“百獣王”。
 ガンツは自身のことをそう言った。獣人族の種は、昔は百を超える程だったらしく、種族の頂点に立った者は代々その二つ名を継承してきたそうだ。
 今目の前にいる巨漢の獅子男もまたその名を継いだ者。当然その戦闘力は凄まじいのだろう。

 けれど今のこちら側は4人の手練れの鬼族戦士がいる。負ける気がしない。
 4人とも戦意は全く喪失していない。獣人族への怒り・復讐心が動力源となっている。
 それらが燃え尽きない限り私たちが折れることなど無いだろう。

 「この姿になったのは5年前...突如発生したモンストールの大群とやり合った以来か。クク...力が漲る。今なら誰が相手でもぶち殺せる気分だ!」
 
 ガンツが自分の力に酔いながら私たちを見据えて殺気を放つ。けれど誰一人怯むことなく睨み返す。

 口火を切ったのはキシリトだ。巨大な炎の渦を発生させてガンツに襲いかかる。

 「獅子に炎など笑止!こちとら炎は得意分野なんだよ!!」

 ガンツは余裕そうに叫んで腕に真っ赤な炎を纏って、キシリトの炎を容易く打ち砕いた。あいつも私みたいに属性魔法を身に纏うことができるらしい。
 雷の私に対し相手のガンツは炎。魔力が私を上回っていれば勝ち目はほぼ無いだろう。

 「炎か...くそ、俺には水魔法が使えない!なら高火力魔法で炎を消すまでだ!」

 キシリトは負けじと次の魔法を放つ。暗黒魔法による無数のキシリトの姿をとった影(シャドウ)が出現し、一斉にガンツにかかる。
 ガンツは炎で迎え撃つが、影たちに触れた瞬間たちまち炎の勢いが弱まっていく。

 「ぬぅ!?」
 「俺の影たちにはあらゆる属性魔法を弱める効果がついている。お前のその炎の鎧、崩させてもらおう!」
 
 驚愕するガンツに隙を与える暇もなく、影たちを炎にぶつけさせて、炎をかき消した。さらにガンツに直接影が当たると、奴の様子が一変した。

 「体が怠く...!?お前、俺の体力を...!!」
 「魔法に触れれば属性をかき消し、人体に触れればそいつの体力を削っていく。これが俺の暗黒魔法『吸血侵食』だ!
 というわけで3人とも!頼んだ!!」

 影によってガンツの体力を削り動きを止めて、私たちにチャンスを与えてくれたキシリト。十分なサポートだ。頼もしい。
 そしてこのチャンスを無駄にする私たちではない。
 私含む3人の近接戦組が一斉にガンツに接近して、それぞれ必殺級の大技をぶつける!

 「銅鑼撃《どらげき》!」
 ズドォン!
 「隕石鎚《メテオハンマー》!!」
 ガドオォン!
 「雷撃槍!!」
 ドチュウウゥン!!

 スーロンが「剛力」を使った鬼族拳闘術の溜め大技の一撃を。
 ソーンが上から土魔法で固めた両腕をハンマー状で振り下ろして。
 そして私が鎧を両脚に集中させて腹のど真ん中を一点集中狙いで神速の鋭い空中回し蹴りを。

 全員、奴の急所に全力の必殺技を入れることに成功した。確定で急所を叩き込むのが鬼族拳闘術の神髄。技の一つ一つが必殺と言っていいくらいだ。普通敵はこれらの技をくらえば死ぬとされている。

 だけど、これだけ拳闘術をくらっても、獣人族の王を殺すことができずにいた。

 「―――ウォラァアアアアアア!!!」
 
 怒りの形相で、目にも止まらずの速さで両手を振るい、直後私たちの体があちこち切り刻まれた。

 「ぐっ!くぅう...」

 苦悶の表情を浮かべながらガンツから距離を取る。全員、腹や肩にやや深めの切り傷を負うなどの傷を負って、血を流してしまっている。

 息を整えている私たちの間から、キシリトが駆けて行き、ガンツに接近して魔法を放つ。

 「嵐魔法 『圧縮風砲《ブロックエアロ》!!』」

 突き出した片手から圧縮した濃密の風の塊を飛ばした。その風には斬撃効果も含まれている。それがガンツの腕に当たると、深めの裂傷を負わせた。

 「こざかしい影技使いやがってぇ!そんなもので俺を弱らせられると思うなぁ!」

 ガンツから適度に距離を取りながら魔法を撃ち続けて応戦する。だがしばらくしてキシリトの体が元に戻り、その場で膝をついてしまう。
 「限定進化」が切れてしまったのだ。

 「く、そ...とばし過ぎた...。まさか、もう切れるなんて」

 ぜぇぜぇと息を荒げて悔しそうに呻く。好機とみたガンツがキシリトに攻撃を仕掛けるが、スーロンが割って入りこれを防ぐ。

 「私もあと少しで切れる!隙作るからあとは、頼むね!!」

 スーロンも辛そうな顔をしながら私に後を託してきた。そのまま応戦するも、ガンツの方が上手であり、ほぼ一方的に殴られ切られていく。
 救助に行こうとした私だったけど、躊躇われてしまった。スーロンが目でこう訴えてきたからだ。

 “あなたに全て任せる。決めてくれ!”―と。

 私にしかできない。奴を一撃で沈黙させられるだけの一撃必殺技を放つのは、私だけだ、と。

 だから私は敵に集中することにした。
 全神経を研ぎ澄ませて、次の一撃に全ての力・気力を注ぎ込む。
 思い浮かべているのが、“彼”の使っていた技。粗が目立つが決まれば敵は必ず終わる。

 そんな一撃を思い浮かべて、私は「その時」を待ち続ける。
 ソーンも加わって二人でガンツと戦うもやがて窮地に陥る。速さで惑わそうにも奴の尋常じゃない耐久力の前に沈んでしまい、奴の圧倒的武力で肌や臓器、骨が傷つけられていき瀕死の手前まで追い込まれる。

 二人とも苦しみながらも必死に食らいついている。少しでも奴を弱らせる為に、私から気を逸らせる為に。血だらけになり体の中ボロボロになっても彼女たちは退かずに立ち向かい続けた...!

 そして「その時」が来た。

 粘り続ける二人、さらには魔法で妨害を仕掛けてくるキシリトに業を煮やしたガンツがついに隙を見せた。完全に3人に目を向けて大技を放とうとしている。

 それを見た私は、動いた。溜めに溜めたこの一撃を放つべく駆け出した。途中テレパシー的な何かでみんなの声を感じ取った気がした。

 “今だ!決めろ――!!”

 うん!いくよ、決めるよ!
 心の中でそう強く頷いて、溜め体勢に入っているガンツの真後ろから、今まで使ったことないだろう一撃を放った!

 「阿修羅斬《あしゅらざん》」

 雷で切れ味を増した腕刀技。ただ腕だけを振るっただけではない。以前コウガから聞いたあの凄い連携技を使ったのだ。
 彼のようにはいかなかったものの、力の伝達率は凄まじいものだった。使わない方の腕から、胴体から、下半身から。
 全ての部分から力を送ってそれら全てを放出点で出口である右腕に込めて何乗も乗せた力を全てぶつけた。

 結果、何が起きたのかが分かっていないまま呆然とした顔をしたガンツの首が、宙を舞っていた。
 さらに跳躍してその首に無限の拳打(驟雨)を浴びせる。何百目かの拳で、ガンツの首は消滅した。
 少ししてからガンツの身体が仰向けに倒れたのを確認した直後、「限定進化」が解けて私は激しく息をして仰向けになった。

 とてもきつくてしんどいけれど、その顔には爽快感満ちた笑顔が貼りついていた。よたよたと私のところに来たみんなも笑顔だった。

 「アレン...ありがとう。あなたがいてくれなければあのクズを殺せなかった。とても、強くなったね...!」
 「うん、強くなれたよ、コウガとみんなのお陰で!みんながいなければこうはなれなかった!私もありがとうだよ!」
 
 そう言い合ってスーロンと抱き合った。キシリトとソーンも手をつないで拳を合わせてお互い労っていた。

 こうして、4人で力を合わせて信頼し合ってきた私たちの勝利でこの戦いが終わった。