「――…クゼーション】! 【精神安定】!」
「っは――」
僕は飛び起きる。
僕に魔法をかけてくれていたらしいお師匠様が厳しい顔つきで、
「いいかい、落ち着いてお聞き」
けれど、お師匠様の顔を見る前に、そこら中に転がる盗賊の首無し死体が目に入ってしまった。
「――うっ」
猛烈な吐き気。
「【精神安定】! 儂の話に集中しな! そこの商人、まだ助かるかもしれないんだ!」
――――え?
見れば、仰向けに寝かされた行商人の男性が、ノティアの治癒魔法を受けている。
男性はピクリとも動かず、そして全身がどす黒く染まっている。
「息は、ある。が、猛毒が全身に回っちまって儂の【大治癒】でも太刀打ちできない。だが、お前さんの力で体内の毒を【収納】できれば――」
か、体中に回った猛毒『だけ』を【収納】!?
そんな、もし間違って血肉を【収納】しちゃったら、それこそこの人は死んでしまう――。
「放っておいたらこの男は死ぬ。だけど、やれる自信がないのなら、やらないのもありさね。下手に失敗して【無制限収納空間】を怖がるようになってはもらいたくない。――が」
――そのとき、部屋の隅で震える母子と、目が合った。
すがるような、目。
「……や、やります。やらせてくださいッ!」
■ ◆ ■ ◆
「【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析】! 続いて【視覚共有】」
お師匠様の視界の中、横たわる男性の体の至るところでうようよと蠢く毒が見える。
「うわっ……」
思わず上げてしまった声を飲み込む。
「安心おし。お前さんはただ、いつものように【無制限収納空間】を使うだけでいい」
「はい。――――【無制限収納空間】ッ!!」
――――果たして、男性の体を蝕む毒は、すべて消えた。
「よし、よし! ――【大治癒】!」
続いて師匠の治癒魔法により、どす黒く濁っていた肌が急激にきれいになっていく。
「ふぅ……お前さんたち、もう安心しな」
お師匠様が母子へ優しく告げる。
「こいつは、助かった」
「あなた――ッ!!」「お父さん――ッ!!」
■ ◆ ■ ◆
「それで、お前さんの【無制限収納空間】のレベルはどうなったさね?」
未だ意識の戻らない商人男性と、その母子は、ノティアが【瞬間移動】で街に連れて行ってくれた。
エンゾたちも一緒だ。
エンゾたちは最初、何人もの盗賊の首を狩りとってしまった僕を恐れていたようだったけれど、すぐにいつものように接してくれた。
……まぁ、かくいう僕が盗賊たちを殺害するや否や気絶して、目覚めて速攻吐こうとしたのを見て、僕の『僕らしさ』を見て、だいぶ落ち着いたようだった。
【瞬間移動】する直前には、『これでCランク候補だぜ!』って狂喜乱舞してたよ。
……そうして、いま。
お師匠様から「やることがあるさね」と言われて、僕とお師匠様はこの場所――盗賊たちの死体が散乱する洞窟奥の部屋に佇んでいる。
「れ、レベルって――…そ、そんなことより僕、う、生まれて初めて人を殺して……」
「大事なことさね」
「っ――」
お師匠様の命令は絶対服従だ。
「【ステータス・オープン】――あ、レベル5に上がってます」
「よし! じゃあ、【収納】したこいつらの首をここに出しな」
「は、はい――…【収納空間】」
地面の上に、8つもの生首が転がる。
「うっ――」
「吐くなら【収納空間】の中に吐きな!」
「うぉえぇぇ……」
「さて、金目のものは頂いて、死体はノティアが戻ってきたら燃やしちまうよ」
死体はアンデット化して人を襲いかねないから、火葬するのは分かる。
けど――
「は、剥ぎ取るんですか、死体から……?」
いくら盗賊が相手だからって、それはあまりに――…
「死体を見たら剥ぐのは基本さね。躊躇するようじゃ、旅人なんてやってられないよ」
「――…」
7人分の死体を前にして、随分と冷静なお師匠様。
お師匠様ってもしかして――
「お師匠様、その……答えたくないなら答えなくて結構ですけど、ひ、人を殺したこと……ありますか?」
「……………………――――あるよ」
「そう、ですか。あ、あの……それはどういう」
――聞くな、聞かない方がいい、絶対。
「どういう状況で……?」
「そりゃ、今回みたいに盗賊や追いはぎを殺した場合もあれば――…」
お師匠様は口をつぐみ、それから、
「……ま、これ以上は秘密さね。儂もまだお前さんには嫌われたくない」
「き、嫌いになんてなりませんよ!」
「そうかい?」
お師匠様がニヤリと笑う。
「可愛いことを言ってくれるが……儂の過去を知って、果たして幻滅せずに済むかねぇ」
■ ◆ ■ ◆
盗賊の体から金目の物を剥ぎ取り、洞窟の中も漁って。
ノティアが【瞬間移動】で戻ってきてくれたので、彼女の魔法で盗賊たちの体を火葬した。
首は、盗賊討伐の証拠として冒険者ギルドに届けることになった。
「っは――」
僕は飛び起きる。
僕に魔法をかけてくれていたらしいお師匠様が厳しい顔つきで、
「いいかい、落ち着いてお聞き」
けれど、お師匠様の顔を見る前に、そこら中に転がる盗賊の首無し死体が目に入ってしまった。
「――うっ」
猛烈な吐き気。
「【精神安定】! 儂の話に集中しな! そこの商人、まだ助かるかもしれないんだ!」
――――え?
見れば、仰向けに寝かされた行商人の男性が、ノティアの治癒魔法を受けている。
男性はピクリとも動かず、そして全身がどす黒く染まっている。
「息は、ある。が、猛毒が全身に回っちまって儂の【大治癒】でも太刀打ちできない。だが、お前さんの力で体内の毒を【収納】できれば――」
か、体中に回った猛毒『だけ』を【収納】!?
そんな、もし間違って血肉を【収納】しちゃったら、それこそこの人は死んでしまう――。
「放っておいたらこの男は死ぬ。だけど、やれる自信がないのなら、やらないのもありさね。下手に失敗して【無制限収納空間】を怖がるようになってはもらいたくない。――が」
――そのとき、部屋の隅で震える母子と、目が合った。
すがるような、目。
「……や、やります。やらせてくださいッ!」
■ ◆ ■ ◆
「【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析】! 続いて【視覚共有】」
お師匠様の視界の中、横たわる男性の体の至るところでうようよと蠢く毒が見える。
「うわっ……」
思わず上げてしまった声を飲み込む。
「安心おし。お前さんはただ、いつものように【無制限収納空間】を使うだけでいい」
「はい。――――【無制限収納空間】ッ!!」
――――果たして、男性の体を蝕む毒は、すべて消えた。
「よし、よし! ――【大治癒】!」
続いて師匠の治癒魔法により、どす黒く濁っていた肌が急激にきれいになっていく。
「ふぅ……お前さんたち、もう安心しな」
お師匠様が母子へ優しく告げる。
「こいつは、助かった」
「あなた――ッ!!」「お父さん――ッ!!」
■ ◆ ■ ◆
「それで、お前さんの【無制限収納空間】のレベルはどうなったさね?」
未だ意識の戻らない商人男性と、その母子は、ノティアが【瞬間移動】で街に連れて行ってくれた。
エンゾたちも一緒だ。
エンゾたちは最初、何人もの盗賊の首を狩りとってしまった僕を恐れていたようだったけれど、すぐにいつものように接してくれた。
……まぁ、かくいう僕が盗賊たちを殺害するや否や気絶して、目覚めて速攻吐こうとしたのを見て、僕の『僕らしさ』を見て、だいぶ落ち着いたようだった。
【瞬間移動】する直前には、『これでCランク候補だぜ!』って狂喜乱舞してたよ。
……そうして、いま。
お師匠様から「やることがあるさね」と言われて、僕とお師匠様はこの場所――盗賊たちの死体が散乱する洞窟奥の部屋に佇んでいる。
「れ、レベルって――…そ、そんなことより僕、う、生まれて初めて人を殺して……」
「大事なことさね」
「っ――」
お師匠様の命令は絶対服従だ。
「【ステータス・オープン】――あ、レベル5に上がってます」
「よし! じゃあ、【収納】したこいつらの首をここに出しな」
「は、はい――…【収納空間】」
地面の上に、8つもの生首が転がる。
「うっ――」
「吐くなら【収納空間】の中に吐きな!」
「うぉえぇぇ……」
「さて、金目のものは頂いて、死体はノティアが戻ってきたら燃やしちまうよ」
死体はアンデット化して人を襲いかねないから、火葬するのは分かる。
けど――
「は、剥ぎ取るんですか、死体から……?」
いくら盗賊が相手だからって、それはあまりに――…
「死体を見たら剥ぐのは基本さね。躊躇するようじゃ、旅人なんてやってられないよ」
「――…」
7人分の死体を前にして、随分と冷静なお師匠様。
お師匠様ってもしかして――
「お師匠様、その……答えたくないなら答えなくて結構ですけど、ひ、人を殺したこと……ありますか?」
「……………………――――あるよ」
「そう、ですか。あ、あの……それはどういう」
――聞くな、聞かない方がいい、絶対。
「どういう状況で……?」
「そりゃ、今回みたいに盗賊や追いはぎを殺した場合もあれば――…」
お師匠様は口をつぐみ、それから、
「……ま、これ以上は秘密さね。儂もまだお前さんには嫌われたくない」
「き、嫌いになんてなりませんよ!」
「そうかい?」
お師匠様がニヤリと笑う。
「可愛いことを言ってくれるが……儂の過去を知って、果たして幻滅せずに済むかねぇ」
■ ◆ ■ ◆
盗賊の体から金目の物を剥ぎ取り、洞窟の中も漁って。
ノティアが【瞬間移動】で戻ってきてくれたので、彼女の魔法で盗賊たちの体を火葬した。
首は、盗賊討伐の証拠として冒険者ギルドに届けることになった。