瞬時に、ゆっくりと開かれる扉に手を伸ばしたが遅かった。

「夏実。どうかした?」

「誰?」

 元カレと婚約者に挟まれた私は、この緊急事態に呆然と立ち尽くす。

「もしかして、急に来たこと怒ってる?」

 黙ったままの私に啓太がゆっくりと近づく。その姿をジロジロと眺めていた秋雄は、空気を読んだのかそそくさと部屋の隅に移動した。別に目の前にいても啓太には見えないのに……。と、思いながら目で追っているとヘラッと笑う。

「俺、邪魔って感じ?」

「ち、違う!」

 突然、大きな声を出した私に啓太がビクッと肩を震わせる。 

「えっと。怒ってはないってこと?」

 さっきの問いの答えだと勘違いしてくれたようでホッとする。

「そ、そう。怒ってはないから、とりあえず」

 部屋から出て行って欲しいと口にしようとした瞬間、後ろでパチリと何かが弾ける音がした。

「秋雄!?」

 もしや。と、思い振り返ると部屋の隅には微かな光が漂っている。そして、窓から入り込む穏やかな風に流されるように消えていってしまった。

「アキオ?」

 怪訝そうに眉をひそめる啓太がキョロキョロと辺りを見渡す。この状況では、浮気相手を隠していると勘違いされてもおかしくない。

「金魚の名前。そこにいるでしょ? そういえば、餌を忘れてたなって」

 私は机の上に置いてある金魚の餌を手に取ると啓太に背を向ける。そして、秋雄がどこに行ってしまったのかを考える。