「あ。そうだ、今日」

「元気そうかな?」

 言葉を遮る私を真由は驚いた顔で見ている。だけど、止まらない。今すぐ吐き出してしまいたい。

「私が元気そうに見えるのは真由が幸せだからじゃない?」

 秋雄には過去の私が好きだと言われ。過去の友達には幸せな姿を見せつけられ。そんな私が、今元気そうに見えるわけがない。

「そ、そんな」

 揺れる黒目がちな瞳から目を逸らしながら吐き捨てる。

「いいね。あんなことが「あった」なんて、簡単に過去にできる人は」

「……っ」

 真由は何か言おうとして開きかけた唇を、ゆっくりと閉じる。そして、無言で子供を抱き上げると私に背を向け去って行った。
 “__……そ、そんな”
 傷ついたのは私。泣きたいのは私。なのに、真由の悲しそうな顔が頭から離れない。

「お前、幸せじゃないの?」

 突然、背後から聞こえた声に振り返るとすぐ後ろに秋雄が立っていた。

「ちょっと! 驚かさないでよ!」

 すると、秋雄は真剣な顔でもう一度同じことを尋ねる。

「お前は、今幸せじゃないのか?」

 恐らく先程の会話を聞いていたのだろう。
 “__元気そうに見えるのは、真由が幸せだからじゃない?”
 別に自分が不幸せだと宣言したつもりはない。でも幸せだと笑える程でもない。

「幸せでも不幸でもない」

「……何だよ、それ」と、不服そうな顔をする秋雄を私は真っ直ぐに見つめる。