思わず息を呑んだ。と、同時にとんでもないことをしてしまったことを痛感した。始めは、知らない人だから、初めて会った人だからって、この悩みを、首の周りに巣くう"何か"に触れさせてしまっていいと思ってしまった。でも...でもっ、これは、このとんでもないものは、誰かに移しては行けないものだった!だって言うのに、何も考えずに、僕は...!とにかくなにか言葉をかけようと、僕は軽すぎる言葉を並べた。
「その絵はとりあえず提出して、とかは...?」
「手を抜けって言うの...?」
「あっ、いや、そうじゃなくて...駄目か、じゃあ、見送る、とか...先生に話せば、何とか...。」
「今回の課題は、コンクールにもつながるんだよ?」
どうにもこうにも。八方塞がり。そんな言葉しか出てこなくなった。でも、そんな言葉じゃ、何の助けにもならない。
 僕が黙ってしまっていると、蕾は首を振ると
「ごめん、めんどくさくなっちゃって。ありがとね、相談、乗ってくれて。」
そう言って蕾は道具を片付け始めた。道具の片付けを手伝う事もできず、かといってその場にいるのも気不味く
「...何かあったら、言ってね。俺も、頑張ってみる...。」
そういって去ることしかできなかった。
 昇降口には、メーメがまたのんびりと、あくびをしていた。僕はメーメに近づいて、そっと撫でた。メーメは嫌というわけでもないし、かと言って気に入っているわけでもない。そんな様子だった。ふと、さっきの様子が思い出された。さっきの僕は、とてもカッコ悪かった。いけしゃあしゃあと踏み込んで、自分の持っているものに触れさせて、大きな壁を作っちゃって、、それが壊せないと分かったら、次こそはって、何とか頑張っているような振る舞いを見せて。本当に、ダサい。でも、今の僕ではどうしようもなかった。何も、思いつかない。僕はメーメを撫でながら、ふと呟いた。
「お前も、蕾と仲が良いならどうにかしてやってくれよ。」
メーメはまた大きな欠伸をした。
『知らないよ。あっちにはあっちなりの考えがあるでしょ。それをとやかく言う必要はあるのかな。それに、首を突っ込んだのはそっちでしょ。自分でどうにかしなよ。』
状況が状況だから被害妄想も混じっているけど、なんだかそんな感じのことを言っているような気がした。僕は撫でる手を止めて、おとなしく家に帰った。
 寝る前になっても今日の事が頭に浮かぶ。何とか助けたい。でも、どうしたら?移してしまったのは、僕だ。だからこそ、他人事なんかじゃない。じゃあ、どうしたら?でも...心に、なんとなく引っかかった事があった。未来の自分の姿はわからないのに、形はしっかりと描けている。じゃあ、何かが、欠けているのかな。蕾は、僕とは違って土台ができている。だから、その何かを埋める決定的なピースがあれば...救えるかもしれない。