「「「ありがたやありがたや……」」」
3人の商人ギルドが、僕を拝み倒している。
僕はまったく理解が追いつかない。
そうしているうちに、
「いま、道神様って聞こえたぞ!?」
「なに!? 道神様が来てらっしゃるのか!?」
「見たい見たい!」
て、テントの外に人が集まっている!?
「ど、どどどどういうことですか!?」
尋ねると、ミッチェンさんが『あはは』と笑い、
「実はクリス様、あなたはこの場所では『西の森に道を開いた神様』――『道神様』として崇められているのですよ」
「な、ななな……」
■ ◆ ■ ◆
「「「「「道神様ぁ~~~~ッ!!」」」」」
テントから出ると、商人やギルド職員の方々から熱烈歓迎された。
どの方もみんな年若く、ベテラン風な商人はいない。
「若さってのはいいもんだねぇ」
お師匠様がじじむさいことを言う。
「失うものがないから、こうやって冒険的新事業に手を出すことができるのさね」
「道神様!」
中でも一層若い、十代に入ったばかりくらいの少年商人が話しかけてきた。
「何卒、そのお力で道をさらに通りやすくして頂けませんか!? 僕は石材商を営んでおりまして、石材ならいくらでもご提供いたしますので!」
「え、えぇぇ……僕、【収納空間】しか使えないんですけど……」
「いいじゃないか、やっておやり」
「えぇええ!? お、お師匠様、無茶言わないでくだ――」
「無茶じゃないさね」
お師匠様が杖で地面に絵を描く。
「これは地面の断面図さね。
こうやってこの深さ2メートルくらいまで【収納】で掘って、その上にこぶし大の岩を敷き詰め、その上に大き目の砂利、次いで小さめの砂利を敷いて、その上にセメントを流し込み、最後に石畳でふたをする。
道は横幅10メートルもあれば十分だろう。道はわずかにアーチ状にして、左右に用意した溝へ水がはけるようにしておく。溝のさらに外側にも同じ要領で石畳を敷いて、内側は馬車道、外側は歩道とするのさ」
「おぉぉ……お師匠様、お詳しいですね!」
「ローマか……じゃなかった、アリス街道さね。先王アリス様が全国津々浦々に張り巡らせたっていう、由緒正しき街道の作り方だよ。
――お前さんたち!」
お師匠様が商人たちに向けて声を張り上げる。
「この中に、セメントを大量に持っている奴はいるさね!?」
ちらほらと声や手が上がる。
「ミッチェンや、彼らからありったけのセメントを買い上げられるかい? 無論、代金はお前さん持ちだ」
「え、えぇええ!?」
ミッチェンさんが目を白黒させる。
「交易速度を格段に上げてやるんだ。悪い話じゃないだろう?」
「う、うぐぐぐぐ……」
ミッチェンさんがマジックバッグから冊子――帳簿か何かかな?――を取り出し、『むむむ』とうなりながらにらみ合いっこしてから、
「分かりました、呑みましょう。――その代わり」
ミッチェンさんの目が据わっている。
「生半可な道じゃ、納得しませんからね?」
「それは心配に及ばない」
お師匠様が自信満々に胸を張る。
「何しろこいつは、儂の自慢の弟子なのだから」
勝手に話を進めておいて、なんてお師匠様だこの人は!
■ ◆ ■ ◆
道を敷くのは午後からということになった。
ギルド職員が早馬を走らせて、道の利用者たちに午後からの数時間は道を使わないように伝える必要があるからだそうで。
ということで、お昼をご馳走になった。
「ご覧の通り、手弁当……というか、城塞都市で大量に買い込んだものをマジックバッグに詰め込んで、みんなで分け合って食べている次第で」
白パンと干し肉とピクルスと果物。
特段貧しくはないし、僕からしたら十分にご馳走なのだけれど、ミッチェンさん的には納得がいっていないらしい。
マジックバッグというのは、中に収められた物品の時間が停止するというものすごく便利なものなんだけれど、【目録】機能のある僕の【収納空間】と違い、あくまで手で出し入れしないといけないんだよね。
だから入れる順番には気を遣う必要があるし、鋭利な刃物なんかを入れると、中をまさぐったときにケガをしかねない。
特に大変なのが液体のものだ。
水を保管したいからって、すでにいろいろ入っているマジックバッグに水を注ぎ込んだりすると、中の物品が水浸しになる。
そんなわけだから、皿に盛りつけられた料理をそのまま保管するってのも難しい。
「あれ? でも外に飲食の屋台がいくつかあったような」
「ありますけど、この時間帯はいつも大行列でして……」
「「「あー……」」」
僕とお師匠様とノティアで、そろって声を上げる。
「ここに料亭があったら、絶対繁盛するでしょうねぇ」
「間違いないでしょうね」
僕のつぶやきに、大きくうなずくミッチェンさん。
「ですが、いまから悠長に建屋を建設するのも、て感じなのですよ――…ん?」
と、ミッチェンさんがやおら考え込みだして、
「……もしやクリス様なら、建屋ごと店をここに移せるのでは?」
「はぁ!? 【収納空間】でですか? い、いや、それはさすがに――…」
無理、か?
いけるんじゃなかろうか。
いやでももし失敗したらと思うと――…
などと考え込んでいると、
「早馬、戻りました!」
ギルド職員のひとりがテントに入ってきた。
「もう、街道上には誰もいません」
3人の商人ギルドが、僕を拝み倒している。
僕はまったく理解が追いつかない。
そうしているうちに、
「いま、道神様って聞こえたぞ!?」
「なに!? 道神様が来てらっしゃるのか!?」
「見たい見たい!」
て、テントの外に人が集まっている!?
「ど、どどどどういうことですか!?」
尋ねると、ミッチェンさんが『あはは』と笑い、
「実はクリス様、あなたはこの場所では『西の森に道を開いた神様』――『道神様』として崇められているのですよ」
「な、ななな……」
■ ◆ ■ ◆
「「「「「道神様ぁ~~~~ッ!!」」」」」
テントから出ると、商人やギルド職員の方々から熱烈歓迎された。
どの方もみんな年若く、ベテラン風な商人はいない。
「若さってのはいいもんだねぇ」
お師匠様がじじむさいことを言う。
「失うものがないから、こうやって冒険的新事業に手を出すことができるのさね」
「道神様!」
中でも一層若い、十代に入ったばかりくらいの少年商人が話しかけてきた。
「何卒、そのお力で道をさらに通りやすくして頂けませんか!? 僕は石材商を営んでおりまして、石材ならいくらでもご提供いたしますので!」
「え、えぇぇ……僕、【収納空間】しか使えないんですけど……」
「いいじゃないか、やっておやり」
「えぇええ!? お、お師匠様、無茶言わないでくだ――」
「無茶じゃないさね」
お師匠様が杖で地面に絵を描く。
「これは地面の断面図さね。
こうやってこの深さ2メートルくらいまで【収納】で掘って、その上にこぶし大の岩を敷き詰め、その上に大き目の砂利、次いで小さめの砂利を敷いて、その上にセメントを流し込み、最後に石畳でふたをする。
道は横幅10メートルもあれば十分だろう。道はわずかにアーチ状にして、左右に用意した溝へ水がはけるようにしておく。溝のさらに外側にも同じ要領で石畳を敷いて、内側は馬車道、外側は歩道とするのさ」
「おぉぉ……お師匠様、お詳しいですね!」
「ローマか……じゃなかった、アリス街道さね。先王アリス様が全国津々浦々に張り巡らせたっていう、由緒正しき街道の作り方だよ。
――お前さんたち!」
お師匠様が商人たちに向けて声を張り上げる。
「この中に、セメントを大量に持っている奴はいるさね!?」
ちらほらと声や手が上がる。
「ミッチェンや、彼らからありったけのセメントを買い上げられるかい? 無論、代金はお前さん持ちだ」
「え、えぇええ!?」
ミッチェンさんが目を白黒させる。
「交易速度を格段に上げてやるんだ。悪い話じゃないだろう?」
「う、うぐぐぐぐ……」
ミッチェンさんがマジックバッグから冊子――帳簿か何かかな?――を取り出し、『むむむ』とうなりながらにらみ合いっこしてから、
「分かりました、呑みましょう。――その代わり」
ミッチェンさんの目が据わっている。
「生半可な道じゃ、納得しませんからね?」
「それは心配に及ばない」
お師匠様が自信満々に胸を張る。
「何しろこいつは、儂の自慢の弟子なのだから」
勝手に話を進めておいて、なんてお師匠様だこの人は!
■ ◆ ■ ◆
道を敷くのは午後からということになった。
ギルド職員が早馬を走らせて、道の利用者たちに午後からの数時間は道を使わないように伝える必要があるからだそうで。
ということで、お昼をご馳走になった。
「ご覧の通り、手弁当……というか、城塞都市で大量に買い込んだものをマジックバッグに詰め込んで、みんなで分け合って食べている次第で」
白パンと干し肉とピクルスと果物。
特段貧しくはないし、僕からしたら十分にご馳走なのだけれど、ミッチェンさん的には納得がいっていないらしい。
マジックバッグというのは、中に収められた物品の時間が停止するというものすごく便利なものなんだけれど、【目録】機能のある僕の【収納空間】と違い、あくまで手で出し入れしないといけないんだよね。
だから入れる順番には気を遣う必要があるし、鋭利な刃物なんかを入れると、中をまさぐったときにケガをしかねない。
特に大変なのが液体のものだ。
水を保管したいからって、すでにいろいろ入っているマジックバッグに水を注ぎ込んだりすると、中の物品が水浸しになる。
そんなわけだから、皿に盛りつけられた料理をそのまま保管するってのも難しい。
「あれ? でも外に飲食の屋台がいくつかあったような」
「ありますけど、この時間帯はいつも大行列でして……」
「「「あー……」」」
僕とお師匠様とノティアで、そろって声を上げる。
「ここに料亭があったら、絶対繁盛するでしょうねぇ」
「間違いないでしょうね」
僕のつぶやきに、大きくうなずくミッチェンさん。
「ですが、いまから悠長に建屋を建設するのも、て感じなのですよ――…ん?」
と、ミッチェンさんがやおら考え込みだして、
「……もしやクリス様なら、建屋ごと店をここに移せるのでは?」
「はぁ!? 【収納空間】でですか? い、いや、それはさすがに――…」
無理、か?
いけるんじゃなかろうか。
いやでももし失敗したらと思うと――…
などと考え込んでいると、
「早馬、戻りました!」
ギルド職員のひとりがテントに入ってきた。
「もう、街道上には誰もいません」