午後、発展した街並みを散歩する。
最初はシャーロッテとふたりで出るつもりだったのだけれど、気がつけばお師匠様とノティアもついてきている。
「あ、町長様!」
「道神様だ! ありがたやありがたや……」
道行く人や、店を構えている人たちからは、挨拶されたり拝まれたりする。
そして、
「うっす、町長うっす!」
「ちあーっす!」
巡回警備中の冒険者たちからは勢いよく頭を下げられる。
何というか、
「恐れられてる……? この僕が……?」
「そのようさね」
「みんな、ようやくクリス君の良さに気づいたのですわ!」
「――あっ、クリスさん!」
ふと、通りの向かい側からエンゾが駆け寄ってきた。
ドナとクロエも一緒だ。
「もう体は大丈夫なんすか!?」
「大丈夫大丈夫。いやぁ……エンゾたちも一緒に戦ってくれてたのに、僕だけ気を失ったり寝込んだりしちゃって恥ずかしいよ……」
「し、仕方ないっすよ! 初めての『殺し』のあとはみんな少なからずそうなるって、先輩の誰かが言ってたっす」
「いやぁ、そう言ってもらえると……」
「それより、どうっすか!?」
なぜか自信満々な様子で胸を張るエンゾ。
「どうって、何が?」
「冒険者たちの、クリスさんを見る目っすよ!」
「うん……?」
なんか、妙に敬意を表されているというか、恐れられているように思う。
「クリスさんの奥義・【集団首狩り収納空間】のことは、街中に広めておきましたから!」
「お前かぁ~ッ!!」
■ ◆ ■ ◆
「らっしゃいらっしゃい!! いま話題の手回し蓄音機とレコードだよ!」
「安いよ安いよ! 串焼き2本で1ルキ! 今朝捌いたばかりの新鮮な一角兎肉だよ!」
街はますます賑わっていて、科学王国の珍しい道具を売る店や、商人や客を目当てに料理を提供する屋台が軒を連ねている。
そして、
「そこの兄ちゃん、冒険者かい? 西王国のいい剣が揃ってるよ!」
科学王国製の武具を売る店も。
「剣? 剣に東西の違いなんてあるの?」
僕の素朴な疑問に、
「大ありっすよ! 西王国の剣は粘りがあって、なかなか欠けないし折れないって評判っす!」
エンゾが答えてくれる。
「クロスボウがすごいんですよ!」
と、興奮気味に話すのはドナだ。
彼がマジックバッグから取り出したのは鉄製のクロスボウで、全身がとても小さい。
「照準眼鏡がめちゃっくちゃ強力なんです」
ドナがクロスボウから細い筒のようなものを取り出して見せる。
「ほら、覗いてみてください」
「どれどれ……うわっ!?」
ちょうどこちらを見ていたお師匠様の青い瞳の色で視界が埋まった。
「え? え? え? 何これ」
「あははっ、もうちょっと遠くを見てください」
言われて空を見上げると、遠くにあったはずの雲がものすごく近くに見える。
「矢が恐ろしく真っすぐ飛ぶ上に、この照準眼鏡で遠くから狙えるんです。科学王国、すげぇ国っすよ!」
「へぇぇ……」
「でも、防具は全然ないのよね」
と、これはクロエ。
「これだけ強い武器があるなら、それに見合った分厚い鎧とかありそうなものなのに」
「あははっ。小娘、面白いこと言うねぇ」
クロエの発言を、なぜかお師匠様が笑う。
「科学王国の主力は銃や砲だ。銃弾を防げる鎧と言えば分厚いプレートアーマーだが、兵士たちにそんなものを着込ませていたら行軍や銃撃戦で邪魔になるし、どの道、砲撃は防げない。だから、西王国の鎧は薄っぺらいのさ」
「「「「「ん~?」」」」」
エンゾ、ドナ、クロエ、ノティア、そして僕が、お師匠様の発言に疑問符を投げかける。
「いや、銃って」
みんなを代表して僕が言う。
「銃なんて、真っすぐ飛ばないじゃないですか。それなら、ドナが持ってるようなクロスボウを主力にした方がまだマシですよ。科学王国はバカなんですか?」
「実際にその目で確かめて見るとよい。――行くよ」
「どこへ?」
お師匠様と僕の、なんだか懐かしいやり取りだ。
「射撃場さね」
■ ◆ ■ ◆
パァーンッ――…
びっくりするほど大きな音が鳴り響く。
いつの間にかできていた『射撃場』と呼ばれる広場に入ると、商人ギルドの人が耳全体を覆うような耳栓を貸してくれた。
射撃場では、西の武器商と思しき男性が、慣れた手つきでライフル銃に火薬と弾丸を詰め、さっさと棒で押し込んで射撃体勢に入り、100メートルは距離がありそうな先の的に向かって、
パァーンッ――…
「【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析】――ど真ん中に命中だ、腕もすごいが精度もすごい」
お師匠様がうなずく。
「雷管式の先込め銃――旋条式マスケットさね。さすがの武器商たちも、後装式銃は持ち込まなかったか。いや、あれは民間にはまだ解放されてなかったかね?」
「ど、ど真ん中に命中って……あの距離でですか!?」
はっきり言って、僕は仰天している。
銃というのはもっとこう、狙っても狙ったところに当たらないシロモノのはずだからだ。
「施条、さね。銃身の中に螺旋状の溝が入っていて、弾丸がそこを通る間に横回転が加わり、弾の進行方向が安定するんだよ」
「「「「「ラ、ライフリング……」」」」」
「つまり、西王国の銃は狙って撃てば当たる。当たるからこそ銃が軍の主力となり、鎧が廃れていったってわけだ」
「がっはははっ! すげぇなその銃!」
ふと、いましがた銃を撃った武器商の、その隣にいた前衛職風の冒険者がそう言った。
びっくりするほど声が大きい。
「その銃と俺の盾、どっちが硬ぇか勝負させてくれ!」
「フェン……相変わらずのおバカぶりですわね……」
僕の後ろで、ノティアがため息をついた。
最初はシャーロッテとふたりで出るつもりだったのだけれど、気がつけばお師匠様とノティアもついてきている。
「あ、町長様!」
「道神様だ! ありがたやありがたや……」
道行く人や、店を構えている人たちからは、挨拶されたり拝まれたりする。
そして、
「うっす、町長うっす!」
「ちあーっす!」
巡回警備中の冒険者たちからは勢いよく頭を下げられる。
何というか、
「恐れられてる……? この僕が……?」
「そのようさね」
「みんな、ようやくクリス君の良さに気づいたのですわ!」
「――あっ、クリスさん!」
ふと、通りの向かい側からエンゾが駆け寄ってきた。
ドナとクロエも一緒だ。
「もう体は大丈夫なんすか!?」
「大丈夫大丈夫。いやぁ……エンゾたちも一緒に戦ってくれてたのに、僕だけ気を失ったり寝込んだりしちゃって恥ずかしいよ……」
「し、仕方ないっすよ! 初めての『殺し』のあとはみんな少なからずそうなるって、先輩の誰かが言ってたっす」
「いやぁ、そう言ってもらえると……」
「それより、どうっすか!?」
なぜか自信満々な様子で胸を張るエンゾ。
「どうって、何が?」
「冒険者たちの、クリスさんを見る目っすよ!」
「うん……?」
なんか、妙に敬意を表されているというか、恐れられているように思う。
「クリスさんの奥義・【集団首狩り収納空間】のことは、街中に広めておきましたから!」
「お前かぁ~ッ!!」
■ ◆ ■ ◆
「らっしゃいらっしゃい!! いま話題の手回し蓄音機とレコードだよ!」
「安いよ安いよ! 串焼き2本で1ルキ! 今朝捌いたばかりの新鮮な一角兎肉だよ!」
街はますます賑わっていて、科学王国の珍しい道具を売る店や、商人や客を目当てに料理を提供する屋台が軒を連ねている。
そして、
「そこの兄ちゃん、冒険者かい? 西王国のいい剣が揃ってるよ!」
科学王国製の武具を売る店も。
「剣? 剣に東西の違いなんてあるの?」
僕の素朴な疑問に、
「大ありっすよ! 西王国の剣は粘りがあって、なかなか欠けないし折れないって評判っす!」
エンゾが答えてくれる。
「クロスボウがすごいんですよ!」
と、興奮気味に話すのはドナだ。
彼がマジックバッグから取り出したのは鉄製のクロスボウで、全身がとても小さい。
「照準眼鏡がめちゃっくちゃ強力なんです」
ドナがクロスボウから細い筒のようなものを取り出して見せる。
「ほら、覗いてみてください」
「どれどれ……うわっ!?」
ちょうどこちらを見ていたお師匠様の青い瞳の色で視界が埋まった。
「え? え? え? 何これ」
「あははっ、もうちょっと遠くを見てください」
言われて空を見上げると、遠くにあったはずの雲がものすごく近くに見える。
「矢が恐ろしく真っすぐ飛ぶ上に、この照準眼鏡で遠くから狙えるんです。科学王国、すげぇ国っすよ!」
「へぇぇ……」
「でも、防具は全然ないのよね」
と、これはクロエ。
「これだけ強い武器があるなら、それに見合った分厚い鎧とかありそうなものなのに」
「あははっ。小娘、面白いこと言うねぇ」
クロエの発言を、なぜかお師匠様が笑う。
「科学王国の主力は銃や砲だ。銃弾を防げる鎧と言えば分厚いプレートアーマーだが、兵士たちにそんなものを着込ませていたら行軍や銃撃戦で邪魔になるし、どの道、砲撃は防げない。だから、西王国の鎧は薄っぺらいのさ」
「「「「「ん~?」」」」」
エンゾ、ドナ、クロエ、ノティア、そして僕が、お師匠様の発言に疑問符を投げかける。
「いや、銃って」
みんなを代表して僕が言う。
「銃なんて、真っすぐ飛ばないじゃないですか。それなら、ドナが持ってるようなクロスボウを主力にした方がまだマシですよ。科学王国はバカなんですか?」
「実際にその目で確かめて見るとよい。――行くよ」
「どこへ?」
お師匠様と僕の、なんだか懐かしいやり取りだ。
「射撃場さね」
■ ◆ ■ ◆
パァーンッ――…
びっくりするほど大きな音が鳴り響く。
いつの間にかできていた『射撃場』と呼ばれる広場に入ると、商人ギルドの人が耳全体を覆うような耳栓を貸してくれた。
射撃場では、西の武器商と思しき男性が、慣れた手つきでライフル銃に火薬と弾丸を詰め、さっさと棒で押し込んで射撃体勢に入り、100メートルは距離がありそうな先の的に向かって、
パァーンッ――…
「【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析】――ど真ん中に命中だ、腕もすごいが精度もすごい」
お師匠様がうなずく。
「雷管式の先込め銃――旋条式マスケットさね。さすがの武器商たちも、後装式銃は持ち込まなかったか。いや、あれは民間にはまだ解放されてなかったかね?」
「ど、ど真ん中に命中って……あの距離でですか!?」
はっきり言って、僕は仰天している。
銃というのはもっとこう、狙っても狙ったところに当たらないシロモノのはずだからだ。
「施条、さね。銃身の中に螺旋状の溝が入っていて、弾丸がそこを通る間に横回転が加わり、弾の進行方向が安定するんだよ」
「「「「「ラ、ライフリング……」」」」」
「つまり、西王国の銃は狙って撃てば当たる。当たるからこそ銃が軍の主力となり、鎧が廃れていったってわけだ」
「がっはははっ! すげぇなその銃!」
ふと、いましがた銃を撃った武器商の、その隣にいた前衛職風の冒険者がそう言った。
びっくりするほど声が大きい。
「その銃と俺の盾、どっちが硬ぇか勝負させてくれ!」
「フェン……相変わらずのおバカぶりですわね……」
僕の後ろで、ノティアがため息をついた。