居ても立っても居られず、僕は美術室の扉を開けた。蕾が、泣き顔でこちらを見た。
「鎖織、くん...?」
震える声で僕の名を呼んだ。まるで、せき止めていたものが溢れてしまったような顔だった。僕はただただ目を見開いて、無言で見ることしかできなかった。けど、こうしちゃいられないと思って、急いで声をかけた。
「ね、ねえ、ど、どうしたの。何があったの?」
「...ううん、何でも無いよ...」
こんな時でも蕾はまた隠そうとしてくる。何にも考えずに僕は怒鳴った。
「何でもないわけ無いだろ!そんな顔して、まだ隠すのかよ!」
「...っ!」
怒鳴ってしまった後、急に冷静になった。やっ、やっば...!やらかした!泣いている子に急に怒鳴るのは、よくよく考えれば結構酷なことをしている。
「ごっ、ごめん怒鳴って...!」
「...ううん、大丈夫。...そっか...そうだね、うん、私も、話さなきゃだよね。」
そういって蕾は鼻をすすりながら絵の方を見た。もしかして、絵のスランプ?そう思ったけど、絵は完成していた。画家がよく被っている帽子を被った、絵の具の飛び散るエプロンを付けて、微笑んでいる女性が居た。よく見ると、その絵の女性は蕾に雰囲気が似ていた。出来も、素人目線だけど良いものに見える。
「この絵、さ...私をモチーフにして描いたの。テーマが、『将来の自分』っていうもので、課題として出されたの。」
「そうなんだ。良く描けてると思うけど。」
「ありがと。...でも、でもさ...完成する度に、なんだか、胸騒ぎっていうか、違和感って言うのかな。そんな感じのが、ぶわって来てさ...。」
蕾の声が段々と震えてきた。
「絵を、完成した絵を見る度に、絵の自分が、自分のはずなのに、別人に見えるの...!絵の中の誰かが、『これはお前じゃないだろ』って、言ってるように思えてさ...そしたら、怖くなっちゃってっ...。」
蕾の声は完全に泣き声になった。
「自分の将来の姿が、全く浮かんでこないの!夢も、やりたいことも決まっているのに...!ずっと、ずっと、はっきりしないままで...正直、辛いよ...!」
蕾の目からまた、涙がポロポロと溢れてきた。と同時に、蕾の首にも何かが見えた。