「……み、皆さん、よくお集まりくださいました!」
震える声を必死に抑えながら、それでも必死に声を張り上げる。
「報酬の条件は冒険者ギルドで聞いての通り! そして、たったいま建ったこの建屋が、皆さんの宿です!」
「「「「「うぉおおお!!」」」」」
嬉しそうな雄たけび。
「み、皆さんに注意事項がふたつ! ひとつは、みなさんの食にまでは面倒は見切れないということです! 毎日の給金の範囲内でこの街で食料を買い求めるか、西の森で兎狩りをするかは皆さんにお任せします!」
「ま、そんなところだろうな」「文句はねぇよ」みたいな声がちらほらと上がる。
「そしてふたつ目! これが最も重要なことですが、報酬欲しさに無実の人を連行しないこと! もし発覚した場合、即座にこの仕事からは罷免します!」
「「「「「――――……」」」」」
黙り込む冒険者たち。
やがて、
「…………か弱い女性が強姦されるまで傍観してろってこと?」
女性冒険者の声が上がった。
「無実と有実の線引きってどこよ?」
「せっかく捕まえても無報酬だったらやる気なくしちまうんだけどなぁ~」
「有罪かどうかは誰が決めんだよ、誰が」
続いて、男女様々な声が上がる。
……失敗した。いやでも、実際上がってくる声はもっともなものばかりだ。
「す、すみません! では最初の内は、少しでも疑わしいものは制圧・連行可とします!! その後、事例を積み上げて、じょじょに線引きを決めさせて頂ければと――…」
「うーん……」
「しゃーねぇんじゃねぇの? こういうのって、初めての試みなんだし」
「その、『線引き』ってのは明確にしてくれるんだろうな?」
「は、はい!」
僕は声を張り上げる。
「『線引き』については、たったいま建てたこの建屋――警備員の詰め所の掲示板に、常時最新のものを掲載するとお約束します!」
「……うん」
「いいんじゃねぇか?」
「ま、最初だしな」
「ありがとうございます!!」
賛成意見が出始めたところで、僕は慌てて幕を下ろしにかかる。
「では、この建屋はどうぞご自由にお使いください! 部屋は早い者勝ちですよ?」
「「「「「うぉぉおおおおッ!?」」」」」
建屋に突進していく冒険者たち。
ふぃ~なんとか乗り切った!
「……あぁっ、ハラハラした!」
「うふふ、よくがんばりましたわね」
ノティアが親か姉のようなことを言ってくる。
「助け舟を出してくれてもよかったんだよ……?」
思わず恨み節を吐いてしまうも、
「うふふ、たまにはクリス君の男らしいところも見てみたいじゃない?」
さらっと返されてしまう。
「うぅ……じゃあ、僕らも行きますか」
これから、あの荒くれ者たち相手に、誰がどの時間帯にどこを巡回するかを話し合って決めなきゃならないんだ。
素案はミッチェンさんが作ってくれたけれど、対冒険者折衝は手伝ってくれないらしい。
曰く、「こういうのは強い方が陣頭指揮を執るものです」なんて言ってたけど……僕、なぁんも強くないんだけどなぁ。
「あら、強いと思いますけれど」
「……へ? あれ、僕、声に出てた?」
「ええ、ばっちり」
「うわぁ……」
「でも、さっきだってゴロツキ3人相手に、自他ともに手傷を負う・負わせることなく相手を無力化できたじゃないですの。わたくしやアリスさんの補助もなしに。十分――かどうかは相手によりますけれど――強いですわよ?」
「直接捕まえたのはノティアじゃないか」
「でもあの時点で、ゴロツキたちは恐慌状態に陥っていましたわ。クリス君だけでは捕縛には至らなかったかもしれませんけれど、撃退はできていましたわよ。それに――」
ノティアが冷たく笑う。
「それでも相手の戦意が失せないのならば、指の一本でも【収納】して差し上げればよろしいのですわ」
「ヒッ……」
ノティアの時折見せる『歴戦の冒険者』然とした冷徹なところが、僕はまだちょっと苦手だ。
■ ◆ ■ ◆
詰め所1階の会議室で割り振りの為の打ち合わせをした。
やっぱり夜の街の中心あたりが一番人気だった。そりゃいかにもケンカとかいさかいがたくさん起きて実入りがよさそうだもの。
逆に夜の西の森東端は不人気。夜に魔物と出くわすのは誰だって嫌だものねぇ……。
すわ争いになるかと内心ハラハラしてたんだけど、僕がお願いしたらみなあっさりと了承してくれた。
中には、僕に話しかけられたら顔を真っ青にしてガクガクとうなずく人も。
なんてこった、恐れられているんだ、この僕が。
かつて僕を足蹴にしたこの人たちから!
■ ◆ ■ ◆
ノティアと一緒に猫々亭で昼食を摂る。
相変わらず今日も、オーギュスがカウンターの片隅を陣取ってる。
何でいるんだよ……護衛任務でも受けてるのか?
顔を合わせたくないので、手早く食べて席を立つ。
ノティアには悪いかなと思ったけれど、ノティアもご飯を食べるのはものすごく早いんだよね。
このあたりも、歴戦の冒険者らしさを感じさせる。
午後も街を回りながら警備員の仕事ぶりを見て回り、夕方、いつもの『魔力養殖』に間に合うように屋敷に帰ると、門の前にミッチェンさんと数名の商人ギルド職員がいた。
…………みな、一様に青い顔をしている。
「あっ、町長!!」
ミッチェンさんが駆け寄ってくる。
「ど、どうかしたんですか?」
「その……今日の昼過ぎには戻ってくると届け出ていた東の行商人の方が、まだ戻って来ておらず……」
「…………え…………」
嫌な予感が、する。
震える声を必死に抑えながら、それでも必死に声を張り上げる。
「報酬の条件は冒険者ギルドで聞いての通り! そして、たったいま建ったこの建屋が、皆さんの宿です!」
「「「「「うぉおおお!!」」」」」
嬉しそうな雄たけび。
「み、皆さんに注意事項がふたつ! ひとつは、みなさんの食にまでは面倒は見切れないということです! 毎日の給金の範囲内でこの街で食料を買い求めるか、西の森で兎狩りをするかは皆さんにお任せします!」
「ま、そんなところだろうな」「文句はねぇよ」みたいな声がちらほらと上がる。
「そしてふたつ目! これが最も重要なことですが、報酬欲しさに無実の人を連行しないこと! もし発覚した場合、即座にこの仕事からは罷免します!」
「「「「「――――……」」」」」
黙り込む冒険者たち。
やがて、
「…………か弱い女性が強姦されるまで傍観してろってこと?」
女性冒険者の声が上がった。
「無実と有実の線引きってどこよ?」
「せっかく捕まえても無報酬だったらやる気なくしちまうんだけどなぁ~」
「有罪かどうかは誰が決めんだよ、誰が」
続いて、男女様々な声が上がる。
……失敗した。いやでも、実際上がってくる声はもっともなものばかりだ。
「す、すみません! では最初の内は、少しでも疑わしいものは制圧・連行可とします!! その後、事例を積み上げて、じょじょに線引きを決めさせて頂ければと――…」
「うーん……」
「しゃーねぇんじゃねぇの? こういうのって、初めての試みなんだし」
「その、『線引き』ってのは明確にしてくれるんだろうな?」
「は、はい!」
僕は声を張り上げる。
「『線引き』については、たったいま建てたこの建屋――警備員の詰め所の掲示板に、常時最新のものを掲載するとお約束します!」
「……うん」
「いいんじゃねぇか?」
「ま、最初だしな」
「ありがとうございます!!」
賛成意見が出始めたところで、僕は慌てて幕を下ろしにかかる。
「では、この建屋はどうぞご自由にお使いください! 部屋は早い者勝ちですよ?」
「「「「「うぉぉおおおおッ!?」」」」」
建屋に突進していく冒険者たち。
ふぃ~なんとか乗り切った!
「……あぁっ、ハラハラした!」
「うふふ、よくがんばりましたわね」
ノティアが親か姉のようなことを言ってくる。
「助け舟を出してくれてもよかったんだよ……?」
思わず恨み節を吐いてしまうも、
「うふふ、たまにはクリス君の男らしいところも見てみたいじゃない?」
さらっと返されてしまう。
「うぅ……じゃあ、僕らも行きますか」
これから、あの荒くれ者たち相手に、誰がどの時間帯にどこを巡回するかを話し合って決めなきゃならないんだ。
素案はミッチェンさんが作ってくれたけれど、対冒険者折衝は手伝ってくれないらしい。
曰く、「こういうのは強い方が陣頭指揮を執るものです」なんて言ってたけど……僕、なぁんも強くないんだけどなぁ。
「あら、強いと思いますけれど」
「……へ? あれ、僕、声に出てた?」
「ええ、ばっちり」
「うわぁ……」
「でも、さっきだってゴロツキ3人相手に、自他ともに手傷を負う・負わせることなく相手を無力化できたじゃないですの。わたくしやアリスさんの補助もなしに。十分――かどうかは相手によりますけれど――強いですわよ?」
「直接捕まえたのはノティアじゃないか」
「でもあの時点で、ゴロツキたちは恐慌状態に陥っていましたわ。クリス君だけでは捕縛には至らなかったかもしれませんけれど、撃退はできていましたわよ。それに――」
ノティアが冷たく笑う。
「それでも相手の戦意が失せないのならば、指の一本でも【収納】して差し上げればよろしいのですわ」
「ヒッ……」
ノティアの時折見せる『歴戦の冒険者』然とした冷徹なところが、僕はまだちょっと苦手だ。
■ ◆ ■ ◆
詰め所1階の会議室で割り振りの為の打ち合わせをした。
やっぱり夜の街の中心あたりが一番人気だった。そりゃいかにもケンカとかいさかいがたくさん起きて実入りがよさそうだもの。
逆に夜の西の森東端は不人気。夜に魔物と出くわすのは誰だって嫌だものねぇ……。
すわ争いになるかと内心ハラハラしてたんだけど、僕がお願いしたらみなあっさりと了承してくれた。
中には、僕に話しかけられたら顔を真っ青にしてガクガクとうなずく人も。
なんてこった、恐れられているんだ、この僕が。
かつて僕を足蹴にしたこの人たちから!
■ ◆ ■ ◆
ノティアと一緒に猫々亭で昼食を摂る。
相変わらず今日も、オーギュスがカウンターの片隅を陣取ってる。
何でいるんだよ……護衛任務でも受けてるのか?
顔を合わせたくないので、手早く食べて席を立つ。
ノティアには悪いかなと思ったけれど、ノティアもご飯を食べるのはものすごく早いんだよね。
このあたりも、歴戦の冒険者らしさを感じさせる。
午後も街を回りながら警備員の仕事ぶりを見て回り、夕方、いつもの『魔力養殖』に間に合うように屋敷に帰ると、門の前にミッチェンさんと数名の商人ギルド職員がいた。
…………みな、一様に青い顔をしている。
「あっ、町長!!」
ミッチェンさんが駆け寄ってくる。
「ど、どうかしたんですか?」
「その……今日の昼過ぎには戻ってくると届け出ていた東の行商人の方が、まだ戻って来ておらず……」
「…………え…………」
嫌な予感が、する。