「なんか安心した」

 その言葉に、どうしようもなく胸が締め付けられる。
 秋雄はいつだって自分のことよりも他人の気持ちを優勢する。今は、きっと誰よりも残された人達のことを心配しているのだろう。

「乗り越えてもらわないとな。って、お前もだぞ!」

 油断をしていたらビシッと人差し指がこの額を突き抜ける。変な感触だ。

「俺は、お前が一番心配だ」

 やれやれと首を横に振る姿を見ていたら、少しイラッとした。

「まあ、お前の居場所はたくさんあるから大丈夫だ」

 なんて笑わないで欲しい。
 居場所がたくさんあっても意味はない。私が一番欲しいのは失ってしまった場所。
 __秋雄の隣だから。
 しかし口にしたところで幽霊を苦しめるだけのこと。だから私は昨日のことを秋雄に話す。

「昨日、真由と仲直りする為に家を尋ねたんだけど」

「お! 偉いな!」と、触れることのできない私の頭を撫でる真似をする秋雄を無視して言葉を続ける。

「仲直りできたよ。佐藤の家には、ぶーちゃんもいてさ。元々、真由と佐藤と三人で集まることになってたみたい」

「そうなのか」

 変に鈍いところは相変わらずで、まだ気づいていないのか「仲直り」ということにだけ反応する秋雄に呆れる。

「あんたの命日に毎年集まってるんだって」

 その瞬間、私の頭の上にあった手がピタリと動きを止める。

「この九年間、ずっと秋雄を偲ぶ為に集まってたんだって」

「……え」

 小さく動いた唇は弧を描いていた。しかし三日月が雲に隠れるように姿を消していく。

「その意味がわかる? 秋雄はそれだけ、みんなにとって大切な存在。忘れられない存在。なのに乗り越えるなんて簡単に言わないでよ」

 泣いてはいけないと思う程に天の邪鬼な私の涙腺は、ポタポタと涙を溢す。