最弱スキル【収納】しか使えず通算100パーティーから追放された無能な僕が、王様になるまでに受けた86のレッスン

「ほれ、呆けてないでさっさと水を酌むよ」

「はい!」

 そこからはお決まりのパターンだ。
 お師匠様が【万物解析(アナライズ)】で川底の地形を確認し、川底から上の部分を選択する。
 その上で【視覚共有(シンクロナイズド・アイ)】でお師匠様の視界を借り、

「【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】!」

 果たして、川を流れていた大量の水が視界の限り一瞬で消え、少し経ってから再び上流から流れてくる。

「す、素晴らしいですわ……ッ!!」

 その――僕にとってはもはや見慣れた――光景を見て、ノティア様が全身を震わせながら感動している。

「く、くくくクリス君! 是非、是非我が伴侶に……ッ!!」

 両肩をつかまれた。
 ノティア様の鼻息が荒い。

「ちょちょちょっ! ノティア様、落ち着いて下さい! そういうのは、もっとお互いをよく知ってから――」

「様だなんて、そんな他人行儀に呼ばないで下さいまし! どうぞお気軽に、『ノティア』と呼んで下さい!」

「え、えぇと……」

「さぁ!」

「……の、ノティア」

 ノティア様――じゃなかった、ノティアが全身をくねくねさせて、

「……いい。いいですわぁ」

「なぁ小娘や、いい加減におし。早くしないと日が暮れるって言っているだろう?」

 横からお師匠様の苦情が入る。

「あら、ごめんあそばせ」

 素直に離れるノティア。
 この切り替えの早さは、熟練の冒険者を思わせる。

「じゃ、もう十数回ほど水を酌むよ」

「はい!」


   ■ ◆ ■ ◆


 あっという間に、一生水に困らないんじゃないかってくらいの量が手に入った。

「よし、じゃあ【目録(カタログ)】で中身を確認おし」

「はい! ――【目録(カタログ)】」


 *****
 川の水
 *****


 長押しすると、『水』『魚』『水中昆虫』『小石』『木の葉』『その他ゴミ』と出てきた。

「まずは、水以外をここにぶちまけちまいな」

「はい!」

 言われるがまま、ポチポチとタッチしていって川辺に出していく。虫は気持ち悪いので、できるだけ遠くに出した。

「魚は【収納】しなおしな」

「はい――【収納(アイテム)空間(・ボックス)】」

 大小さまざまな魚が一瞬で姿を消す。

「じゃあ、水を【収納(アイテム)空間(・ボックス)】で濾過する前に、まずは魚でウォーミングアップといこうか」

「水は難しいんですか?」

「ああ、難しい。【目録(カタログ)】を見せてもらってもいいかい?」

「もちろんです」

 言ってお師匠様に【目録(カタログ)】のウィンドウを見せる。

ニジ(レーゲンボーゲン)マス(フォレレ)か! サイズもちょうどいい。ではクリス、こいつを下処理してくれるかい」

「し、下処理……【収納(アイテム)空間(・ボックス)】で、ですか?」

左様(ヤー)

「うーん……」

ニジ(トリュイッ)マス(タルカンシエル)』を長押しすると、『ニジマス』『汚れ』『ぬめり』と出た。
『汚れ』と『ぬめり』を選択すると、地面にべちゃりとぬめついたものが落ちる。

「ほほぅ、【万物解析(アナライズ)】なしでも、ぬめりまで取れるか。が、やはりあくまで見える範囲しか無理なようさね。よしじゃあ――【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析(アナライズ)】からのぉ【念話(テレパシー)】!」

 再び『ニジマス』を長押し。
 すると今度は、『身』『内臓』『骨』『寄生虫』『皮』と出た。

「す、すごい……」

「んじゃ、『内臓』と『寄生虫』と『骨』は捨てて、『皮』は長押ししてみな」

「はい」

 言われた通り『内臓』と『寄生虫』だけ【収納(アイテム)空間(・ボックス)】から取り出して、地面に捨てる。
 『皮』を長押ししてみると、『皮』と『鱗』と『臭み』に。

「『鱗』と『臭み』は捨てよう。あと、『身』にも『臭み』があるようなら捨てちまいな」

「はい」

 言われた通りにする。

「じゃあ出してみな」

 お師匠様が最近いろいろと買ってくれた家財道具の中から適当な机を出し、まな板を出し、その上に『下処理』が済んだ、両手のひらくらいのサイズのニジマスを取り出す。
 依頼遂行中に野宿をしたときなんかは、魚を釣って食べたりもするけれど……ここまでぴっかぴかに磨き上げられ、鱗ひとつないニジマスは初めて見たよ。

「こいつを、頭から尻尾まで真っ二つにする」

「はい――【収納(アイテム)空間(・ボックス)】」

 半身を【収納】し、

「【収納(アイテム)空間(・ボックス)】」

 再び、まな板の上に取り出す。

「これで、ニジマスの三枚おろしならぬ二枚おろしの完成さね」

「「おぉぉぉおおお……」」

 思わず声が出る。
 と、横を見るとノティアも同じように感動しているようだった。

「くんくん……これ、すごいですわね! 川魚と言えば臭みが強いもののはずですのに、まったく嫌な臭いがしませんもの!」

「これが、マスターの誇る七大奥義のひとつ、【お料理(クッキング)収納(・バイ・)空間(アイテム・ボックス)】さね」

 得意げに、お師匠様が言った。