【目録】で調べてみたら、信じられない量の汚泥が入っていた。
それでも信じられなかったので、近場の側溝を覗いてみたら、本当に、本当にぴっかぴかになっていた。
一方、魔力は気絶寸前にまで減っていたので、お師匠様から【魔力譲渡《マナ・トランスファー》】で分けてもらった。
そして、いま。
「…………はぁ~ッ!? 今朝受けたドブさらいの依頼が完了したぁ!?」
僕らは、ギルドホールの受付にいる。
「はい! 『内西地区』の城壁側半分の側溝をすべて、綺麗に掃除しました」
「はぁ~……」
受付嬢さんが深い深いため息を吐く。
「あのですねぇ、クリスさん……そりゃ、あなたが大変そうにしてらっしゃるのはいつも見てましたから、同情はしますよ? ですがウソはいけません。当ギルドは、悪質な虚偽報告者を警吏に突き出す権利を持っているんですからね。今回は聞かなかったことにしますので――」
「本当なんです! 僕の遠隔【収納】能力で、こう、ばばっと一気に!」
「……依頼を受けてから1時間も経っていないのに?」
「本当なんですって! ほら、実際に見てもらえれば分かりますから!」
「ちょっと、営業妨害は止めて下さい! 次の方も待ってるんですから――」
「…………揉め事か?」
受付の奥から、筋骨隆々の大男が出てきた。
「あっ、ギルドマスター! この子たちが虚偽の申告をしてきて……」
「虚偽?」
大男――初めてお会いしたけど、冒険者ギルドマスターらしい――に睨まれる。
「ひっ」
【威圧耐性】のない僕は、それだけでもうすっかり怖くなってしまったけれど、ウソはついていないんだ、ちゃんと主張すればいい。
「だから、ウソじゃないんです! 信じて下さい!」
「……お前、等級と名前は?」
「Fランクのクリスです」
「あぁ、【無制限収納空間】の」
「ぼ、僕のことをご存じなんですか……?」
「そりゃ、俺ぁギルドマスターだぜ? 特にお前さんは何かと……な」
「――――……」
「まぁいい。とにかくここにいちゃ他の冒険者の邪魔になるから、俺の部屋に来な」
■ ◆ ■ ◆
ギルドマスターはお茶を出してくれた。
その上で、
「あのなぁ、お前さんが苦労してるのは知ってるし、正直可哀想だとは思ってるよ。けどなぁ、虚偽の申告で報酬をせしめようってのは頂けない」
諭すような口調で、さっきの受付嬢さんとの会話の再現みたいなのが始まる。
「本当なんですってば!」
「ギルドマスター殿よ、どんな依頼内容なのかくらいは見てやってもよいのではないかな?」
隣に座るお師匠様が口を挟んできた。
「ん? お、おぉ。お前さんは噂の新人――省略詠唱使いだな?」
「左様」
言いながら、お師匠様が依頼書をギルドマスターに差し出す。
「ドブさらい、ね。いつ受注したんだ?」
「今朝です」
「――――はぁっ!? お前そりゃいくらなんでもウソのつき方が下手くそ過ぎるだろう!」
「本当なんです! 【目録】!」
「なっ……お前それ、上級【収納空間】が使う技か!?」
「ほら、見てください――さっき取ったばかりの汚泥です!」
適当な木皿と、その上に少量の汚泥を出す。
「「「くっさ……」」」
「お、おい、分かったからもう仕舞え」
「す、すみません……【収納空間】」
「はぁ……じゃあ行くか」
ギルドマスターが立ち上がる。
「え、どこへ……?」
「お前さんが本当にウソをついていないのか、確かめにだよ」
■ ◆ ■ ◆
「な、ななな……」
最寄りの側溝をのぞき込んで、絶句するギルドマスター。
「い、いやいやいやいや、いくらなんでもこれはありえねぇだろう!? そっちの新人が、何か幻術の類を……」
「お、お師匠様に失礼なこと言わないでください! ほら、臭いもないでしょう? 何なら触って確かめてください」
「ど、ドブに触るのはちょっとなぁ……」
「クリスや」
お師匠様がニヤニヤと笑っている。
「実際に見せてやったらいいことさね」
■ ◆ ■ ◆
そうして再び、城壁の尖塔に登る。
「ひぃっ、ひぃっ、ひぃっ……」
最後尾で汗だくになる僕と、
「またかね。体力の方もつけさせなきゃいけないねぇ」
「……おいお前、冒険者家業やっててその体力のなさはまずいぜ」
そんな僕に対して呆れ返るお師匠様とギルドマスター。
「それじゃ、さっそく始めよう。【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎】」
「はぁッ!? お前さん、そりゃ聖級魔法の――」
お師匠様がニヤリと笑って自分の唇に人差し指を立てる。
「【隠蔽】――【万物解析】――クリス」
「はい」
お師匠様が僕のまぶたに触れて、
「【視覚共有】……ほれ、いっちょかましてやれ」
お師匠様の視界の中で、『内西地区』の、ドブさらいをしていない方の半分が青白い光に包まれる。
「【万物解析】によりて導き出されし、『除去すべき汚れ』を【収納】せよ――【無制限収納空間】ッ!!」
それでも信じられなかったので、近場の側溝を覗いてみたら、本当に、本当にぴっかぴかになっていた。
一方、魔力は気絶寸前にまで減っていたので、お師匠様から【魔力譲渡《マナ・トランスファー》】で分けてもらった。
そして、いま。
「…………はぁ~ッ!? 今朝受けたドブさらいの依頼が完了したぁ!?」
僕らは、ギルドホールの受付にいる。
「はい! 『内西地区』の城壁側半分の側溝をすべて、綺麗に掃除しました」
「はぁ~……」
受付嬢さんが深い深いため息を吐く。
「あのですねぇ、クリスさん……そりゃ、あなたが大変そうにしてらっしゃるのはいつも見てましたから、同情はしますよ? ですがウソはいけません。当ギルドは、悪質な虚偽報告者を警吏に突き出す権利を持っているんですからね。今回は聞かなかったことにしますので――」
「本当なんです! 僕の遠隔【収納】能力で、こう、ばばっと一気に!」
「……依頼を受けてから1時間も経っていないのに?」
「本当なんですって! ほら、実際に見てもらえれば分かりますから!」
「ちょっと、営業妨害は止めて下さい! 次の方も待ってるんですから――」
「…………揉め事か?」
受付の奥から、筋骨隆々の大男が出てきた。
「あっ、ギルドマスター! この子たちが虚偽の申告をしてきて……」
「虚偽?」
大男――初めてお会いしたけど、冒険者ギルドマスターらしい――に睨まれる。
「ひっ」
【威圧耐性】のない僕は、それだけでもうすっかり怖くなってしまったけれど、ウソはついていないんだ、ちゃんと主張すればいい。
「だから、ウソじゃないんです! 信じて下さい!」
「……お前、等級と名前は?」
「Fランクのクリスです」
「あぁ、【無制限収納空間】の」
「ぼ、僕のことをご存じなんですか……?」
「そりゃ、俺ぁギルドマスターだぜ? 特にお前さんは何かと……な」
「――――……」
「まぁいい。とにかくここにいちゃ他の冒険者の邪魔になるから、俺の部屋に来な」
■ ◆ ■ ◆
ギルドマスターはお茶を出してくれた。
その上で、
「あのなぁ、お前さんが苦労してるのは知ってるし、正直可哀想だとは思ってるよ。けどなぁ、虚偽の申告で報酬をせしめようってのは頂けない」
諭すような口調で、さっきの受付嬢さんとの会話の再現みたいなのが始まる。
「本当なんですってば!」
「ギルドマスター殿よ、どんな依頼内容なのかくらいは見てやってもよいのではないかな?」
隣に座るお師匠様が口を挟んできた。
「ん? お、おぉ。お前さんは噂の新人――省略詠唱使いだな?」
「左様」
言いながら、お師匠様が依頼書をギルドマスターに差し出す。
「ドブさらい、ね。いつ受注したんだ?」
「今朝です」
「――――はぁっ!? お前そりゃいくらなんでもウソのつき方が下手くそ過ぎるだろう!」
「本当なんです! 【目録】!」
「なっ……お前それ、上級【収納空間】が使う技か!?」
「ほら、見てください――さっき取ったばかりの汚泥です!」
適当な木皿と、その上に少量の汚泥を出す。
「「「くっさ……」」」
「お、おい、分かったからもう仕舞え」
「す、すみません……【収納空間】」
「はぁ……じゃあ行くか」
ギルドマスターが立ち上がる。
「え、どこへ……?」
「お前さんが本当にウソをついていないのか、確かめにだよ」
■ ◆ ■ ◆
「な、ななな……」
最寄りの側溝をのぞき込んで、絶句するギルドマスター。
「い、いやいやいやいや、いくらなんでもこれはありえねぇだろう!? そっちの新人が、何か幻術の類を……」
「お、お師匠様に失礼なこと言わないでください! ほら、臭いもないでしょう? 何なら触って確かめてください」
「ど、ドブに触るのはちょっとなぁ……」
「クリスや」
お師匠様がニヤニヤと笑っている。
「実際に見せてやったらいいことさね」
■ ◆ ■ ◆
そうして再び、城壁の尖塔に登る。
「ひぃっ、ひぃっ、ひぃっ……」
最後尾で汗だくになる僕と、
「またかね。体力の方もつけさせなきゃいけないねぇ」
「……おいお前、冒険者家業やっててその体力のなさはまずいぜ」
そんな僕に対して呆れ返るお師匠様とギルドマスター。
「それじゃ、さっそく始めよう。【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎】」
「はぁッ!? お前さん、そりゃ聖級魔法の――」
お師匠様がニヤリと笑って自分の唇に人差し指を立てる。
「【隠蔽】――【万物解析】――クリス」
「はい」
お師匠様が僕のまぶたに触れて、
「【視覚共有】……ほれ、いっちょかましてやれ」
お師匠様の視界の中で、『内西地区』の、ドブさらいをしていない方の半分が青白い光に包まれる。
「【万物解析】によりて導き出されし、『除去すべき汚れ』を【収納】せよ――【無制限収納空間】ッ!!」