「ナツ!」

 地図を辿り歩いていると青い幟に白い文字で「甘味」と、書かれた店の前には既に秋雄が立っていた。
 こんな暑い中、自転車を漕いできた私とは異なり涼しい顔をしている。恐らく移動手段は瞬間移動なのだろう。実に羨ましい。

「よう」

 手を上げて近づくと、私の爪先から頭の天辺を眺めながらニカッと笑う。

「洒落た格好より、ナツにはその方が似合ってる」

「どうも」

 正直、この年齢で洒落た服装が似合わないのもどうかと思う。けれど、秋雄が似合うと思うのならばそれでいい。

 店に入ると、私は店員さんに柱に隠れた一番奥の席に通してもらうようにお願いした。そこならば、一人で喋っていても見られることはないだろう。

「懐かしいなー」

 二人がけの席に向かい合うように座ると、秋雄は足をプラプラとさせながら店内を見渡している。古民家風に造られた店内は、記憶のまま変わってはいない。

「ナツは宇治金時が好きだったよな」

「今も宇治金時」

「ぶれないなー」

 ケラケラと笑っている秋雄は、昨日の話しに触れるつもりはないようだ。ならば私も気にせずに今日を楽しもう。
 店員さんに九年前と同じように「宇治金時」を頼むと、昔より少し盛りが減ったかき氷が出てきた。

「景気を物語ってるよなー」

 写真には、いちごミルクを目の前にはしゃぐ秋雄の姿が映っているけれど今日は一人でかき氷を頂く。

「頂きます」

「旨い?」

「うん」

 食べることのできない幽霊を目の前に気が引けるけれど、秋雄はそういう遠慮を嫌う。だからバクバクと頬張っていると、熱を持った身体がゆっくりと冷えていく。