翌朝、

「【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】!!」

 西の森の東に広がる草原で、目の前に広がる広大な地面を深さ数十センチほどまでごっそりと【収納】する。

「「「「「おぉぉぉおおおおおおッ!?」」」」」

 後ろで見物している難民の方々から驚嘆の声と歓声が。
 腹いっぱい食べてぐっすり眠ったからなのか、みな元気なように見える。

 ここは、中央通りからやや北に登った地点。
 わずかに傾斜になった平野だ。
 いまからここに、農村を作る。

「――【目録(カタログ)】」

 お馴染みのウィンドウを表示させ、大量の土の中から岩や石、草を取り除き、

「【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】!」

 土の半分を戻す。
 このとき、ミミズは殺さないように細心の注意を払う。
 そしてその上に、西の森から持ってきた腐葉土を――

「【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】!」

 乗せる。
 次に、

「【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】!」

 目の前に、大量の骨――一角兎(ホーンラビット)から分離させた骨を出し、

「ノティア、これ、砕いて乾燥してもらえる?」

 隣にいるノティアがうなずいて、

「肥料ですわね。――【念動(サイコキネシス)】」

 骨が宙に浮いて、

「【風の刃(ウィンド・カッター)】」

 風の初級魔法のはずだけれど、ノティアの手から放たれた無数のかまいたちによって、骨が一瞬で木っ端みじんになる。

「【乾燥(ドライ)】」

 そして骨が、一瞬にして水気を失う。

「「「「「な、ななな……」」」」」

 驚いている難民さんたちと、

「ありがとう、ノティア」

 もはや慣れっこになってしまった僕。

「じゃ次はこれを――【収納(アイテム)空間(・ボックス)】」

 言ってノティアの前に大量の草を出す。

「これは――灰にすればよいんですの?」

「おおっ、よく知ってるね!」

「農業は国の根幹ですもの」

 そうか、ノティアは末席とはいえお姫様だった。
 かくいう僕は、灰が肥料になるというのをお師匠様から教えてもらった。
『魔力養殖』の最中に、いろいろとお話してもらえるんだよね。
 その中に『農業基礎講座』ってのがあって、曰く『三大肥料はチッソ、リンサン、カリウム』とか言うらしくって、詳しくは理解できなかったけれど、要は灰が重要な肥料になるらしいんだよね。

「【火炎(ファイア)】」

 ……なんて考えている間に、ノティアが上質な灰を大量に作ってくれた。

「【収納(アイテム)空間(・ボックス)】」

 僕は骨と灰の肥料を【収納】し、

「【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】!」

 目の前の耕した部分の上に、まんべんなく肥料を出現させ、

「【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】!」

 さらにその上に、残りの土をかぶせる。

「よし! じゃあ最後に――【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】……」

 肥料、腐葉土入りの土を何度も入れたり出したりしてかき混ぜて、完成だ。

「こんな感じですが……どうでしょうか? 農業はよく知らないので、ちょっと自信はないのですが……」

 後ろで目を真ん丸にしていた村長さんに話しかける。

「お、おぉぉ……」

 村長さんは即席の畑に駆け寄り、土をすくい上げて、

「す、素晴らしいぃ~~~~ッ!!」

 振り向いた村長さんの目には涙が浮かんでいる。

「これほどの上質な畑があれば、この地でも十分にやっていけそうです! あぁ、神様……」

「畑神様の誕生ですわね」

 隣のノティアが茶化してくる。

「もぅ……じゃあ次はっと」

 僕は虚空から、ミッチェンさんが一夜で引いてくれた農村の地図を開く。


   ■ ◆ ■ ◆


 そんなふうにして、道を作り畑を作りあぜを作って回った。
 お昼前には、数十の畑が完成した。
 難民の人たちは、見物しながらやんややんやの大興奮だったよ。
 そうして急ごしらえした農村の一角でシャーロッテが入れてくれたお茶を飲んで休んでいると、

「あの、町長様?」

 村長さんがおずおずと聞いてくる。

「ところどころ空いているスペースは何なのでしょう? そこにも畑を入れた方が――」

「あぁ、皆さんが住むための家を入れるんですよ」

()()()()()!?」

「あとは、川も引き入れます」

()()()()ぅ!?」


   ■ ◆ ■ ◆


 少し北上した地点から川の支流を作り、いつものように舗装した。

「じゃあ、流しますよ~! 危ないから川から離れてください!」

 すべての舗装が終わり、あとはノティアが【物理防護結界(マテリアル・バリア)】でせき止めている部分を接続するだけになって。
 川の周りに群がる難民さんたちに向かって声を張り上げる。

「じゃ、ノティア」

「はい」

 ノティアが展開していた【物理防護結界(マテリアル・バリア)】が消え、川の本流から勢いよく水が流れ込んでくる。

「「「「「おぉぉぉおおおおおおッ!?」」」」」

 大興奮の難民の方々。
 あはは……最近じゃ僕とノティアが新たに川を引いても、みんな慣れっこになっちゃって誰も驚いてくれないから、逆に新鮮だ。

「町長様ぁ~~~~ッ!!」

 とそのとき、南の方からミッチェンさんが走ってきた。

「家の手配、できました! こちら、30軒分の空き家のリストと連絡相手です」

 ミッチェンさんが差し出してきた紙束を受け取る。

「さすがミッチェンさん!」

 本当に仕事が早い!

「じゃあ僕とノティアで行ってきますので、あとの差配はお願いできますか?」

「お任せください!」

「クリス君、わたくしにも見せてくださいな」

「うん」

「じゃあまずは、王都から参りましょうか――3、2、1、【瞬間移動(テレポート)】!」


   ■ ◆ ■ ◆


 途中、王都のレストランでノティアとの食事を挟みながら、王都といくつかの大都市を回り、空き家を回収した。
 いや、ノティアに連れていかれたレストランがものすごい高級店で、気が引けたんだけど、『わたくしが出しますから! 後生ですから!』なんて言われちゃね……。
 そして、午後は農村へ空き家を移築して回った。

 こうして、一日にして百数十人が住めるだけの農村が現出した。