「でも、男にもタイムリミットはある。お互い様だ」

「うん」

 冗談で笑い飛ばすかと思いきや、真剣にアドバイスをくれる所が心地よい。

「さっき、真由と佐藤に「私の一番幸せになる道を選んでね」って言われてさ」

「落ち込んだわけ?」

「んー。嬉しかったんだけど一番はあり得ないから」

 ゆっくりと立ち止まるぶーちゃんの気配に振り返る。

「秋雄がいないから?」

「うん」

 真っ直ぐな瞳に嘘はつきたくない。
 私の一番の幸せは秋雄の側にいることだ。幽霊と再会して再確認してしまった想いに、自分自身で戸惑っている。

「なら「それなり」でいいんじゃね?」

 ぶーちゃんはそっと顔を上げると、夜空を流れる星を眺めている。

「それなりの幸せも幸せに代わりはない。ただ、それなりの幸せが林檎娘にとって「結婚」なのかは考えた方がいいな」

「どういうこと?」

「まあ、それは自分で考えろや」と、自転車のサドルを私に握らせる。そこで、いつの間にか農園の入り口まできていたことに気づく。

「ありがとう」

 そっとサドルを握ると今度はバシッと力強く背中を叩かれる。

「お前の人生のサドルはお前の物だ。どこに向かうかは、お前が決めろ。何かあったら、また相談しろよ。俺は実家にいるし佐藤と真由もいるから」

「うん」

 名言を残し去っていくぶーちゃんの後ろ姿は、デニムのポケットに左手を突っ込み右手を上げヒラヒラさせている。
 確かにあの頃よりイケメンになったと思うけど、途中で石に躓いている姿は相変わらずで思わず笑ってしまった。