でも、終わりは唐突だった。


 それははじめての文化祭を存分に楽しみ、夏休みを迎える前くらいの頃だった。


「香音って旭と付き合ってるの?」


 昼休み、いきなりそんなことを聞かれ、思わず飲んでいたいちごミルクを吹きだしそうになった。


 そのとき旭は用事があると職員室に行き、戻ってきていなかった。


「なんかいつも距離近いじゃん」

「夫婦漫才してるもんな」


 夫婦! 夫婦! と手拍子が巻き起こる。


「やめてよ、そんなわけないでしょ」

「ほんと?」

「ほんと。旭なんて、嫌に決まってる」


 早く話を逸らしたくて、いつものノリのまま強めに言ってしまった。


 近くに旭がいたことも知らず。



「香音、俺のこと嫌だと思ってたの?」


 ふたりで話そうと呼び出され、怒ったようにそう聞かれた。旭はその前の会話内容は知らず、最後の私の一言だけを聞いていたらしかった。


「違う、それはそういう意味で言ったんじゃない」

「じゃあどういう意味で言ったんだよ?」


 はじめて旭が声を荒らげるところを見た。


「嫌いなら嫌いって言えばよかっただろ。俺だって一年の頃から、お前のことたくさん気にかけてやってたのに」


「……気にかけてやってたってそんなふうに思ってたの? 私が可哀想な子だから助けてあげなきゃって?」



 口よ、止まれ。抑えろ抑えろ。私が悪かったんだから謝ればいいのに、ややこしくするな。


 饒舌になった私に目を泳がせた旭へと畳み掛ける。


「仲良いと思ってたの私だけ? 私は旭にとって対等な関係ですらなかったの?」

「……ごめん、さっきのは違う」

「違うってなに? 自分の正義感振りかざして、自己肯定感高めるために私を利用しないでよ!」


 言いすぎた、と思った時には遅かった。


 諦めたように旭がため息を吐いた。その瞬間に何もかも終わった、と感じた。



「……もう、お前とは無理」


 それから私たちはお互いを避けるように、生活を始める。


 同時に、仲の良かった友達のなかに私から離れていく人もいた。


 最初のころのように友だちがいないわけでも、堪えきれないほど辛いわけでもない。


 それでもぽっかりと空いてしまった心の穴は埋まりそうもなく、少しだけ色あせてしまった世界で罪悪感を抱えて生きるのは酷く息苦しかった。