チラリと枕元に置かれた時計を確認すると、まだほんの数分しか経過していない。九年前は確か夕方まではこの部屋にいたはずだ。ならば今回は自分の意志で消えた可能性もある。そんなことができるのかはわからないけれど、もしそうならば再び現れる可能性だってゼロではない。
「金魚飼ってたんだ」
何も知らない啓太が後ろから水槽を覗き込む。
「びんずるの金魚掬い」
私を現実に引き戻すように優しい温もりがそっと左手を握る。
「指輪、気に入らなかった?」
振り返ると啓太は悲しそうな顔をしていた。
そこで、自分が生きている世界がこの瞬間だということを思い出す。秋雄がいる時間ではなく、いない時間が私の現実。
「違うの。農園の手伝いをするから」
例え幽霊だとはいえ元カレに会う為に外した。なのにサラッと嘘をつける自分が嫌になる。
「そっか」
この瞬間、秋雄に見られていなくて良かったと思う。だけど、そうやって秋雄のことしか考えていない自分は最低だ。
啓太にも良い顔をして秋雄にも嫌われないように振る舞って。それは過去と現実を彷徨う私自身の心の現れ。
「素の夏実が見れて良かった。俺は、お洒落で綺麗な夏実も好きだけどさ」
気を遣ってくれているのはわかる。だけど素の私を好きだとは言ってはくれない。さっきもキャラTを遠回しに否定された。
__所詮、啓太が好きなのは繕った私。
お洒落で綺麗だなんて前までの私なら努力を認められたことに喜んでいたと思う。だけどありのままの自分を認めてもらえる喜びには勝てない。みんなと再会してそのことを知った。
無理に偽った姿を褒められても、今はただ虚しい。
「金魚飼ってたんだ」
何も知らない啓太が後ろから水槽を覗き込む。
「びんずるの金魚掬い」
私を現実に引き戻すように優しい温もりがそっと左手を握る。
「指輪、気に入らなかった?」
振り返ると啓太は悲しそうな顔をしていた。
そこで、自分が生きている世界がこの瞬間だということを思い出す。秋雄がいる時間ではなく、いない時間が私の現実。
「違うの。農園の手伝いをするから」
例え幽霊だとはいえ元カレに会う為に外した。なのにサラッと嘘をつける自分が嫌になる。
「そっか」
この瞬間、秋雄に見られていなくて良かったと思う。だけど、そうやって秋雄のことしか考えていない自分は最低だ。
啓太にも良い顔をして秋雄にも嫌われないように振る舞って。それは過去と現実を彷徨う私自身の心の現れ。
「素の夏実が見れて良かった。俺は、お洒落で綺麗な夏実も好きだけどさ」
気を遣ってくれているのはわかる。だけど素の私を好きだとは言ってはくれない。さっきもキャラTを遠回しに否定された。
__所詮、啓太が好きなのは繕った私。
お洒落で綺麗だなんて前までの私なら努力を認められたことに喜んでいたと思う。だけどありのままの自分を認めてもらえる喜びには勝てない。みんなと再会してそのことを知った。
無理に偽った姿を褒められても、今はただ虚しい。