机と椅子がぶつかりあう音が響く。その日、高校に入ってからかなり時間が経ってしまったが、初の席替えが行われた。


 新しい席は一番後ろの右端。ようやく前回の席から解放されることに安堵し、私は内心胸を撫で下ろしていた。


 自分の席を移動させ終わると素早く座り、ぼんやりと騒ぐクラスメイトを眺める。


 羨望の眼差しなど向けても、誰かが話しかけてくれるわけもない――――。


「こんにちは、お隣失礼しまーす」


 突如、隣から声をかけられ、私は思わず目を丸くして固まった。


春原(すのはら)香音(かのん)さんだよね? よろしく」

「……よろしくお願いします」


 人懐こそうな表情で挨拶をしてきた彼に小さく返事をする。


 中嶋(なかじま)(あさひ)。いつもクラスの中心にいる男子だった。


「俺は旭でいいよ。香音って呼んでいい?」

「……コミュ力高、やば」

「ありがとう。香音は髪が長いね」


 思ったことを口に出してしまえば、そこからは自然と会話が流れていった。


「なんですか急に」

「褒められたら褒め返す主義だから」

「それ褒めたんですか?」

「……俺、今初めて話すから会話繋げようと必死なんだよ、わかる?」

「それはすごく伝わってます」


 ひさしぶりの同世代との会話に楽しいと感じている自分がいた。思わず笑みがこぼれる。


「あ、笑ってくれた。香音ってあんま他の人と喋んないから、もっとクールで怖い人かと思ってたよ」

「よく言われます。でも仲良くしたいとは思ってますよ?」

「じゃあとりあえずその敬語やめてよ」

「……うん、わかった」


 よし、と旭が親指を立てる。私も真似をしてみた。


 それだけのやり取りに、胸が高鳴る。