「そうだよ! ぶーだよ!」

 いい歳をして「ぶー」と名乗る姿に思わず吹き出してしまった。けれど本人は気にしていないようで朗らかに笑う姿が昔の姿と重なる。

「変わりすぎじゃない?」

「ダイエットだよ!」

 キラーンと謎のポーズを決める姿も、確かに私の知るぶーちゃんだった。

 __小林徹(こばやしとおる)。通称ぶーちゃん。
 小学生からの付き合いで、同じ苗字ということから彼のことを「ぶーちゃん」。私のことは「林檎娘」と、互いのことを呼び合っていた。
 しかし色白で太っていた当時の外見とは異なるスマートな彼を、ぶーちゃんと呼ぶには違和感がある。

「もう、ぶーちゃんじゃないね。痩せたし身長も伸びたし」

「まあ、俺は俺だ。でも、イケメンになっただろ? 惚れたな? 惚れただろ! よし! 今日から俺を嫁に貰え!」

 そんなノリは変わりない。

「それよか、早くチャイムを押せ」

 人が九年間の壁を必死によじ登ろうとしていたのに、ぶーちゃんが瞬時にぶち壊す。家の中から驚いた顔の真由と佐藤が出てきた瞬間、この頭は真っ白になってしまった。

「……夏実」

「……小林」

 最初にどんな挨拶を交わすか。どうやって謝罪するか。さっきまで考えていたのに台無しだ。呆然と立ち尽くしていると、ぶーちゃんが自転車の荷台から林檎箱を下ろし私の背中をグイグイと押す。

「とりあえず入れ。あちーんだから」

 雪崩れ込むように敷地を跨いでしまった私の横を、真由は何も言わずに通りすぎていく。謝罪するタイミングを完璧に見失った。愕然としていると佐藤に背中をポンッと叩かれる。

「まあ、久し振りに話そうよ」

「あ、うん」

 そういえば、昔から佐藤は私と真由が喧嘩をすると仲に入ってくれていたことを思い出す。
 私は、本当に成長していない。
 結局、ぶーちゃんと佐藤にきっかけを作ってもらっている。