「というわけで優勝は、開始49秒でゴールしたこの少年! 【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】使いの冒険者クリスぅ~!!」

 小一時間後、王城の中庭に設置された舞台上にて。
 参加者や観客に見つめられながら、僕は司会で四天王のレヴィアタン様に紹介される。

「拍手!!」

 レヴィアタン様の合図にしかし、

 …………ぱちぱちぱちぱち

 拍手はまばらだ。
 それどころか、

「「「「「ブーブー!」」」」」

 選手の中からブーイングが!

「納得いかねぇ!」

「そーだそーだ! 【瞬間移動(テレポート)】じゃねぇっつっても実質【瞬間移動(テレポート)】みてぇなもんじゃねぇか!」

「まぁまぁ諸君!」

 と、ここでいきなり目の前に魔王様が現れた!
 魔王様が舞台下の観客たちに向かって腕を広げ、

「余が――このルキフェル13世が認めたのだ!」

「「「「「ま、魔王様!?」」」」」

 観客が仰天する。

「とは言え中には納得しかねる者もいるだろう。クリスよ、そなたの【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】で、実力を見せてやってはくれないか?」

「じ、実力ですか……? か、かしこまりました。では陛下、少しお離れ下さい。――【収納(アイテム)空間(・ボックス)】」

 僕は舞台の上に、一本の木を横倒しに出現させる。
 森狩りで魔物やら盗賊やらを【収納】するときに、周囲の木々を一緒に【収納】しちゃうんだよね。

「「「「「なっ……」」」」」

 ビビる観客と、

「いや、あのくらいの容量なら、大したことない――」

 反発する選手の方。

「いまから、この木を薪にします!」

「「「「「薪……?」」」」」

「【収納(アイテム)空間(・ボックス)】!」

 葉と枝を収納し、まずは木を丸太にする。
 次に、

「ん~……【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】!」

 丸太の中に薪状の切れ込みをイメージし、【収納】する。
 続いて、

「【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】!」

 無事、均等な長さ・幅に切り出すことができた薪の山を、舞台上に出現させる。

「「「「「ぅぉおおおおおッ!?」」」」」

 驚いてくれる選手の方々と観客の皆様。

「【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】」

 薪を収納し、

「あとは――…お~いノティア!」

「はいは~い」

 観客の中からノティアが手を上げる。

「え、ノティア……?」

「Aランク冒険者の!?」

「『不得手知らず(オールマイティー)』が来てるのか!?」

 驚いている観客は置いておいて、

「結界をお願い!」

「はいはい――【物理防護結界(マテリアル・バリア)】」

 ノティアが僕以外――観客と選手、魔王様、レヴィアタン様を結界で取り囲む。

「いまから【収納(アイテム)空間(・ボックス)】で空を飛びます」

 言いながら空を見上げ、必要十分量の大気を見極め、

「【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】!!」

 大気を【収納】する。
 唯一結界に守られていない僕の体が、空に引っ張り上げられる。
 僕は空高く舞い上がり、ちょうど自由落下が始まるくらいになってから、

「【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】!」

 足元に【収納】口を発生させ、その中に飛び込む。
 そして、同時に舞台上に発生させた【収納】口から出てきて、何とかかんとか無事、着地する。

 ……あぁ、怖かった!

『こんなの反則だ!』って言われた場合に備えて、練習してたんだよね。
 けどこの技はあくまでノティアの結界によるサポートがなければ周囲が大惨事になるから、本レースでは使えないんだけれど。

「このようにして、空を飛ぶことも一応、できます」

「「「「「お~~~~ッ!!」」」」」

 盛り上がる観衆の皆さん。
 ……良かった。ウケてるようだ。

「あっはっはっ! いや、十分だ!」

 魔王様が僕の背中をバンバンと叩き、

「どうだ諸君、これでも余の決定に不満か?」

 文句を言っていた選手の方々が首を振っている。

「では改めてぇ……」

 レヴィアタン様が僕の腕を高らかに掲げ、

「拍手!!」

 わぁぁあああ……という歓声とともに、万雷の拍手が鳴り響く。

「それではこちら優勝賞品、海神蛇(リヴァイアサン)の魔石です!!」

 レヴィアタン様が舞台の陰から台車を運んでくる。
 台車の上に載っているのは――

「で、でっか!?」

 直径1メートルはあろうかという超巨大な魔石!!
 ゴブリンとかオークのなら小指の先くらいのサイズとか、大きくても拳くらいのサイズだというのに!

「ほら、少年よ!」

 魔王様が巨大魔石をひょいっと抱えて、

「優勝おめでとう!」

 僕に渡す。

「うぉぉおっ!? 重たッ!?」

 思わず取り落としそうになって、

「あっはっはっ、そりゃあアリソンの魔力がぎっしり詰まっているからなぁ!」

 魔王様が魔石を抱えなおし、台車の上に戻してくれる。
 それから僕の肩をバンバン叩いて、

「ともかく、おめでとう!!」


   ■ ◆ ■ ◆


 レースの後、僕はなんと、魔王様のお茶会にお呼ばれしてしまった。
 といっても、参加者は魔王様と僕、途中で合流したノティアだけだけど。

「いやぁ、それにしても見事な【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】だな!」

 魔王様が褒めて下さる。

「【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】はアリソンが最も得意とする魔法だったんだ。アリソンにこそ及ばないが、そなたの【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】も相当な威力だな。それだけ使いこなすには、いろいろと工夫や訓練が必要だったんじゃないか?」

「い、いえ……わたくしがこのように上手になれたのは、すべてお師匠様のおかげでございまして。【収納(アイテム)空間(・ボックス)】で物を切ったり、分離させたり、空を飛んだり、空間を繋げたりといったものはすべて、お師匠様から教えて頂いたんです」

「ふむ。Aランク冒険者のノティア姫か。教師としてはこの上ないな!」

「「い、いえ」」

 僕とノティアの声が重なる。

「クリスく――クリスさんに魔法を教えたのは、わたくしではございませんわ、陛下」

「ほう、そうなのか?」

「はい。アリスと名乗る魔法使いの冒険者がおりまして」

「アリス……アリス……」

 アリス。
 この国の主神の御名にして、先王のお名前にして、この国で最もありふれた女性の名前。

「余はそのアリスとやらに会ってみたい。連れて来てもらえないか?」

「ははっ!」

 ノティアがうなずいて、

「恐れながら、【瞬間移動(テレポート)】使用のご許可を頂いても?」

「許す」

「それでは――【瞬間移動(テレポート)】」

 ノティアが姿を消す。
 お師匠様ももちろんこのお茶会に誘ったんだけど、青い顔をして『儂ゃ遠慮する』って宿に帰っちゃったんだよね。
 あとシャーロッテも『恐れ多いから』って言って帰った。
 やがて、

「嫌だ! 儂は行かない! 着ていく服がない――って何勝手に【瞬間移動(テレポート)】してるさね!?」

 ノティアに羽交い絞めにされてるお師匠様が現れた。
 もみくちゃになっているお師匠様と魔王様の目が合って、

「しまっ――」

 お師匠様が咄嗟に顔をそらし、

「――――――――アリソンッ!?」

 魔王様が歓喜としか言いようのない、それはそれは嬉しそうな表情で、叫んだ。