初めて消える瞬間を目の辺りにした私は、暫くその場から動けなかった。神々しい何かに変化するように、輝きを放ちながら光の中へ溶けていく姿はもう私とは違う次元の存在だと理解するのは容易い。それがとても悲しかった。


「また、いつでも来てね」

 おばさんの言葉に甘えてゆっくり滞在させてもらった私は、外に出ると紺色の空に浮かぶ星を眺めながらそっと口を開く。

「今度は一緒におやきを作りたい」

 昔のように敬語を取り除くとおばさんは嬉しそうに笑ってくれる。

「ええ。楽しみに待ってる」

 次に私がこの家を訪れるのは四日後。過去の私はおばさんと秋雄と三人でおやきを作った。でも今は、秋雄と一緒におやきを作ることは叶わない。

「じゃあ、また」

「またね。気をつけて」

 自転車を漕いで家に帰ると、両親はリビングで家用に残しておいたアップルパイを食べながら話しをしていた。

「夏実は、どこに行ったんだ?」

「北村さんの家よ。あの子も頑張ってるのよ」 

 盗み聞きは忍びないが出るタイミングを見失った私は廊下に佇む。父は農園の仕事を終えたようで、母と一緒に少し遅いお茶の時間を過ごしているようだ。

「自分から北村さんの家に行くって言ってね」

「夏実が一番、このままではいけないと思っているんだろう。だけど、母さん。焦らせちゃいけないよ。夏実には夏実のペースがあるんだから」

「わかってる。でも、きっかけは大事だから。前回がその時だと思ったの」

 私も秋雄に偉そうなことを言える立場ではなかった。
 どれだけ周りが自分のことを想ってくれているのか。自分自身で気づくことはとても難しい。