二十二歳になってもわかりやしないのに、十二歳の秋雄に対して責めるような口調になってしまったことを後悔する。

「あら、夏実」

 顔を上げると、いつの間にか両親がこちらを見ていた。
 __このままでは、いられない。
 わかっているのなら、私はこれから何ができるだろうか。

「ごめんね。今まで心配かけて」

 父がお皿にフォークを置くと、金属の音が静かな部屋に響く。

「まだまだ乗り越えられそうにないけど、もう逃げないから」

 私は力強く頷くと泣き腫らした目元を隠すように自室に戻る。
 きっと、おばさんも気づきながらも触れないでくれていたのだろう。水槽に反射した自分の瞼は酷く腫れていた。私の気配に気づいたのか、尾びれを翻しながら近づいてくる秋雄にそっと微笑む。
 __今度こそ、私は逃げずに自分の罪と向き合う。

 次の日。お昼に母特製の冷やし中華を食べると、私は玄関脇に止めてある自転車に跨ぐ。ネイビーブルーのシャツにデニムとスニーカー。そして化粧は眉とリップだけ。髪も後ろで一本に縛るだけの手抜きスタイル。
 しかし、今大切なことは自分を綺麗に繕うことじゃない。秋雄との時間を楽しむこと。だから以前と同じ過ちは犯さないように軽装にした。
 これならば私の体力は別として、十二歳の秋雄と同等に過ごすことはできるはずだ。

「お出かけ?」

 わざわざ玄関の外に出てきた母は、昨日のことを気にしているのか遠慮気味に話しかけてくる。

「うん。ちょっとサイクリング」

「そう。……夏実?」

 振り返ると、母は一度俯いた向いた顔を上げる。

「ゆっくりでいいんだからね? 結婚だって夏実のタイミングでいいんだから」

 そのまま玄関の奥に消えていく背中は、昔よりも小さくて頼りない。けれど、やっぱり母にはいくつになっても敵わない。