俺…甲斐田皇雅は、今の状況をどう対処するかで頭がいっぱいだった。
俺を見捨てたクラスメイトたち。俺を最弱だの役立たずだのと嘲笑い見下す視線を浴びせてきた王族ども。
俺がこの目に映った奴らの最後の顔は、侮蔑と嘲笑を浮かべた表情、俺を囮にしたことで助かると思い安堵した表情、当然の結末だと言いたいような表情などだった。
あいつらへの激しい憎悪で今にも発狂しそうになるが、まずはこの絶望的状況をどうにかしなければ、と平静さを取り戻そうと気持ちを切り替えた。
早く動いてこの暗くて冷たい場所から脱出しなければ...。頭では分かっていても、ダメージが深刻だったため、這って進むのが精一杯だ。
「...両脚の感覚が全然無い...。これじゃあ走るどころか歩くことさえも...クソがぁ、せめてヒールスキルさえあれば......」
ズリズリと必死に這って進むが移動した距離は自分の身長2つ分がやっとだ。
「早く、早くここから出ね―と、あの化け物どもに...!!『グルああああああああ』
...は?」
這って進むこと数分、前方から震え上がる程、獰猛な唸り声が響いた。暗闇から大きな影がズンズンと床を踏み鳴らし近づいてくる。次第にその影が鮮明に形となって見えてくる。
「.........」
俺のところまでやってきて見下ろしているのは、目玉が4つでナイフを思わせる鋭い歯をたくさんそろえた化け物。俺を捉えたその双眸からは、獲物を食らおうとする様子しか見られない。
「ははっ、ゲームオーバーか?あのクソカスども殺すこともできずにここで死ねってか?こんな絶望と屈辱と怒り、憎しみを抱いて!死ねっていうのかよぉ!!...ゲホッ!」
終わった。俺の人生こんなところで無惨に終わる。平和だったあの世界のままいれば、陸上部で高校最後の全国大会に出て、来年は充実した大学ライフ送って、好きな漫画やラノベシリーズこれからいっぱい読みまくる、そんな人生だったろうになぁ...。
それもこれもこうなったのは、勝手に召喚した王族どものせい。俺が今こうして無様に倒れているのは、あのクズ王子の命令はもちろん、最弱の俺を見下し罵り、しまいには見捨てた最低クソッタレなクラスメイトども...!
再び激情に駆られている中、気づけば、化け物の数が増えていた。前後左右囲まれ、ここから逃れられる可能性はゼロと言っていい。
しかし、俺はこいつらに対する恐怖や絶望よりもクラスメイトや王族への憎悪で身を焦がしていた。許さない。この激情全てを奴らにぶつけたい。一人残らずぶっ殺したい。
俺に向かって大口開けて迫ってくる化け物を見据え、俺は憤怒や憎悪を湛えた表情で誰ともなく呻いた。
「絶対に許すかよ...全員ぶっ殺す!!!」
そして、目の前が真っ暗になるとともに、意識も闇に沈んだ。