電車に乗り、高校に向かう。
 始発のに乗ると学校がまだ開いていないので駅のすぐ側にある、公園のベンチに座り本を読む。たまに喫茶店で居たりするが、公園で本を読みながら朝早くからジョギングしている人やベランダに洗濯物を干している人など人間観察をするのが好きだからだ。
 公園から徒歩十五分。通学路には葉がない裸の桜の木が何本もある。朝練の部員もちらほらと歩いている中、佐藤旭(さとうあさひ)は一人音楽を聴きながら登校している。


 ドアの鍵を開け、誰もいない図書室に入る。
 私は別に部活には入っていないが、この時間に図書室で本を読むのが日課になっている。
 窓から差す朝焼けの光を照明代わりにし、本を貸し借りするカウンターにある椅子に腰掛け本を読み始める。
 一つだけ開けておいた窓から入る風は頬を刺すように冷たいがそれが心地よい、自分が本をめくったページの音が心地よい。最高のBGMだ。
 すると入口のドアが開いた。
 この時間に人が来るのは珍しいと思いながら顔を上げると、そこには同級生の久堂柊(くどうしゅう)がいた。
 「おはよう。」
 先に声をかけてきたのは柊の方だった。
 柊とは小学校からの同級生で、その頃から私と柊は図書委員でよく一緒に居たが、そこまで仲が良かった訳では無い。
 「おはよう、今日早いね。」
 私は柊に返事をした。
 「なんとなく早く来ただけだよ笑」
 柊はそう言って私の隣にある椅子に腰掛けた。
 「何の本読んでるの?」
 柊が私の方に覗き込んでくる。
 「明治浪漫の小説」
 「旭ってそういう系好きなの?」
 柊とはあまり話した事は無いが、私と一緒で本は好きだ。
 「うん。なんか昔でもなく、今でもない感じが好きなの。」
 「ふーん。じゃあ貸してよ旭のおすすめ。」
 柊が意外に食いついてきてくれて少し嬉しかった。
 「いいよ。家にいっぱいあるから笑」
 「やった笑」
 柊は私に朝日のように輝く笑顔を見せた。
 「明治とか大正っていいよな〜」
 柊がふと言ってきた。
 「柊も好きなの?」
 柊と趣味が合うかもと思い私は空かず問いかけた。
 「なんか今使ってる言葉とちょっと違う感じが好きだな。」
 「分かるそれ笑」
 柊も同じ事を思っていたのと思い心の中で喜んだ。
 「それぐらいの時代ってデートの事を"デエト"って言うじゃん。そういうの好き。」
 「分かる!あとキスの事をくちづけって言うのも好き」
 柊とこんなにも会話するのは初めてだ。
 「意外と気が合うな笑」
 「そうだね笑」
 私はこの会話が人生で一番楽しいと思った。
 
 朝練の終わるチャイムが図書室に鳴り響く。
 「じゃあ行こっか。」
 「そうだな。」
 私と柊は自分の荷物を持ち、図書室を出る。
 教室に行くまでの時間もずっと話は止まらなかった。
柊が好きな小説家や私の好きなジャンルの小説などお互いに本の事で話が盛り上がった。 
 教室に着いてもまだ生徒は一人もおらず、ずっと柊と話していた。
 今気づいたが柊と私は偶然席が前後だった。その事に二人で気づきまた笑う。
 人と話してこんなに笑ったのはいつぶりだろうか。
 私は別にいじめられている訳では無いが、人と接触するのがどうも好きでは無い。
 友達と話していると自分の趣味が合わずずっと友達の話に合わせながら話すのが好きでは無いから必要外に私から誰かに話しかける事はない。
 でも、私はそういう自分の方が好きだ。好きな時間に帰って、好きな時間に本を読む。それが心地よい。

 少しすると朝練から帰って来た者や、登校してきた者が入ってきた。
 柊と話していたが、違う友達が話しかけてきたので柊はその友達と話す。
 別にそれが苦ではない。
 柊は私と違って友達が多いからそういう事もあるだろう。
 私はそう思いまた本を開いた。

 六時間と長い授業が終わり、下校の時間になった。
 他の者はまだ教室や廊下で立ち話をしているが、私はそそくさとその場を後にした。
 上履きから靴に履き替えてが校門へ歩いている途中で、「旭!」と呼ぶ声が聞こえた。
 私はくるっと振り向いた。
 そうすると走ってくる柊の姿が見えた。
 「一緒に帰ろう。」
 息を切らして柊はそう言って来た。
 「そんな走らなくても笑」
 私にそれを言うだけに全力疾走してきた柊が少し可愛らしくて笑った。
 「どっか寄る?」
 息を整えた柊が問いかけてきた。
 「丁度隣駅の古本屋に寄ろうと思ってたとこ。」
 「分かった。」
 そして柊と私は並んで歩いて行く。
 「旭って行きとか帰りって何してるの?」
 「ほとんど音楽聴いてるかな。」
 「どんなの聴かせて。」
 柊が興味津々に言ってくる。
 そうして私はカバンの中からワイヤレスイヤホンを出して柊に片耳を渡そうとしたが辞めた。
 「どうしたの?」
 柊が様子をうかがう。
 「やっぱやーめた笑」
 私は柊にそう言った。
 「えーなんで?笑」
 「イヤホンはね片耳で聴くもんじゃないんだよ。」
 「えっ?」
 柊がぽかんとした顔で言ってくる。
 「片耳で聴いてしまうとイヤホンのLとRで鳴ってる音が違うから別の曲になっちゃうんだよ。」
 私は柊に自慢げの様に言った。
 「へぇ〜。なんか納得した笑」
 柊が笑って言ってくる。
 「ちょっと前にやってた"花束みたいな恋をした"って映画知ってる?」
 私はそう柊に問いかける。
 「あ〜知ってる。」
 「その時にこの事を言ってたの。それを見てからは片耳イヤホン辞めた笑」
 「影響受けすぎ笑」
 それから柊とたわいも無い話をしながら古本屋へ向かった。


 この時、私は彼を好きになった。



 彼女は、自分より背の高い本棚をまじまじと見ながら真剣に本を選んでいる。

 佐藤旭との出会いは小学校の頃。
 同じ図書委員だっただけであんまり話した事もなかった。 
 だけど、中学でもずっと旭と委員会が同じ。
 旭は本が好きなのか、それともただ図書委員の仕事が好きなのか。
 そう疑問に思いながらも俺は旭と話す事はなかった。
 だが高校に入ってやっと決心した。
 旭と話してみたかった。
 話した事がない訳ではないが、たわいも無い会話をただ旭としたかった。
 
 図書室に居れば旭が来るだろうと思い、俺は朝早くに家を出て学校に向かった。
 登校途中に何回も思った。
 なぜこんなにも旭が気になるのか、なぜこんなに話してみたいのか。
 そんな事を思っていると図書室の前に着いた。
 職員室に鍵を取りに行こうと思うとそこには鍵がなく、昨日一年生が戸締りをし忘れたのだろうと思いながら扉を開けた。
 そこには自分が話したかった相手の旭が居た。
 「おはよう。」
 咄嗟に言葉が出た。
 「おはよう、今日早いね。」
 「なんとなく早く来ただけだよ笑」
 旭の事が気になって早く来たなんて言えない。
 そして旭の隣の椅子に腰掛ける。
 「何の本読んでるの?」
 旭にそう問いかけてみる。
 「明治浪漫の小説。」
 俺も好きだな。
 旭との共通点があって少し嬉しかった。
 それから旭とずっと話していた。旭におすすめの本を借りることにもなった。
 するとチャイムが鳴ったので教室に向かった。
 旭が今、席が前後だったのに気づいて旭が笑う。
 俺は席が前後なのは知っていたが、知らないフリをして一緒に笑う。
 教室でも少し話していたが、違う友達が話しかけてくるので旭との話を切り上げる。
 この時ばかりは友達を恨んだ。
 
 六時間目が終わり、少し友達と話して旭と帰ろうと思うと旭はそこにいなかった。
 もう先に帰ったのだろうか。
 俺は咄嗟に走り出した。
 靴箱に行くと、旭の靴が無かったのでもう帰っているのが分かり靴を履き替えまた全力疾走する。
 すると校門辺りに旭のような人影が見え、咄嗟に「旭!」と叫んだ。
 そうすると旭が振り返ってくれた。
 「一緒に帰ろう。」
 俺は息が切れながら旭に言った。
 「そんな走らなくても笑」
 そうだ。そんなに走らなくても良かったのに俺は何故か全力で旭を探していた。
 それから旭と古本屋に行く事となり、二人で学校を出る。
 途中で登下校中に音楽を聴くと言って、聴かせてもらう事になったが旭が「やっぱやーめた笑」と言ってきた。
 何故かと聞くと、最近映画を見て片耳イヤホンは音楽を侮辱する行動だと知ったらしくそれから片耳イヤホンは辞めたらしい。
 「影響受けすぎ笑」
 そんな旭が可愛かった。
 それから旭とたわいも無い話をしながら古本屋へ向かった。
 

 この時、俺は彼女の事を好きだと気づいた。


 自分より少し背の高い本棚を見上げる。
 私は本を選ぶ時はほとんど直感で選んでいる。
 たまにその直感がハズレる事もあるけどそういうのも好きだ。
 「これとこれにしよっと。」
 私は本棚の本を背伸びして取ろうとする。
 すると、柊が私が取ろうとした本を取ってくれた。
 「ありがと。いいね背が高い人は笑」
 「まあな笑」
 柊に取ってもらった本を受け取る。
 「あとは洋書も気になるな〜」
 「旭って洋書とかも読むの?」
 「うん。英語の勉強になるし」
 柊がびっくりした顔で見てきた。
 「凄いな。」
 「こういう古本屋の洋書ってよく単語にマーカーで線ひかれててね、それを見ると前にこの本を読んでた人はこの単語分からなかったのかなとか思って面白いの笑」
 私はそう言って柊に英語が少ししか分からない人でも読めそうな本を渡した。
 「はい。」
 「面白そうだから読んでみるよ。」
 「うん。」
 私は柊に笑顔を見せて言った。
 
 古本屋を出た後、俺達は近くのカフェに行った。
 「何になさいますか?」
 カフェの店員の人が問いかけてくる。
 「俺はホットのブラックコーヒーで。」
 「じゃあ私はホットココアでお願いします。」
 「かしこまりました。」
 店員がお辞儀をしてはけて行く。
 「柊ってコーヒー飲めるんだね。」
 「親が好きだからかな笑」
 「へぇ〜なんかかっこいい笑」
 俺は旭にこんな事言われるとは思わず、照れてしまった。
 「そう言う旭は?コーヒーだめなの?」
 「めっちゃ苦手〜」
 旭が無理って顔をして言ってくる。
 「大人になったら飲めるとか言うけどそれでも飲めないって自信ある笑」
 「そんなに笑」
 こういう旭は初めて見た。
 「けど、あるお店のコーヒーだけは飲めるんだ。」
 「え〜どこの?」
 「秘密。笑」
 シーっとジェスチャーをしながら旭が言ってくる。
 いつか聞けたらいいなと俺は思った。
 少しすると店員が注文していた飲み物を持ってきた。
 「そう言えば柊って家どこだっけ?」
 旭が熱いココアをふーっと冷ましながら言ってきた。
 「俺らが通ってた小学校から近いとこらへんだよ。」
 「って事は二丁目?」
 「うん。」
 「本当に?私も二丁目だよ笑」
 旭と家が近所だったのがとても嬉しい。
 「マジで?旭の家近所だったんだ笑」
 「なら明日から一緒に行こうよ学校!」
 今俺が言おうとした事を旭に言われた。 
 「そうだな一緒に行こう。」
 本当は「俺も同じ事言おうとしてた笑」と言いたかったけど流石に嫌がられると思い俺は旭の提案に賛成した。
 
 最寄り駅に着き、柊と並んで家に帰っていく。
 まさか柊と家が近所とは思わなかった。
 けどそれが嬉しかった。
 「あ〜久々に楽しかった笑」
 「それは良かった。」
 柊が笑顔で言ってくる。
 「じゃあ私こっちだから。」と、家の方向を指さす。
 「じゃあな。」
 柊がそう言ってくる。
 「うん、また明日。」
 少し寂しい気もするが、明日からは一緒に登校出来るからワクワクしている。
 そうして私は自分の家の方向に歩いて行く。
 すると「旭!」と後ろから呼ばれて、振り向くと。
 「明日イヤホン持って行く!」と柊が叫んで言ってくる。
 学校帰りのあの事かと思い、「忘れないでね!」と言って私は手を大きく振った。 
 
 家に帰って自室に入ると何故か少しにやけてしまった。 
 そしてさっきの古本屋で旭におすすめされた洋書を取り出しベッドの上に座り読む。
 知らない間に一時間も本を読んでいた。
 今すぐにでも旭に感想を伝えたくなり、俺は旭にメールした。
 
 "旭のおすすめの洋書めっちゃ面白い笑"と打ってメッセージを送る。
 すると数分もしない内に旭から返事が返ってきた。
 "それは良かった笑"と可愛らしいスタンプと一緒に返信がきた。
 それから少しやり取りし、俺は勉強する事にした。

 家に帰ってから一時間程勉強をしていたら、柊からメールがきた。
 こんなに早くくるとは思わなかったから嬉しかった。
 "旭のおすすめの洋書めっちゃ面白い笑"と柊が送ってきた。
 気に入ってくれるか少し不安だったがメールしてきた程だから気に入ったのだろう。
 (電話とかしたら面白いんだろうな…)と、思いつつ柊とメールで会話した。

 翌朝、昨日柊と解散した辺りで彼を待つ。
 「おはよう。」と手を振って柊がやってくる。
 「おはよう。」
 私もそれに返事をする。
 「旭っていつもこんな時間?」
 いかにも眠たそうな顔をして言ってくる。
 「うん。始発に乗って学校の最寄り駅にある公園とか喫茶店で時間潰して行くの。」
 「どっかのOL?笑」
 「よく言われる笑」
 そう交し柊と駅に向かう。
 
 電車に揺られながら柊も私も本を読む。
 車内に人はそこまでおらず、いつもの会社員の人や昨日の終電に間に合わず始発で帰る人などがいる。
 周りの人からはカップルに見えるのだろうかと少し気にしつつ学校の最寄り駅まで向かう。
 今日は柊がいるので駅から徒歩五分の喫茶店に向かう。
 この喫茶店は朝の四時から開店していて、老夫婦が経営している。
 店に入ると「いらっしゃい。」といつも出迎えてくれる奥さんの佳代さん。
 「いらっしゃい旭ちゃん。」と佳代さんに続いて言ってくる旦那さんの竜郎さん。
 「今日は彼氏も一緒なの?」と微笑みながら、佳代さんが言ってくる。
 「違いますよ〜笑」
 周りの人からはそう思われていると思うと少し嬉しかった。
 「初めまして。旭と小学校からの同級生の久堂柊と言います。」
 柊がぺこりと頭を下げて二人に自己紹介した。
 「礼儀正しい子だね。」
 竜郎さんがコーヒーカップを拭きながら言ってくる。
 「若い頃の竜郎さんみたいね。」と佳代さんが竜郎さんと微笑む。
 私はたわいも無い話をして笑い合うこの空間が大好きだ。
 「さあ座ってね。」
 佳代さんが席を案内してくれる。
 「旭ちゃんはいつものカフェラテね。」
 「はい。」
 「柊くんはどうしますか?」
 「俺はブラックコーヒーでお願いします。」
 「大人ね。かしこまりました。」
 にこっとした表情で佳代さんはカウンターへ入っていった。
 「もしかして、旭が唯一コーヒーが飲めるのってここ?」
 柊が昨日話した事を言ってきた。
 「正解!」
 「ここのコーヒーは格別だからね。」と自慢げの様に言う。
 「楽しみだな笑」
 少しすると佳代さんがカフェラテとブラックコーヒーを持ってきてくれた。
 「いただきます。」
 柊がそう言って、コーヒーを啜る。
 「めっちゃ美味しい。」
 びっくりした表情で言ってくる。
 「でしょでしょ笑」
 「昨日行ったカフェと全然違う。」
 「本当にここのコーヒーは美味しいんだよ。」
 私はカウンターにいる竜郎さんと佳代さんにニコッと笑った。
 コーヒーを飲みながらお互い本を読む。
 学校が開く時間になったので喫茶店を出る。
 「また来てね。」と佳代さんが柊に言って二人で見送ってくれた。
 
 思っているより早く旭の秘密が知れて朝からとても嬉しい。
 旭とこうやって一緒に登校している自分が今世界一幸せと思ってしまう。
 図書室に着き、昨日と同じ様に過ごす。
 「はいっ昨日言ってたおすすめの本。」
 旭が俺に数冊渡してくる。
 「ありがとう。」
 「読んだら感想聞かせて。」とにこっとした表情で旭が言ってきた。

 今日も昨日同じく一緒に帰る事になった。
 「そういえばイヤホン持ってきた?」
 柊にそう問いかける。
 「もちろん。」
 そう言って柊が自分のカバンからワイヤレスイヤホンを取り出した。
 私のスマートフォンでオーディオ共有し柊のイヤホンと連携させる。
 私も柊もイヤホンを付け曲を再生する。
 「こんな曲聞いてるんだ。」
 イヤホンを付けているが微かに柊の声が聞こえた。
 そして私達は駅へ向かった。 
 

 それから私達はこの関係のまま、お互い片思いだと思ったまま三年生になった。
 いつも通り待ち合わせし、駅へ向かい、公園か喫茶店で時間をつぶし、学校へ登校し、時間になると一緒にいつも通り帰る。
 別に前よりそれ以上でもそれ以下でもない生活が夏直前まで続いた。
 
 六時間目終了のチャイムが鳴り生徒達が騒ぐ。
 そしていつも通り柊と話していると、他の生徒何人かが柊の元に集まってきた。
 「柊、今日暇?一緒にカラオケでも行こうぜ!」
 柊の元に集まってきたグループの一人が柊に言った。
 「うーんどうしよっかな〜笑」と私の方を向いてきた。
 「全然大丈夫だよ。行ってきて。」
 私は柊にそう言う。
 「せっかくだし旭も行く?」
 柊が私を気づかって言ってくる。
 「ううん。ちょっとそう言うの苦手で笑」
 今日ぐらい一人で帰ってもいいだろうと思い、柊の誘いを断る。 
 「そっか。じゃあまた連絡する。」
 「うん。」
 俺はいいやと言って欲しかったが、別に私が柊に言って欲しかっただけだからと思い私は教室を出る。
 

 今日は学校の友達と遊びに行く事になり、旭と帰れなくなった。
 旭は大丈夫と言っているが、本当だろうか…と言っても俺が行かないで欲しいと旭に言われたかっただけだ。
 数分程歩いていると、俺達のグループを追い越して行こうとする女子の会話が聞こえた。
 「ねぇ聞いて、川谷駅前の道路で接触事故あったらしいよ〜」
 「マジで?」
 (俺の帰る駅だな…)
 「なんか高校生ぐらいの子とぶつかったとか」
 その瞬間すぐに旭の顔がよぎった。
 「ごめん!用事思い出した!」と言い旭の元へ向かう。  
 さっき旭が帰って行った時間帯だと事故にあった可能性も高い。 
 なぜかいつもより遥かに早く走れた。 
 駅前に着くと事故にあっただろう場所に人が大勢集まっている。
 すぐにその元に向かい、人をかき分けながら旭を探す。
 「旭!」
 俺は必死に探した。
 もし事故にあっていたらと思うと胸かま張り裂けそうだ。
 すると、「柊?」と言う声が聞こえすぐに振り返るとそこに旭がいた。
 「遊びに行ったんじゃ…」とぽかんとした顔で言ってくる。
 俺は何故か旭を抱きしめてしまった。
 「どうしたの?笑」
 「良かった。巻き込まれてなくて…」
 俺は今にも泣きそうな声で言った。
 すると旭が俺の背中をポンポンっと叩いた。 
 俺は旭を抱きしめるのを辞めた。
 「なあ旭?」
 「何?」
 「俺は旭が好きだ。」
 今そう言わないともう絶対に言えないと思い俺は旭に告白した。
 「私もだよ。」と旭は驚きもせず、言ってきた。
 その時俺達はお互い片思いと思っていたのが両思いになった。
 
 それからと言うものの学校では誰にも付き合った報告はぜず旭と学校生活を共にした。 
 お互いの気持ちが分かってからは、前よりそれ以上に仲良くなったと思う。
 かと言ってお互い受験生だから、休みの日にデエトに行く訳でも無かった。
 
 でも俺達には一番の共通点がある。
 それは、同じ大学を目指している事だ。 
 旭とたまたま大学の話になりその時に同じ大学を志望していると気づいたのだ。 
 お互い本が好きだから出版関係で働きたいと思っており、同じ文系大学を選んでいたのだ。
 旭とは怖いほど意見が合うと思った。 
 それからよく旭と休みの日などに一緒に勉強した。
 
 柊と一緒に近くの図書館で勉強し、帰りにいつもの喫茶店に寄る。
 「やっぱり私の勘が当たったわね。」
 佳代さんがコーヒーを持ってきて私達に言ってくる。
 「お陰様で。笑」
 私はぺこりとして佳代さんに言った。
 「それにしてもやっぱりお似合いだ。」
 竜郎さんが優しい眼差しで私達を見てくる。
 「ありがとうございます。」
 柊もここの雰囲気が好きになり、家族でも来たそうだ。余程あのコーヒーの味が衝撃すぎたらしく、コーヒー好きの家族も連れて行ったそう。
 
 それから高校最後の夏休みが来た。
 お盆になると、近所で夏祭りが開かれる為とても町がにぎやかだ。
 柊と夏祭りに行く約束はしている。
 今考えると初めてのデエトだなと思いつつ私は浴衣を着て、帯を締める。
 いつも通りの待ち合わせ場所に行くとそこには柊が待っていた。
 「お待たせ。」
 柊が私を見て目が泳いでいる。
 「予想以上に綺麗だな。」
 こんなにど直球に言ってくる人は他に居るのだろうかと思いつつ「惚れ直した?笑」と冗談を交わし、祭りが開催される場所まで向かう。
 私達が行く夏祭りはこの周辺の祭りで一番大規模の為、少し離れた所に住んでいる学校の同級生も沢山来る。
 覚悟はしていたが案の定クラスの友達に見つかった。
 「今年はなんで一緒に行かないのかと思ったら、佐藤と付き合ってたのかよ〜笑」
 いつも明るい柊の友達がびっくりしながら言ってくる。
 「こう見ると二人めっちゃお似合いだね〜」と一緒にいる女の子達も言ってきた。
 クラスの友達と解散した後柊が、「大丈夫?」と言ってきた。
 「大丈夫だよ。反応には少し戸惑ったけど笑」
 あまり話さないクラスの友達に話しかけられたのを気遣ってくれた。

 それから屋台でたこ焼きと焼きそばを買い、少し人気の居ない場所で二人で食べる。
 「夏祭りのたこ焼きや焼きそばって格別だよね〜」
 「何でだろうな笑」
 この他愛もない話かを付き合ってからよくするようになった。
 花火まで少し時間があった為、二人でかき氷を食べる事にした。
 「私夏祭りの食べ物でかき氷が一番好き笑」
 「俺も」
 そう言いながら花火まで二人で待った。
 
 俺達は花火が見える隠れベストスポットで花火を待つ。
 念の為事前に検索していて良かったと安堵する。
 すると、少し遠くにあるスピーカーからカウントダウンの音が聞こえてくる。
 「⒌ ⒋ ⒊ ⒉ ⒈!」
 カウントダウンと共に夜空一面に花火が咲き誇った。
 数十秒後俺は、旭の方を見る。
 旭はおっとりした顔で、花火を見ている。 
 すると、俺の視線に気づいたのか旭も俺の方を向く。 
 数秒程お互い見つめ合う。
 このタイミングだと思い俺と旭は口づけを交わした。

 旭との初めての口づけは甘いシロップの味がした。

 花火が終わり二人で家路を歩く。

 旭と手を繋いで歩く。
 旭が少し照れて頬が赤い。
 そんな旭が愛おしい。
 こんな気持ちは初めてだ。
 
 柊と手を繋いで歩く。
 柊が少し照れて手が暖かい。
 そんな柊が愛おしい。
 こんな気持ちは初めてだ。
 

 「"旭と" "柊と" ずっと一緒にいたい。」