「それ、俺の生徒手帳だよな?」

 婚約指輪を見られていなかったことにホッとしながら、おばさんからもらったことを伝える。すると秋雄は複雑な顔をしながら口を開く。

「……中身見た?」

「中身? 私とのことが書いてあったのは見たけど」

 すると、今度はホッとしたような顔をする。

「忘れっぽいからちゃんと書いておいたんだ」

 __忘れっぽい。
 己の短所を理解していたのなら、何故私の誕生日も書いておいてくれなかったのだろう。そうすれば、あの時……。なんて、それは自分の罪を責任転嫁しようとしているだけ。
 今思えば、秋雄を喪う悲しみに比べたら誕生日を忘れられたことなど大したことではなかった。なのに、あの頃の私は酷く悲しくて。だから……。

「でも、ナツに持っててもらえて良かった」

 顔を上げると無邪気に微笑んでいる秋雄に胸が痛む。
 一緒にいられるだけでいいと、何故あの時の私は思えなかったのだろう。

「この前さ、ナツが家に来た時に部屋が片付いてて。生徒手帳も見当たらなかったから、どこに行ったのか気になってたんだ」

 一番に生徒手帳の在りかを気にしていたとは知らなかった。本人に許可を取るべきだったと反省する。

「黙っててごめん。これからは、私が持ってるから大丈夫だよ」

 今はまだ手元に置いているけれど、そのうち秋雄と撮った写真と一緒に宝物ボックスにしまうつもりだ。そして今度こそ、自分の罪から逃げずに生きていく。

「……そっか」と、頷きながらもまだ何かを考えている秋雄。不思議に思っていると、突然扉の外から名前を呼ばれた。

「夏実」

 その声に身体が硬直する。

「お客さん?」

 両親ではないことに気づいた秋雄は首を傾げている。