それから真由の家で夕飯をご馳走になった。唐揚げにサーモンのマリネにグラタン。小中と家庭科の実習でいつも失敗していた真由は、もうそこにはいなかった。だけど寂しくも悲しくもない。
 変化は生きている証。悪いことばかりではない。

 私が片付けを手伝うと、最初は遠慮していた真由だけど次第に指示を出す姿は昔と変わらない。その間も、私達はこれまでの空白を埋めるように色々な話をした。
 __東京での生活や啓太との婚約のこと。
 真由も佐藤も「夏実が、一番幸せになれる道を選んで欲しい」と、言ってくれた。そして最後に「また、いつでも遊びに来てね」と、マオちゃんと三人で見送ってくれた姿に胸がジワリと温かくなる。
 __また一つ。私の帰る場所ができた。
 自分で遠ざけていたくせに、その事実に力を貰っている自分がいる。
 __私は一人じゃない。
 きっと今秋雄がいたら「ほら。だから言っただろ?」と、自慢気に言われそうだ。

「……婚約か」

 私の自転車を、かわりに引きながら歩いていたぶーちゃんがそっと呟く。

「……実は迷ってるの」

「え?」

 何故、ぶーちゃんに今まで隠してきた本音を漏らしたのか自分でもわからなかい。だけど、暫く足元に転がる石を蹴りながら歩いていたらふと思い出した。

「そういえばさ。秋雄のことを好きかもしれないって相談したのも、ぶーちゃんが初めてだったんだよね」

「え、まじ?」

「うん。迷ってるのも今初めて口にした。何ていうか、昔からぶーちゃんって近すぎず遠すぎず丁度良い距離だった記憶があるんだ」

 結局、あまり心配されすぎるのも軽はずみな冗談にされるのも嫌で。ぶーちゃんは、きっとその中間の人間だったから今も昔も話しやすいんだと思う。
 今だって若干笑いかけているけれど真剣に話は聞いてくれている。

「……迷ってるって笑っていい?」

 ほら。と、思いながら頷くとケラケラと笑い出す。

「お前は秋雄ラブなんだから無理して結婚すんなよなー。婚約者は、ただの犠牲者だろ」

 ごもっともなことを言われて押し黙っていると、この肩をポンッと叩かれる。

「まあ。女にはタイムリミットがあるって言うからな」

「……それね」

 嫌という程に耳にする言葉も、何故かぶーちゃんが口にすると少しだけ飽きれながらも笑えてしまうから不思議だ。