「な、なんてこと……」

 呆然と、真っ平らな石の断面を見つめる。

「お師匠様、できた、できまし……」

 そのとき急に、膝の力が抜けた。

「おっとっと!」

 お師匠様が抱き留めてくれる。

「よし、よし! それが魔法の行使による『疲労』さね」

「ひ、疲労……?」

 言われた通り、確かにものすごく疲れた感じがする。
 気がつけば僕は、肩で息をしていた。

「そうやって疲労を感じるってことは、お前さんのスキルに負荷がかかったってこと。つまり石を切断し続けることで、【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】のスキルレベルを伸ばすことができるってわけさね。もしかしたら、すでにレベル2に上がってるかもしれないよ? 見てみな」

「は、はい……」

 自分の足で立ちつつ、

「【ステータス・オープン】!」


*****************************************************
【名前】 クリス
【年齢】 16歳
【職業】 冒険者
【称号】 (なし)
【契約】 アリス・アインス・フォン・ロンダキアの弟子

【LV】 7 ←UP!!
【HP】 179/179 ←UP!!
【MP】 428/579 ←UP!!

【力】   28 ←UP!!
【魔法力】 57 ←UP!!
【体力】  31 ←UP!!
【精神力】 40 ←UP!!
【素早さ】 37 ←UP!!

加護(エクストラ・スキル)
  無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)LV2 ←UP!!

【戦闘系スキル】
  短剣術LV1 弓術LV1 盾術LV1 体術LV1

【魔法系スキル】
  魔力感知LV1 魔力操作LV1 時空魔法LV1

【耐性系スキル】
  威圧耐性LV1 苦痛耐性LV5
  睡眠耐性LV3 空腹耐性LV5

【生活系スキル】
  ルキフェル王国語LV3 算術LV3 野外生活LV3
  料理LV3 野外料理LV3
*****************************************************


「わっわっわっ! お、お師匠様! スキルレベルが上がってます!」

「それは良かったねぇ」

 頭を撫でられてしまう。

「ほら、【目録(カタログ)】と唱えてみな」

「はい! 【目録(カタログ)】!」

 ブン……と、目の前に【ステータス・ウィンドウ】に似た画面が表示される。

「見てもいいかい?」

「もちろんです!」

「ここ、そう、このボタンをタッチしてみな。そう、それで【収納】日時順に並ぶから、ほれ、『半分になった石』をタッチしてみな」

「はい」

 タッチすると、手の上に石の片割れが現れる。
 いままで、中に手を突っ込んで取り出したいものを探していたことを思うと、びっくりするほど便利になった。

「石はもう捨てちまいな。で、続いて……これだ、『吐瀉物と汚泥にまみれたグラス』」

「うえぇ……」

「これを、長押しする」

「はい」

「すると、細分化されて表示される」

「わっ、本当です!」

『吐瀉物と汚泥にまみれたグラス』の右隣に、『グラス』と『吐瀉物』と『汚泥』が表示された。

「で、その中の『グラス』をタッチしてみな」

「はい」

 言われるがままタッチすると、手の上に綺麗な状態のグラスが現れた!

「これが強いんだ。めちゃくちゃ強い。【目録(カタログ)】と【万物解析(アナライズ)】の合わせ技は、世界最強の魔法と言っても過言じゃぁない」

「え、えぇ……」

「その威力の一端を、いまここで見せてやろう」

 お師匠様が、その手でもって僕の両目をふさぐ。

「な、何ですか急に!?」

「いまからお前さんに、儂の視界を貸してやる」

「視界を、貸す?」

「【視覚共有(シンクロナイズド・アイ)】」

「わわわっ!?」

 急に、視界に僕が映った!
 いや、この視界は――

「お師匠様の、視界?」

「そうさね。目は閉じたまま、儂の視界に集中おし」

「は、はい」

 お師匠様の視界で、お師匠様が杖を側溝に向けてかざし、

「【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析(アナライズ)】」

 真っ赤な魔法陣が溝の上で一瞬だけ展開され、消える。
 そして、側溝の表面が青白く輝き出す。

「目を開いて、溝を見てみな」

 言われて目を開くと、自分の視界が戻る。
 その目で側溝を見るも、お師匠様の視界のようには光っていない。

「いま光って見えたのは、儂の視界の中だけのこと。光っているのは、【万物解析(アナライズ)】によって導き出された『除去すべき汚れ』さね」

 な、なんと便利な……ッ!!

「じゃあ、溝に手をかざして、目を閉じ、こう唱えるんだ」

 言われるがまま手をかざし、目を閉じる。

「【万物解析(アナライズ)】によりて導き出されし」
「……あ、【万物解析(アナライズ)】によりて導き出されし」

「『除去すべき汚れ』を【収納】せよ」
「『除去すべき汚れ』を【収納】せよ」

「「【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】」」

 …………後には、ありとあらゆる汚れが綺麗さっぱりなくなった、磨き立てのような側溝があった。