「わたくし、貴方に興味がございますのよ、クリス君」
巨乳美人エルフのAランク冒険者でお姫様のノティア様が、僕に迫ってくる。
「ぼ、僕に!?」
「そう――キミの加護、広大な西の森から数百本もの治癒一角兎のツノだけを正確に【収納】せしめた【無制限収納空間】の力。たった一日で西の森に道を作り出してしまった、神級にも等しきキミの力に」
「あ、あぁ……それは」
僕はちらりと、隣のお師匠様を見る。
「僕の――僕だけの力じゃあない、です。お師匠様の支援魔法があったから、お師匠様がいて下さったから、できたことです……すべて」
「それも、存じておりますわ。何でもそこのお嬢さんは、聖級の探査魔法【万物解析】の使い手だそうですわね」
ノティア様がお師匠様を見て、くすりと笑う。
「ですが、【万物解析《アナライズ》】ならわたくしも使えますわ」
「いや、でも……【視覚共有】とか【念話】とか、あと【思考加速】とか!」
「すべて得意魔法ですわ」
「――――……」
「お前さん……ノティアちゃんだったか、何が言いたいさね?」
お師匠様が珍しく、不機嫌そうに尋ねた。
「聞いたまんまですわ。――ねぇクリス君、キミ、このお嬢さんは止めにして、わたくしとパーティーを組みません? 今言った通り、このお嬢さんができることはわたくしもすべてできますし、その上――このお嬢さんが使えない攻撃魔法も、使えますわ」
――お師匠様が攻撃魔法を使えないって、どこで聞いたんだ!?
…………いや、考えても見れば、一緒に狩りをしたエンゾたちはお師匠様が攻撃魔法を一切使わなかったのを見ていたし、このごろは西の森で戦闘訓練をしていたのに、お師匠様はただの一度も攻撃魔法を使わなかった。
森では他の冒険者たちも活動していて、みな他の冒険者のことをよく見ているものなんだ。
「ふんっ、小娘が偉そうに。この子は儂が先に見つけたんだ。渡す気はないよ?」
「あら、それはお嬢さんではなく、クリス君が決めることではなくって? ――ねぇ?」
ノティア様がずずいと胸を強調しながら迫ってくる。
「え、あ、ちょっ……」
思わず椅子を引きながらお師匠様の方を見るも、お師匠様は居心地悪そうに腕組をしてそっぽを向いている。
……駄目か。
胸を強調するお師匠様が見れるかと期待したのだけれど、そういう邪なのは、いまはやめておこう。
「その…………すみません!」
僕はノティア様へ頭を下げる。深々と、テーブルにこすりつけるようにして。
「申し訳ございませんが、ノティア殿下とパーティーを組むことはできません。お師匠様は……アリス師匠は、僕の命の恩人で、人生の恩人なんです。だから、お師匠様から『お前はもう要らない』って言われるまでは、僕はずっとずぅっとお師匠様について行くつもりなんです……だから、……申し訳ございません」
「………………………………」
ノティア様は無言だ。
恐る恐る顔を上げると、ノティア様は残念そうな、それでいて吹っ切れたような表情をしていた。
「仕方ありませんわね。今日のところは退いて差し上げましょう」
言って立ち上がる。
そこから、ふと思いついたように僕の顔をのぞき込んで来て、
「――あ、パーティーメンバーがダメなら、伴侶としてならどうです?」
「ぶっふぉっ!!」
飲みかけていた水を、正面にいたお師匠様の顔に思いっ切りぶちまけた。
■ ◆ ■ ◆
……怒られた。それはもう。
その代わりに、【万物解析】と【視覚共有】を使った身体や衣類の汚れを除去する、通称【洗浄収納空間】を伝授された。
お師匠様曰く、これも『マスター』とやらが使う【収納空間】奥義のひとつらしい。
ますます、お師匠様の『マスター』が誰なのか気になる……。
「そ、それで……午後からは何の依頼を受けますか、お師匠様?」
お師匠様が掲示板の依頼書を眺めながら、
「ゴブリンの次と言えば定番のオーク、いや一足飛びにオーガなんてどうだい?」
「こ、これ! これにしましょうよ!」
僕は適当な肉体労働任務の依頼書をお師匠様に見せる。
オークとかオーガなんて、今度こそ死んでしまう!
「ん~なになに? 水汲み……供給先は西の森に急に発生した謎の街道……依頼主は商人ギルドの若手有志!?」
お師匠様が急に目を輝かせて、
「良い! 実に良いさね! いやぁどこの国も商人ってのは目ざとく耳ざといものさね! 動きが早くて助かるよ」
「へ? どういうことです?」
「ほら先日、西の森で思いっきり木を伐採して西の王国に続く道を作っただろう?」
「あぁ、そう言えば」
あの時に作った大量の薪は、ギルドではとても引き取り切れないと言われ、僕の【収納空間】内でひしめき合っている。
「それが?」
「急に出来た交易路を、商人たちが捨て置くと思うかい? この街の商人ギルドが、行商に必須の水を売りつけようとしているってわけさ」
「水? 水なんてマジックバッグにあらかじめ大量に入れておけば、わざわざ買わなくっても」
「バカだねぇお前さん、大容量のマジックバッグがタダ同然の値段で手に入るのなんて、世界広しと言えどもここ、魔王国くらいなものさね」
「えっとつまり――…商人っていうのは、西の科学王国の!?」
「そりゃ、休戦から100年も経っているんだ。交易くらいあるだろうさ」
「言われて見れば……」
この街でも、取っ手を回したら音楽が流れる機械とか、雷魔法を流し込んだら明かりがつくランプとか、これまた雷魔法を流し込んだら壁に映像が流れる謎の機械とか……というよく分からないものが、たまに骨董品店に出回っている。
「よし、じゃあ訓練がてら北の山で大量に水を汲んで、そいつを【収納空間】で綺麗にして、そいつを売りつけるとしよう」
「はい!」
巨乳美人エルフのAランク冒険者でお姫様のノティア様が、僕に迫ってくる。
「ぼ、僕に!?」
「そう――キミの加護、広大な西の森から数百本もの治癒一角兎のツノだけを正確に【収納】せしめた【無制限収納空間】の力。たった一日で西の森に道を作り出してしまった、神級にも等しきキミの力に」
「あ、あぁ……それは」
僕はちらりと、隣のお師匠様を見る。
「僕の――僕だけの力じゃあない、です。お師匠様の支援魔法があったから、お師匠様がいて下さったから、できたことです……すべて」
「それも、存じておりますわ。何でもそこのお嬢さんは、聖級の探査魔法【万物解析】の使い手だそうですわね」
ノティア様がお師匠様を見て、くすりと笑う。
「ですが、【万物解析《アナライズ》】ならわたくしも使えますわ」
「いや、でも……【視覚共有】とか【念話】とか、あと【思考加速】とか!」
「すべて得意魔法ですわ」
「――――……」
「お前さん……ノティアちゃんだったか、何が言いたいさね?」
お師匠様が珍しく、不機嫌そうに尋ねた。
「聞いたまんまですわ。――ねぇクリス君、キミ、このお嬢さんは止めにして、わたくしとパーティーを組みません? 今言った通り、このお嬢さんができることはわたくしもすべてできますし、その上――このお嬢さんが使えない攻撃魔法も、使えますわ」
――お師匠様が攻撃魔法を使えないって、どこで聞いたんだ!?
…………いや、考えても見れば、一緒に狩りをしたエンゾたちはお師匠様が攻撃魔法を一切使わなかったのを見ていたし、このごろは西の森で戦闘訓練をしていたのに、お師匠様はただの一度も攻撃魔法を使わなかった。
森では他の冒険者たちも活動していて、みな他の冒険者のことをよく見ているものなんだ。
「ふんっ、小娘が偉そうに。この子は儂が先に見つけたんだ。渡す気はないよ?」
「あら、それはお嬢さんではなく、クリス君が決めることではなくって? ――ねぇ?」
ノティア様がずずいと胸を強調しながら迫ってくる。
「え、あ、ちょっ……」
思わず椅子を引きながらお師匠様の方を見るも、お師匠様は居心地悪そうに腕組をしてそっぽを向いている。
……駄目か。
胸を強調するお師匠様が見れるかと期待したのだけれど、そういう邪なのは、いまはやめておこう。
「その…………すみません!」
僕はノティア様へ頭を下げる。深々と、テーブルにこすりつけるようにして。
「申し訳ございませんが、ノティア殿下とパーティーを組むことはできません。お師匠様は……アリス師匠は、僕の命の恩人で、人生の恩人なんです。だから、お師匠様から『お前はもう要らない』って言われるまでは、僕はずっとずぅっとお師匠様について行くつもりなんです……だから、……申し訳ございません」
「………………………………」
ノティア様は無言だ。
恐る恐る顔を上げると、ノティア様は残念そうな、それでいて吹っ切れたような表情をしていた。
「仕方ありませんわね。今日のところは退いて差し上げましょう」
言って立ち上がる。
そこから、ふと思いついたように僕の顔をのぞき込んで来て、
「――あ、パーティーメンバーがダメなら、伴侶としてならどうです?」
「ぶっふぉっ!!」
飲みかけていた水を、正面にいたお師匠様の顔に思いっ切りぶちまけた。
■ ◆ ■ ◆
……怒られた。それはもう。
その代わりに、【万物解析】と【視覚共有】を使った身体や衣類の汚れを除去する、通称【洗浄収納空間】を伝授された。
お師匠様曰く、これも『マスター』とやらが使う【収納空間】奥義のひとつらしい。
ますます、お師匠様の『マスター』が誰なのか気になる……。
「そ、それで……午後からは何の依頼を受けますか、お師匠様?」
お師匠様が掲示板の依頼書を眺めながら、
「ゴブリンの次と言えば定番のオーク、いや一足飛びにオーガなんてどうだい?」
「こ、これ! これにしましょうよ!」
僕は適当な肉体労働任務の依頼書をお師匠様に見せる。
オークとかオーガなんて、今度こそ死んでしまう!
「ん~なになに? 水汲み……供給先は西の森に急に発生した謎の街道……依頼主は商人ギルドの若手有志!?」
お師匠様が急に目を輝かせて、
「良い! 実に良いさね! いやぁどこの国も商人ってのは目ざとく耳ざといものさね! 動きが早くて助かるよ」
「へ? どういうことです?」
「ほら先日、西の森で思いっきり木を伐採して西の王国に続く道を作っただろう?」
「あぁ、そう言えば」
あの時に作った大量の薪は、ギルドではとても引き取り切れないと言われ、僕の【収納空間】内でひしめき合っている。
「それが?」
「急に出来た交易路を、商人たちが捨て置くと思うかい? この街の商人ギルドが、行商に必須の水を売りつけようとしているってわけさ」
「水? 水なんてマジックバッグにあらかじめ大量に入れておけば、わざわざ買わなくっても」
「バカだねぇお前さん、大容量のマジックバッグがタダ同然の値段で手に入るのなんて、世界広しと言えどもここ、魔王国くらいなものさね」
「えっとつまり――…商人っていうのは、西の科学王国の!?」
「そりゃ、休戦から100年も経っているんだ。交易くらいあるだろうさ」
「言われて見れば……」
この街でも、取っ手を回したら音楽が流れる機械とか、雷魔法を流し込んだら明かりがつくランプとか、これまた雷魔法を流し込んだら壁に映像が流れる謎の機械とか……というよく分からないものが、たまに骨董品店に出回っている。
「よし、じゃあ訓練がてら北の山で大量に水を汲んで、そいつを【収納空間】で綺麗にして、そいつを売りつけるとしよう」
「はい!」