「また貴様か!!」

 お貴族様が、太った体を揺らして喚き散らす。
 ……うるせぇよ。俺だって好き好んでてめぇの顔なんて見に来ちゃいねぇ。

「西の森の集落から人を離れさせる為の工作がまったく上手くいっていないというのに、金の無心ばかりしてくる乞食めが!!」

 そりゃ、生まれたときからいい家に住んで美味いもん腹いっぱい食っていい服着て上等な教育を受けてきたてめぇみたいな豚から見れば、冒険者なんて乞食も同然だろうよ。

「申し訳ございません!」

 ……とは思うが、顔に出すわけにはいかない。
 俺は必死な表情を作って謝罪する。

「ただ本日は、重大なご報告がございまして」

「何だ! 冒険者クリスとやらが、また何かしでかしたのか!?」

「まさにその通りでございます。クリスが百人以上の西王国民を拉致し、(くだん)の街に監禁しているのです」

「な、な、な……」

 領主サマが口をパクパクさせている。

「なんということを……さすがにもう見過ごせん! 直接呼び出してやる!」

 お貴族サマが、自慢のカツラをかきむしる。

「貴様は引き続き工作を続けろ! 新しく来た難民どもを扇動し、あの地が危険であると、住むに値しない土地であると喧伝させるのだ!」

 ゴロツキを街で暴れさせるのは上手くいかなかった。
 盗賊の真似事も失敗した。
 ……だったら、話どころか言葉も通じない、本物の悪意をぶつけてやろうじゃないか。
 もとより自分たちの故郷を捨てて逃げてきたような薄情な連中だ。
 あの街がとても住めたものじゃないような危険なところだと思い知れば、すぐにも離れていくに違いない。
 そのとき、あの街をにぎわす元凶たる行商人どもの心も一緒に話してくれれば――。


   ■ ◆ ■ ◆


「町長様ぁ~! クリス様ぁ~ッ!!」

 翌日の午前、出来上がったばかりの農村をノティアと一緒に巡回していると、ミッチェンさんが必死の形相で駆け寄ってきた。

「はぁっ、はぁっ、た、たた、大変、大変なんです!!」

「ど、どうしたんです……?」

「領主様――フロンティエーレ辺境伯様からの召喚です!!」

「……え?」

 リョウシュサマ?

「えぇぇぇえええええええええええッ!?」