陽が傾きかける頃、自分の書いた文章がいつもより荒れていることに気が付いて手を止める。出来上がった文章を読み返しては、気持ち悪い部分を修正していく。

以前より集中力が続かないと感じるのは、連日の疲れが溜まってきているせいなのか、それともただ甘えているだけなのか。

集中力が空になると、僕は最寄りのカフェで作業を進める手段をとり始める。

出かける前に冷蔵庫の上にある小ぶりの青林檎(あおりんご)を手に取り、軽く水洗いしてから齧(かじ)る。

形が小さく側面に傷んだ跡があるため、おつとめ品売り場に置かれていたものだ。甘い果汁を脳に染み渡らせると、幾分(いくぶん)気持ちが前向きになった。

頻繁にカフェに通うようになると、ドリンクと一緒に甘いものを注文してしまう。

たまに通う分には問題ないが、ここ最近はカフェに行く頻度が明らかに増えてきており、家計や体調に大きな悪影響を与えてしまう。

だから僕は出かける前に胃の中に食べ物を入れておき、カフェでは一杯500円のブラックコーヒーだけを頼むことを徹底している。500円の席料を払って数時間も居座る面倒な客であることを許してほしい。

ノートパソコンとノート、それから読みかけの新書を型崩れしたリュックサックに詰め込む。デスクトップパソコンはスリープ状態にしたまま立ち上がり、鍵とスマホと財布をズボンのポケットに入れる。

仕事が順調であれば、玄関に向かう途中で解放感を感じることもあるが、もちろん今日は感じない。

決して仕事がひと段落しているわけではないから、脳が締め付けられているような重苦しさが残っている。それでも、外に出るこだけで部屋に籠(こも)ってすっかり凝り固まった脳と身体を気分転換させるには十分過ぎる効果がある。