ルックスも気立ても良く両親のことも大切にしてくれる。結婚するには申し分のない人なのに結婚に踏み出せないのは確実にこちらの私情だ。

「実は、私がサプライズを提案したの」

 母からの告白に思わず口をポカーンと開けたまま固まる。

「素を見せられないで結婚なんてできないわよ」

 小声で釘を刺され思わず天ぷらを揚げている背中をジトーッと見つめる。
 朝起こしてくれなかったのも、恐らく素の私を啓太に見せる為。それにしても、素っぴんすら見せたことがない相手に突然寝起き姿を公開するのもどうかと思う。こう、段階を踏んで……。と、考えてみるが三年近くの付き合いの中で見せてこなかった姿を今さら自から見せようとは思わない。所詮は、こういうきっかけがない限り不可能だったに違いない。
 “__わかってる。でも、きっかけは大事でしょ?前回がその時だと思ったのよ”
 ふと、秋雄のことについて話していた両親の言葉を思い出す。恐らく啓太との交際では、母にとって今日がその時だと判断したのだろう。

「これ、運んで」

 テキパキと動く母に指示されるままに、リビングのダイニングテーブルの上に出来上がった料理を運んでいく。

「うわっ! 美味しそうですね!」

 そう声を上げる啓太は、仕事の接待でお洒落なお店にばかり行って。身形も都会に染まって。そんな彼には、果たして田舎の料理が言葉の通りに見えているのだろうか。なんて自分の婚約者を疑うのは如何なものかと思う。
 私は手伝いを終えると先程の姿を見られてしまった手前、恥ずかしさから静かに腰を下ろす。

「着替えたんだ? その服装は夏実に似合ってるよ」と、微笑む顔に心が熱を失っていく。

 __その服装“は”。

「まあ、俺も小学生の時はキャラTだったけど」

 __小学生。
 正直、大人には似つかわしくない格好だということはわかっている。しかし私はこの歳になってもご当地キャラクターのTシャツが好きなのだ。と、いう本音は飲み込む。
 さっきは両親の手前笑ってくれていたけれど恐らく心の中では引いているのだろう。