら獣どもは滅べばいい!!」

 さらに過激にガンツを痛めつける。腕が欠損し、脚も潰れて、血まみれになっていく。その凄惨な光景にカミラは顔を青くする。刺激が強かったらしく目を背けていた。

 やがてガンツに限界がきたらしく、呼吸音が聞こえなくなってきた。潮時だ。
 アレンに触れて交代の合図を送る。血走った目をこちらに向けて、小さく頷いて引き下がった。ギリギリ理性が働いてくれてよかった。本当に殺すかもって思ったしな。

 「もらうぞ、その特殊な技能」

 ガンツにかけられた最期の言葉は、感情が一切無い俺の声だった。
 一瞬でガンツの全身が、俺に喰われてきれいさっぱり無くなった。

 今度こそ、アレンの復讐相手・獣人族のトップが消えた瞬間だった...。