__ピンポーン。
  家の中に鳴り響くベルの音で目を覚ます。寝惚け眼を擦りながら枕元のスマホを見ると、只今の時刻は正午を過ぎていた。
  昨日、全力で自転車を漕いだせいだろう。ゆっくりと起き上がると節々が痛む。けれど、お腹だけは元気にグーッと大きく鳴った。
 ……朝食に母が起こしにこないなんて珍しい。
 ボサボサの頭を掻きながらリビングに向かって歩いていた私はギョッとする。玄関で、ここにいるはずのない人が両親に歓迎されていた。

「啓太?」

  顔を上げた本人と目が合った瞬間、今の自分の格好を思い出す。 ヨレヨレになった長野のご当地キャラのTシャツに膝丈の短パン。そして、ボサボサの髪の毛に素っぴん。サッと青ざめる私を見て啓太は吹き出すと肩を震わせている。

「……素っぴん、初めて見た」

  私達は東京にある互いの家に行き来したことはない。勿論、泊まりの経験もない。外でしか会ったことのない啓太には完璧な外面しか見せたことはなかった。そして啓太も同じ。少し長い前髪をビシッと固めてお高いスーツを着ている姿しか見たことはない。正直、気が抜けるはずがない。今だって白シャツにデニムというラフな格好だけれど、全てどこかのブランド物だろう。

「この子ったら、今起きたのよ?」

 なんて、母は呆れた顔をしている。

「そうなんですね」と、啓太は笑いながら両親に続きリビングへと入って行った。