モンストールどもを蹴散らしつつ危険地帯を脱出して、大陸を出るべく港に向かう。6人でも乗れる船だったので買い替えることなくそのまま使用継続する。

 目指すは、俺が異世界で本格的デビューを果たした地であるベーサ大陸。その地にある魔族の国...カイドウ王国。獣人族の国だ。そこに、鬼族がいるとのこと。
 そういえば、排斥派の村でダンテが獣人族のことについて何か言ってたなぁ。
 獣人族は自分たち以上に鬼族を根に持っている、戦士だけじゃなく国民も恨みを持っている、完全にアンチ勢である、とのこと。それゆえもし鬼族を捕えているとしたら、亜人族よりも酷い仕打ちをしている可能性が高いだろうな...。最悪殺しも平然とやっていることも考慮しておいた方がいいな。

 アレンにとってここからが復讐の本番展開になるだろう。厳しい出来事もあるだろうけど、彼女なら耐えられるはずだ。

 ベーサ大陸に着いた頃には日が暮れていた。このあとどうするかアレンに聞くと、獣人族に囚われている仲間たちをすぐに助けたいということで、今すぐ王国へ潜入することとなった。

 アレンの体力を心配したが、今は気にしていられないと本人は奮起して、行くと断言した。見た感じは元気そうに見えるが、長距離移動と仲間の死を目にして、それなりに疲労が溜まっているはずだ。今は大丈夫でも、肝心の場面でガス欠になって復讐できなる恐れがある。
 だからここは、俺が彼女を支えてやらないといけない場面だ。

 「アレンの復讐心・覚悟・仲間想い、伝わった。けど今は少しでも体を休ませておいた方が良い。でだ...乗り心地は保障しないが、しばらく俺が背負ってやるから、そこで休んで―」
 「ありがとっ!コウガの背中っ♪」

 言い終える前にアレンが勢いよく俺の背中に乗り、全身をそこに委ねてきた。胸の感触や柔らかく上等な筋肉の感触が背中に全部伝わってきた。はっはっは、役得なり。
 このあとカミラも鬼3人も、俺たちに同行するということで、全員で獣人族の国へ行くこととなった。

 「一緒に行くか?それとも宿で待つか?」
 「行きます!行かせて下さい!戦力にはなれませんが、道中獣人族のことについて色々教えられますから!」
 
 なぜかやる気満々というか、悔し気な顔をしながら同行願いしてきたカミラ。

  「私たちも連れて行ってほしい!アレンと一緒に戦いたい!私も仲間たちを救いたいって思ってるから!」
 「俺も同意見だ!もうこれ以上仲間がいなくなるのは厭なんだ。戦力としては問題無い。あの地獄を二度も乗り越えてきた。今更獣人族相手に後れをとらないさ。だから頼む、俺も戦力に加えてくれ!」
 「アレン姉ちゃん!私もみんなを助けたい!姉ちゃんが私たちを助けてくれたように、今度はこのみんなで助けに行きたい!」

 スーロンもキシリトもソーンも、それぞれ決意を固めていて覚悟も見られた。戦力も問題無いだろう。あんな危険地帯で生き残っていたんだ、たかが獣人族の住処くらいなんてことないだろう。アレンに視線でどうする?と問いかけたところ是非同行を!、という感じでオーケーした。パーティ編成完了。
 新たに戦力も増えて良い感じだ。せっかく仲間になったことなんで、全員のステータスを見てみた。


スーロン 20才 鬼族(鬼人種) レベル66
職業 戦士
体力 3000
攻撃 3900
防御 3900
魔力 2500
魔防 2900
速さ 2900
固有技能 剛力 堅牢 鬼族拳闘術皆伝 咆哮 大地魔法レベル6 限定進化


キシリト 21才 鬼族(吸血鬼種) レベル72
職業 戦士
体力 5000
攻撃 3500
防御 3500
魔力 5000
魔防 3500
速さ 3900
固有技能 吸血 炎熱魔法レベル7 雷電魔法レベル6 嵐魔法レベル6 暗黒魔法レベル7 魔力光線(炎熱 雷電 暗黒) 魔力障壁 神速 咆哮 自動回復 限定進化


ソーン 13才 鬼族(吸血鬼種) レベル50
職業 戦士
体力 3000
攻撃 5100
防御 5000
魔力 1000
魔防 2500
速さ 5000
固有技能 吸血 金剛力 堅牢 土魔法レベル5 神速 咆哮 見切り 鬼族拳闘術皆伝 自動回復 限定進化

 かつて魔族トップクラスと言われていただけあって、能力値・固有技能ともにレベル高い。鬼族には種類があるらしく、ここでは全体の多くを占める人種の鬼人種、希少とされている吸血種が見られた。
 ラノベや漫画で読んだ通りで、吸血鬼には回復能力が備わっているらしい。もっとも、不死性は無いそうだが。
 いちばん注目したのがソーンだ。レベルはいちばん低いが、能力値が二人に比べて高く、伸びしろもある。限定進化も使えるそうなので期待できる。

 「頼もしい仲間だ。じゃあよろしくな。行こう」

 俺の言葉に全員頷き、屋台で買い食いで腹ごしらえして王国を出る。カミラの案内で以前は行かなかった道を通り、無人の荒野を進む。
 やがて大きな城が見えて今まで見てきたような城壁が立っている。

 さぁ着いたぞ、獣人族の国の、カイドウ王国。アレンにとって正念場で過酷な戦い、そして復讐タイムとなるだろう。俺はアレンを支えてやる。仲間として、パートナーとして...。

 今回は「迷彩」で隠れることなく、真正面から入ることにした。悠長にコソコソ探ってられないし、疑いが強いこの国相手にそんな余裕は皆無だ。
 堂々と入国しようとする俺たちを見た犬種の門兵二人が立ちはだかる。そこで後ろにいるスーロンたちを見やると顔色を変えた。

 「鬼族...!?この国外で生き残りがまだいたというのか!?」
 「4人もいやがるぜ!?鬼族がいったい何しに来た!?」

 アレンたちにガンをとばして武器を...ここでの兵たちは己の爪や牙を構えてきた。聞いた通り、鬼族に対して敵意全開だ。殺す気でさえいるな。
 それよりも、今の発言...確信できたな。この国には鬼族がいると。

 「仲間たちと会いに、そして救いに来た。仲間たちはどこにいるの?」
 「テメーら鬼どもに答えることは無い!」

 門兵の問いに対するアレンたちの答えは、突撃だった。門兵どもに対しスーロンとソーンがそれぞれ立ち向かう。二人とも格闘戦が得意としている。相手も近接戦闘向けらしいし、ここは二人が適任だろう。
 そしてあっという間に門兵を返り討ちにした。

 「こいつらに訊くよりも中にいるそれなりに位が高い奴らに訊くのがいいかもしれないな」

 キシリトの提案に全員賛成する。この門兵どもは口を割る気は無いらしいし、もう用無しだな。そう思いながら、通信機っぽい物に手をかけている門兵に水魔法でつくった氷柱を投げ飛ばした。

 「「ガヒュ!?」」

 喉を貫かれた二人は声を詰まらせ血を吹き出して絶命した。別に仲間呼んでくれて構わないのだが、とりあえず口封じをしておいた。
 あっさり殺してみせた俺を、スーロンたちは驚愕していた。

 「ここからは今のように躊躇いなく魔族...獣人どもを殺さなければならなくなると考えた方が良い。お前たちにやれるか?躊躇の無い殺人が」

 大事なことなのでしっかり聞いておかなければならない。俺の意を読めたのか、3人とも真剣に頷いてくれた。うん、これなら大丈夫そうだ。
 改めて、カイドウ王国へ侵入だ。

 獣人族の国は、人族の王国と違って緑が多い様相だ。デカい樹木がいくつもあり草原も広がっている。さらに川も流れていて、完全に自然大国だ。獣の国に相応しい光景だな。
 パルケ王国の様相をきょろきょろ眺めていると、その様子を訝しんで見た獣国民の一人が、悲鳴を上げた。

 「お、鬼族族が外にいる!?奴隷魔族が何でここにいるの!?」

 女獣の叫びを聞いて俺たちに近づいてきたのは、フレンズたち...ではなく、険しい顔をした獣人どもだ。皆、アレンやスーロンを目にすると青ざめたり、怒りや憎しみをあらわにしたりと、負の視線・感情を嫌と言う程浴びせられるハメに遭う。
 
 「テメーらは何者だ!?なぜ鬼がこんなところでうろついていやがる!?」
 「忌々しい!あの角を見るだけで虫酸が走る!!」
 「鬼は大人しく牢獄へ行くか俺たちにこき使われていろ!!」

 などと罵声怒声がとんでくるだけではなく、石までとんできた。俺とキシリトが「魔力障壁」を張って防ぐ。アレンが前へ出て獣どもに殺意を込めた威嚇を放った。

 「「「ヒィッ!!?」」」

 瞬間、辺り一面に冷たい殺気が充満した。獣どもはもちろん、スーロンたちやカミラ、俺でさえ怯むくらいにもの凄かった。
 いつのまにこんな殺気を放てるようになったのか、頼もしく思うと同時にヒヤッとした。いつもの俺が見ているアレンとはまるで別人だ。あんな般若顔なんて普段は絶対に俺に見せたりはしない。

 というかカイドウ王国に入って以降、アレンがかなり殺気立ってピリピリしている。それだけ仲間のことを想い必死なんだろう。
 今の彼女はまるで、元クラスメイトどもを前にした時の俺みたいだ。

 「余計なことしなければ殺さないでいてあげる。答えて、仲間たちはどこ?」

 冷たい声音でいちばん近くにいる女獣に尋問する。震えながらアレンの問いに答える。

 「大半は王宮内で奴隷扱いを受けている。鬼どもを捜しているならそこへ行けば確実だ...」

 アレンは黙ったまま視線の先を睨む。王宮を目指しアレンたちは侵攻する。