「旭」


 昨日、私は昔の私への手紙を書いてみた。そのせいなのか、不思議と覚悟はできていた。


「あの日は本当にごめん。私勢いに任せて、本当に最低なことばっかり旭に言ったよね」

 
 旭は私に背中を向けていた。でも決して立ち去ろうとはしないのが、彼の優しさ。


「みんなに付き合ってるとかいじられて焦ってた。それに気にかけてやってるって旭に言われたのが子供扱いみたいに感じて、思わずあんなこと言っちゃった」


 あのね、返事はいらないから、と1歩旭に近づく。


「好きです。今までありがとう」


 あの日、本当に旭のことが好きだったから、それをみんなに悟られたくなくて必死だった。旭に女として見られていないということを改めて感じて、強く当たってしまった。


 恋心が邪魔をして、本当に伝えたいことをひとつも伝えないまま、こんなふうになってしまった。



 驚いた顔をした旭がようやく振り向く。


 その手に花束を載せた。


「卒業おめでとう、旭」


 なんだか泣きそうになったから、今度は私が背を向け、走った。


 私が来た方向から駆け足が追いかけてくる音は本物か、幻聴なのか。


 まだ胸につかえた何かが取れた気はしない。それでも、ずっと伝えたかった『ごめん』と『ありがとう』と『好きです』を伝えられてよかった。




 緊張が解けた今、あの頃より少しだけ息がしやすくなった気がした。





fin