「……本当、バカみたい」

 ゆっくりと風に流されていく真っ白な雲は、今の私を苛つかせる。どこに辿り着くのかも考えずに、ただ風に身を任せているだけ。それは、まるで自分を見ているようだった。

 ただ時が流れるままに身を任せて、そうしていつの間にか九年の歳月が経過していた。啓太と交際したのだって積極的なアプローチに流されただけ。婚約したのも、お洒落なレストランと甘い雰囲気に流されただけ。
 私の意志はどこにあるのだろう。
 暫く一人で景色を眺めていたけれど、すぐに飽きてしまった私は木陰に停めた自転車に跨ぐと家に戻ることにした。
 やっぱり、秋雄がいないとつまらない。

「ただいま」

「早かったのね。何か飲む?」

「うん」

 汗を滲ませながら帰宅した私に、リビングで寛いでいた母が冷たい麦茶を出してくれた。確か九年前も、ものの一時間ぐらいで帰宅したんだっけ。

「今日はおめかしして、友達とでも会ってたの?」

「ちょっと、一人で犀川に散歩を」

 旗からみたら誰かと待ち合わせをしていたように見えるのかもしれない。しかし、地元に戻って来ても会う友達なんて一人もいない。
 __友達。
 一瞬、肩の上で切り揃えられ黒髪に黒目がちな瞳が脳裏に甦る。

「……真由と偶然会った」

「あら、良かったじゃないの」

「……まぁね」

 最悪の再会を果たしてしまった故、名前を出してしまったがそれ以上話は続かず。私は手元にある水滴のついたコップを両手で握りながら黙り込む。