“__身体が動くうちにちゃんと片付けておかないと”

 おばさんも秋雄の死を乗り越えたわけじゃない。乗り越えようとしている。
 そんなおばさんの側にいたら、こんな私でも何か力になれることがあったのかもしれない。なのに自分のことしか考えずに、秋雄を愛する人達を置いてこの場所から逃げる道を選んだ。そんな私をおばさんは、どう思っているのだろう……。

「夏実ちゃん?」

 そっと微笑んでくれる優しさが今は胸にチクリと刺さる。

「……ちょっと、暑さにやられたみたいです」

 そう誤魔化すことに慣れてしまった私に「ここでゆっくり休んでいきなさい」と、優しい言葉をかけてくれた。

 アップルパイを食べ終えるとリビングの隣にある和室の仏壇でお線香をあげさせてもらう。そうすることが礼儀だと思った。だけど私の目的は遺影を拝むことではない。

「また、秋雄の部屋を見せてもらってもいいですか? 秋雄に会いたくて」

 素直な気持ちを伝えるとおばさんは「勿論」と、微笑んでくれた。

 リビングに戻る姿を確認してから、私は昔のようにノックもせずに部屋の扉を開けた。

「よう! 遊びに来てくれたんだな」

 秋雄は自分の部屋のベッドで寛いでいる。

「……よう」

 昨日は少し別れ際に気不味い雰囲気になってしまったが、相手は気にしていないようだ。
 __九年前の今日。
 一緒に勉強をしている途中にテーブルに突っ伏して寝てしまった秋雄の写真を私は隠し撮りした。今までとは違って写真には秋雄一人しか映っていなかったから、正直確証はなかったけれど。こうして幽霊はまた現れた。

「この部屋も変わったな」

 辺りを見渡すと、確かに以前よりも物が減ったように見える。

「おばさんが、片付けて」と、そこでハッと口を閉じる私に秋雄は優しく微笑む。