「真由の言葉に腹が立ったなら、感情的にならずにそのことを伝えればいい。傷ついたなら素直に傷ついたって言えばいい。そうしたら喧嘩になんかならない。なのにお前は、一々嫌みったらしいんだよ」

「い、嫌みったらしい!?」

「本当に自覚ねえのかよ?」

「そ、それは」

 返す言葉が見つからないのは自覚している証拠だ。
 “__元気そうに見えるのは、真由が幸せだからじゃない?”
 結婚して子供を生んで普通の幸せを手に入れた、真由が羨ましかった。
 “__いいね。あんなことが「あった」なんて。簡単に過去にできる人は”
 過去に縛られることなく前に進んでいる姿が羨ましかった。
 __ただ素直に、羨ましいと伝えればよかった。
 なのに、私は敢えて鬱憤を晴らす為に嫌味という表現に変えた。

「お前は喧嘩するといつも真由の悪口を俺に言う。だけど、真由はお前のことを一度も悪く言ったことはなかった。誰にもな」

 その言葉に胸の奥深くの部分で小波が起きた。サワサワと舐めるように喉から上へと移動すると、この両目から溢れていく。

「外見じゃなく中身を磨け」

 ふわりと頭に温りを感じた。秋雄がこの頭を撫でてくれている。
 __悔しいけれど秋雄はいつも正しい。
 この九年間、私は一体何をしていたのだろう。十二歳の子供に諭されるなんて情けない。

「お前は心配されたくないって隠すくせに、根底では理解されたいと思ってる。だから、わかってもらえないと怒るんだよな。本当に、めんどくせーの」

「わ、悪かったわね」

 手の甲で涙を拭いながら悪態をつく私を、秋雄は優しい目で見つめる。