「道を開けよ! 道神様のお通りであらせられるぞ!」

 ノリノリなミッチェンさんと、

「「「「「ありがたやありがたや……」」」」」

 本気なのか僕をおちょくっているのか、拝み倒してくる商人さんたちやギルド職員さんたち。

「は、恥ずかしいからやめてください!」

 そうして、西の森の東端、数日前に西に向かって一直線に木を伐採した地点に立つ。

「【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析(アナライズ)】!」

 お師匠様が杖を振り上げ、森上空の空が一瞬だけ真っ赤な魔方陣で満たされる。
 後ろでは、何十人と集まった野次馬たちが『おぉぉおおお~~~~ッ!!』って驚いている。
 ふふん、僕のお師匠様はすごいんだぞ?

「道の上と、左右数十メートルに人はいない。野生動物はそれなりにいたが、気にせず【収納】すりゃいいさね」

「はい!」

「【視覚共有(シンクロナイズド・アイ)】」

 僕は目を閉じ、お師匠様の視界を借りる。
 お師匠様の視界では、いまから掘削すべき地面2メートル分の土が白く輝いて見える。

「いきます! 【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】ッ!!」





 果たして、遠く地平線の彼方まで、幅10メートル、深さ2メートル分の地面がごっそりと消えた。





「「「「「うぉぉぉおおおおッ!? 道神様ぁ~!!」」」」」

 後ろでは野次馬たちがやんややんやの大騒ぎ。
 けど、仕事はこれからなんだよね。

「――【遠見(テレスコープ)】」

 お師匠様の魔法で道の西端まで視界が届く。
 視界がギュッと圧縮されたような不思議な感覚。

「【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】!」

 その視界いっぱいに、石材商の男の子から提供してもらった石を敷き詰める。
 あらかじめ【目録(カタログ)】で振り分けておいた、大ぶりのものを、だ。

「もいっちょぉ【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】!」

 続いて、やや小ぶりの石をその上に振りかける。

「さらにぃ【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】!」

 その上に、砂利を敷く。
 お師匠様曰く、水はけをよくするための手法なのだそうだ。

「そしてその上にぃ【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】!」

 均等に、生セメントを流し込む。
 これで、下準備は終わり。

「はぁっ……はぁっ……お師匠様、魔力をもらえませんか?」

「あいよ、【魔力譲渡(マナ・トランスファー)】」

 急激な魔力の減りでキリキリと痛み始めていた丹田が、あっという間に全快する。
 さて、次は仕上げの石畳。
 幅10メートルの道を20のブロックに分け、そこに50センチ四方の石畳を敷き詰めていく。
 水はけのためにアーチ状にする必要があるから、石畳みの高さを3段階に分けて、あらかじめ【収納(アイテム)空間(・ボックス)】で削っておいた。

「まずは中央の8ブロック分!」

 ご丁寧にお師匠様が光で示してくれている箇所へ、

「【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】!」

 一番背の高い石畳を配置する。

「次にその左右8ブロックへ――【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】!」

 二番目に背の高い石畳を。

「最後に左右4ブロックへ――【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】!
 はぁ~……」

 ふらふらになって倒れそうになる僕と、それを抱きとめてくれるノティアと、

「「「「「うぉぉぉおおおおッ! 道神様ぁ~!!」」」」」

 楽しそうな野次馬たち。

「さ、最後に、道の左右に小さな側溝を――【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】!
 じゃ、じゃあノティア、お願いできますか?」

「ええ、ここからはわたくしの出番ですわ」

 僕がノティアの前に【収納(アイテム)空間(・ボックス)】への入口の空間を広げ、ノティアがその中へ、

「魔力の限りぃ――【火炎(ファイア)の壁(・ウォール)】ッ!!」

 ノティアが僕の【収納(アイテム)空間(・ボックス)】へ炎を送り込むと、僕が街道の上に展開したもう片方の【収納(アイテム)空間(・ボックス)】の出口から炎が射出される。
 これによってセメントが熱せられ、乾く。

「もう十分さね」

 お師匠様の言葉で、ノティアが魔法をやめる。

「終わりました。こんな感じでどうでしょう、ミッチェンさん?」

 目を開いて振り向くと、ミッチェンさんが顔を真っ赤にさせて、

「す、す、す……」

「す?」

「素晴らしぃぃぃいいいい~~~~っ!!」

 ミッチェンさんにまたしても両肩をつかまれる。

「貴方こそ真の道神様! いえ、交易の神、交易神様だぁ~ッ!!」

「「「「「うぉぉぉおおおおッ! 交易神様ぁ~!!」」」」」

 ミッチェンさんも野次馬たちも、やんややんやの大興奮。

「あははっ! これぞマスターから受け継ぎし奥義、【天地創生収納(アイテム)空間(・ボックス)】さね!」

 お師匠様もお師匠様で何やら盛り上がっている。
 っていうか出たな、七大奥義の4つ目!
 そんな熱狂の中、急にミッチェンさんだけが真顔に戻り、

「ですが、……歩道の方もお忘れなく」

「で、ですよね……お師匠様、魔力ください」

「あいよ」


   ■ ◆ ■ ◆


 同じ要領で、馬車道の左右に歩道を作った。
 お師匠様の交渉術により、僕たちは今後、この街道によって商人ギルドが得た利益の、なんと1割をもらえることになった。
 僕の【収納(アイテム)空間(・ボックス)】の中にものすごい勢いでお金が入ってきて、正直怖くなってきている。


   ■ ◆ ■ ◆


 翌朝、いつもの時間にベッドから飛び起き、顔を洗い、装備を着込んだところで、

 ……コンコンコン

「はぁいお師匠様、今日はどんな依頼を――」

 果たして、部屋の外に立っていたのは。

「あ、あの……クリス」

「シャーロッテ!?」

 同じ孤児院で育った幼馴染。
 昔から大好きだった女の子。
 僕を500日もの間、飢え死にから救ってくれた女神。
 シャーロッテだった。