甲斐田皇雅という人間を一言で表すと、「傍若無人で屈しない男」...だろうか。

 幼い頃から喧嘩っ早い性格で、よく他の子どもたちと殴り合いしていた。ムカついた奴は絶対ブッ倒したいと思い、小学校へ上がると同時に格闘技を習った。学校の休み時間は、体力つけるためによくグラウンドを走り回り、授業受ける時はいつも汗だくだった。
 それをからかってきたクラスメイトを低学年では問答無用でボコり、馬鹿にする奴を締めてきた。高学年では、陰口言ったり、からかうだけなら無視するスタイルを通していた。だが、私物を隠したり、汚したしする奴ら、数人集まって俺を締めようとする奴らには容赦無しに反撃した。時には格闘技を使い、クラスメイトの関節や骨を破壊したこともあった。そのせいあって、誰も俺にちょっかいかける奴はいなくなったが、友達は一人もいなかった。
 クラスメイトの親が俺本人に苦情を言いにきたこともあった。骨折させるのはやり過ぎだ、とか。それに対する俺の返事は、

 (手を出してきたのはそっちだ。俺の教科書や上履きをボロボロにしたり、体操着を隠されたりもした。俺の悪口も言った。暴力だけじゃなく、器物損壊や名誉毀損まで被ったんだ。それ相応の報いを骨折程度で済ませたんだ。つーか、どういう教育すれば、虐めなんてすようなクズになるのかねー?
 親のテメーがクズだから、その子どもも同じクズになるんだろうが!)

 と怒鳴り返した。今に思えば幼稚な反論だったが、自分を害する奴はぶっ潰すというスタンスを貫く自分は間違っていないと自負していた。

 中学に入ると、走るのが好きな俺は陸上競技部へ入り、3年生になる頃は、短距離エースになってた。そして俺を取り巻く学校生活も変わらず、害してくる奴らは鍛えた格闘技で返り討ちして潰しまくってきた。
 そんなことを繰り返していると誰も俺にちょっかいをかけなくなった。虐めはなくなったものの、誰も俺と友達になろうともしなくなってしまった。


 高校では流石にやり過ぎると退学など自分に不利益なことになるため、いくらか自重することにした。周りの奴らは、やっていいこと悪いことの分別がつく高校生ということもあり、俺を直接害する奴はいなかった。
 そう、「直接」は…だ。

 「それ」が起きたのは2年生のこと。つまり今のクラスの間でのことである。元々一人で過ごすのが好きな俺は、クラスの中心である生徒主催の交際には全く参加しなかった。月に1回の頻度で遊びに行くものだが、毎回適当に断り、休みの日は自室でラノベや漫画、ゲームを満喫することに決めていた。平日が部活なので、趣味のこれらを消化できるのは必然日曜とかになるのだから仕方ない。

 だが、いつまで経って誘いに乗らず、クラスの輪に入ろうとしない俺を良く思わない奴が出て来た。その筆頭が大西雄介だ。この男は小中学時代で虐めの主犯と同じようなゴミ野郎だった。

 秋に入る頃、登校して、自分の席に座り授業の準備をしようとしたら、机の中の教科書がズタボロにされていた。朝のHRでそのことをクラス全員と先生に告げ、誰か俺の机で怪しい行動した奴はいなかったかと聞くが誰も反応しなかった。この時、俺にとってツイてなかったのが、こういうことに真っ先に答えてくれるだろう高園縁佳が欠席していたことである。彼女なら、犯人を吊るしてくれただろうに。
 いや、彼女じゃなくても、誰かが言ってくれれば良かったのだ。それ以前に、高校生にもなってまだこんな陰湿行為をするクズがいたことに軽く衝撃を受けた。
 結局その場では犯人が分からずに終わった。その後も、俺の私物が度々汚されたり、紛失したりなどの事件が起きた。

 ある日俺は犯人を特定すべく、放課後、いつも休まず参加していた部活を休み、上履き以外の私物を回収しておき、下駄箱付近で張り込みをしていた。そして、俺の下駄箱に近づく気配がいくつも。未遂だと白を切るだろうから、事が済むのを待ち、下駄箱を後にするタイミングを読んで、一気に現場に駆け出し、犯人グループの一人を捕らえた。その正体は...大西だった。

 (やっと尻尾を出したな。ブン殴りたい気持ちは山々だが、器物損壊罪で警察に突き出すとするか、テメーら)
 (は、はぁ?何言っちゃってるわけ?警察とか大げさかよっ!)
 (はいはい、ほざいてろ、どのみち加害者だろうが。よくて停学だが、何度も俺の私物をああもしてくれたんだ。慰謝料もふんだくれるかもなぁ) 

 背後から拳を振りかざす気配が。余裕で躱せるが、あえて当たることに。俺を殴ったのは山本純一。何とも、腰の入ってない雑魚パンチか。だが、先に手を出したのは向こうだ。...これで、おあいこにできる。
 殴られて、何ともない様子の俺に怯んだ山本に、腰の入った左ストレートを奴の胃あたりに思い切り叩き込む。山本は声も出せないまま崩れ落ちて横たわる。すると大西が
 (うわっ!暴力ふるいやがった!!)
 と、大声でほざく。誰かに聞こえるくらいというのが質が悪い。

 (はぁ?先に殴ってきたのそいつだろうが。しかもこれだけのことやっといてまだそんなことが言えるのかよ。どんだけ面の皮厚いんだよ?笑えるわー)

 だが、この後先生が通りかかり、この場は一旦お開きに。翌日、HRでこの一件を告発して、このクズどもに社会的制裁を下そうとしたが、なんと、クラスのほとんどがクズどもを庇いやがった。それどころか、大西たちを悪者扱いして山本を殴った俺が非難される側に。
 
(先に殴ったのは山本だって言ったよな?だったらあいつも非難されるべきだろうが!俺は、今回の被害者で、殴ったのも正当防衛だ!)
 (だからと言って、気を失うまですることでもないじゃないか!?正当防衛にしては過剰だ!それに、大西たちが今までお前の私物をどうこうした証拠もない無い以上、犯人呼ばわりするのはどうかと思うなぁ!)

 里中を中心にクラスメイトたちが大西たちを庇い俺を非難する構図に。ここにきて俺は理解した。そういう事か。簡単なことだ。だからあの時こいつらは誰も何も言わなかったんだ。

 (証拠はお前らだろ?つまりお前ら全員がグルになって大西らの犯行を黙認して、俺の問いかけに答えず、ただ黙って見ていただけ。ある意味、犯罪幇助だこれは。お前ら全員、同罪だ!!)

 生徒一人一人を睨みつけながら、はっきり言ってやった。誰も俺に反論する奴はいない。

 (甲斐田の言ったことは本当か?)
 先生の問いかけに答える奴はしばらく経ってようやく出てきた。

 (...はい。皆で黙って、ただ見てました。)
 答えたのは里中と同じ学級委員の中西晴美(なかにしはるみ)

 (ちょっと、なにバラしてるのよー)
 と頭悪い喋り方で自白したのが鈴木保子(やすこ)

 (はい、言質取れましたー。先生、ふさわしい処分お願いしますね?)
 (けど、甲斐田君もやり過ぎだと、思う。)

 自信満々にそう言うが、そこで声をあげる奴が。高園縁佳だ。
 (確かに、大西君たちは悪いことしたと思う。でも甲斐田君も過剰に仕返ししてしまった。お互いに悪いところはあったんだし、もう止めない?こんなことするの。)
 (...お前も、このクズどもを庇うのかよ?)
 (違う!ただ、同じクラスメイトなんだし、お互い許し合ってもう終わりにしてほしくて...甲斐田君も私たちと同じクラスの仲間なんだし...仲間同士でこんなの、よくないよ。)

 この女は、こんな奴らと俺を仲間でひとくくりにしようとしてるのか?おめでたい女だあほらしい。

 (だから今後は、甲斐田君もクラスの輪に入って仲良くしよう?ね?)

 つまり、今までのことを水に流して、仲直りしよう、と言いたいのか。どこまでおめでたいのか。笑えてくる。というか、思わず笑ってしまった。

 (あのな、高園。俺は一人で過ごすのが好きなんだ。お前らは時々みんなで遊んでるようだが、俺は、部屋で趣味の読書やゲームをして遊ぶのが好きなんだよ。好きで一人になってるわけよ。それを、こいつらが勝手因縁付けてちょっかいかけてきたんだ。俺の平穏を勝手に乱しておいて仲間もクソもあるか!)

 そこまで言って俺は席に座った。つーか、もうどうでもよくなってきた。気分は晴れないが、言いたいことこれだけ言えばガス抜きにはなれただろう。高校は暴力行為をすればいられなくなるんだし、もういいや。
 周りの奴らも今度こそ誰も口を開かなくなった。誰も俺の言い分に言い返す語彙力に自信が無いのだろう。せいぜい感じ悪いだの自分勝手だのとしか言えないのだろう。人間の大半が自分勝手な生き物だというのに。むしろ俺は誰よりも正直な人間だと自信持って主張できる。陰でネチネチこそこそする雑魚よりよっぽどマシな人間だ。

 そして結局、お互いに非があったことで今回の事件はなかったことにするという無能すぎる先生の判決で幕を閉じた。大方、学校の評判を落とさないためとか下らない大人の事情だろうが。こうして俺は、真の意味でクラスで「孤り」となった。

 誰とも親しくならず、誰も俺に近づくことなく、学校行事は全て欠席、教室は俺にとって狭苦しい牢屋そのものへと変貌した。学校内ではまだ部活があり、クラスメイトもいないから、そこが俺の居場所だった。
 
 まったく、俺にとってスクールライフは碌でもないことばかりだ。俺は平穏なスクールライフを望んでいたのに、邪魔するカスがいたから、排除しただけなのに。
 俺が変わった人間だからか?周りと違うことばかりしてると異端児扱いか?
 誰も傷つけたり迷惑かけたりしていないのに。
 出る杭はどうしても打たなければ気が済まないのか?
 そっとしてくれれば良かったじゃねーかよ?
 俺はこういう人間だって理解して、なら放っておこうって無視すればそれで終わりだろうが。いちいち、ちょっかいかけるから、痛い目に遭うんだろうが。逆恨みしてんじゃねーよ気持ち悪い。

 理不尽だ。俺にとってあそこは......社会というのは理不尽でクソッたれなところだ。



 そして、この異世界も.........現実社会(あっち)と同じだ。