最弱スキル【収納】しか使えず通算100パーティーから追放された無能な僕が、王様になるまでに受けた86のレッスン

 ……戦場に、静けさが戻る。
 つんざくような射撃音は無くなり、軍人たちの姿もない。

「や、やった!! これで――…」





「何が、『やった』なんだい?」





 目の前に、アリス・アインスが立っていた。
 アリス・アインスはその手に持つ拳銃を僕に向け、

 タァーンッ!

「ぎゃあッ!」

 右の太ももが、焼けるように熱い!

「戦いは、これからが本番だって言うのに」

 また、目の前の景色が変わる。

「クリス君!?」

 ノティアの声が聞こえる……レヴィアタン様が【瞬間移動(テレポート)】で助けてくれた……?

「【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析(アナライズ)】! あぁ……弾丸が入り込んでいる! 【視覚共有(シンクロナイズド・アイ)】! クリス君、弾丸を【収納】するのよ、頑張って!」

「はぁッ、はぁッ……【収納(アイテム)空間(・ボックス)】ッ!!」

「【大治癒(エクストラ・ヒール)】ッ!!」

 急速に痛みが引いていく。

「――相変わらず弱虫だねぇ、お前さんは!」

 アリス・アインスが敵陣から悠然と歩いてくる。
 前衛組が一斉に斬りかかるけれど、アリス・アインスにはまるで効かず、拳銃による逆襲を受けてしまう。

「取って置きを見せてやろう――【星降り(メテオ)】ッ!!」

 アリス・アインスが両手を振り上げた。
 途端、空の一点が真っ赤に燃え上がる!

「あぁ……あぁぁ……」

 燃え盛る星が、雲を割って落ちて来た。
 星はぐんぐんと大きくなる。ここ目がけて降ってくる!

「【収納】だ! 早く!」

 ベルゼビュート様の声で我に返り、無我夢中で魔力を振り絞る。
 星に向かって両腕を掲げ、

「【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】ッ!!」

 ――――果たして、星は姿を消した。
 頬は星が発していた熱の余韻を感じている。
 急に丹田が軋むような痛みを発し、

「がふッ……」

 吐血、した。
 全身が震える。

「あっははは!」

 金髪の魔女が嗤った。

「ほらほら、どうしたバカ弟子!? この通り、儂を殺さない限り、儂は止まらない! 儂を止めなければ、血みどろの戦争へ一直線さね!」





 …………こいつを殺さなければ、戦争になる。





 こいつは、敵。僕の敵だ。
 敵を……アリス・アインスを……殺す。
 その覚悟を、決めた。

「【首狩りぃ――」

 右手の平にありったけの魔力を乗せ、

「――収納(アイテム)空間(・ボックス)】ッ!!」

 ――――バチンッ!!

 アリス・アインスの首が輝く――抵抗(レジスト)された!
 まだだ!
 こいつは確か、『体表は【自動(オート・)魔法(マジカル)防護結界(・バリア)】が掛かっている』と言った。
 だったら頭部の内側をくり抜くまでだ!

「【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】ッ!!」

 ――――バチンッ!!

 やはり、抵抗(レジスト)される。

「あははっ! 内側からとは考えたねぇ! だけど残念。儂の体は全身がオリハルコン入りの特製超合金――それも、マスターたる魔法神アリスが直々に魔力を込めて強度を高めた一本さね。恐らく世界で最も固い物質だ。ただ、儂の体の中で唯一【収納】可能とすれば」

 トントン、と臍の下――丹田を()ついて見せ、

「ここ。ここにある、儂の(コア)たる魔石くらいだね。とは言え、未だ神級にも至っていないお前さんの【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】で、神の創造物たる儂の魔石を【収納】できるかな?」

 言って、アリス・アインスが銃口をこちらに向ける。

「させるかよッ!!」

 フェンリスさんの強烈なシールドバッシュ!!
 小柄なアリス・アインスの体が跳ね飛ばされる――が、すぐに飛び起きて、まるでダメージはなさそうだ。
 そんなアリス・アインスを取り囲みながら、前衛組が攻撃を加えていく。

「あははっ! 効かない言っているだろう! ――【竜巻(トルネード)】!!」

 アリス・アインスを中心に発せられる強風で、前衛組が吹き飛ばされる。

「ノティア!」

「【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析(アナライズ)】! 【視覚共有(シンクロナイズド・アイ)】!」

 僕の求めにノティアが即座に応じる。
 目を閉じれば、ノティアの視界の中で、アリス・アインスの丹田――魔石が光り輝いている。

「【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】ッ!!」

 ――――バチンッ!!

 これでもダメか!!
 どうすれば……どうすればッ!!
 アリス・アインスは、『未だ神級にも至っていないお前さんの【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】で』と言った。
 敵の言うことだ。信じるに値するかどうかは分からない――…けれど!

 もし仮に、僕の【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】のスキルレベルが9――神級――に至れたとしたら?





 ――――たったひとつ、未だに謎なままのことがある。
 アリス・アインスが僕に【収納】させたがっていた『悲願』が、何なのか、ということだ。





「皆さんッ! 時間を稼いで下さい!!」

「何か策があるのかい?」

 僕の叫びに、ベルゼビュート様が即座に反応してくれる。
 話している間にも、前衛組はアリス・アインスの歩みを止めるべく波状攻撃を仕掛けている。

「【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】のスキルレベルを、いま、この場で、9にまで――神級にまで、上げます!」


   ■ ◆ ■ ◆


「【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】――【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】――【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】――」

 戦場はアリス・アインスの【大嵐(テンペスト)】による暴風雨が吹き荒れ、時折、まともに触れれば手足が吹き飛びかねない強烈な風の刃がアリス・アインスから放たれる。
 それを前衛組が死力を結して押し留め、バルベラさんが前衛組の傷を癒している。

 僕は少し離れた場所から、アリス・アインスの体――あいつの言うことが本当ならば、世界で最も固い物質――の【収納】を試み続けている。
 何度やっても抵抗(レジスト)される。
 その都度、ごっそりと魔力を失い、丹田が傷つく余り僕は吐血し、ベルゼビュート様とノティアに【魔力譲渡(マナ・トランスファー)】と【(エクストラ)治癒(・ヒール)】を掛けてもらう。
 でも、これでいいんだ。
 スキルは負荷をかければかけるほど成長する。
 いまの僕の、スキルレベル8の【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】をもってしても【収納】できないアリス・アインスを【収納】し続けようと試みることで、僕のスキルは空前の負荷を受け続ける――スキルが成長する。

 …………どのくらい、そうしていただろうか。
 そのときは、来た。

「【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】――あぐっ!!」

 頭を内側から殴りつけられたみたいな猛烈な痛みとともに、目の前が真っ暗になった。