「夏実!? 久しぶり!」

 突然、私に抱き付くとぴょんぴょんと跳ねる姿も昔と変わらない。

 __足立真由(あだちまゆ)

 小学校の時に出会い中学を卒業するまで一番仲の良かった友達だ。しかし、長野を出てからは心配する真由からの連絡に一度も返信したことはない。だから、いつか再会しても冷めた態度をとられると思っていた。なのに、想像とはかけはなれたテンションに戸惑ってしまう。

「今も東京にいるんだよね?」

 少し落ちついたのか身体を離すと真由がそっと尋ねる。

「うん」

「そっか」

 その瞳に幾度となく見てきた色が見える。思わず視線を逸らすと、足元でしゃがみこんでいた女の子と目が合った。

「この子は、マオ。私ね、高校を卒業してすぐ佐藤貴司(さとうたかし)と結婚したの」

「え」

 その名前に反応すると、真由は少し照れたような顔をする。
 佐藤は、中学の時に秋雄と一番仲の良いクラスメイトだった。だからよく、私と秋雄と真由と佐藤の四人でつるんでいた記憶がある。

「高校も同じで、そこから付き合ってそのまま」

 そう言いながら、肩の上で切り揃えられた黒髪を片耳に掛けながら微笑む。その姿に、この胸がチリチリと焦げる匂いがした。
 __もしも秋雄が生きていたら。私も今頃……。

「夏実は?」

 遠慮気味に尋ねるその瞳に、またあの色が滲んでいる。
 __哀れみと同情の色。
 中学の時に恋人を亡くした私は、誰にとっても哀れみと同情の対象。
 きっと逆の立場なら、私もそんな目で真由を見てしまうのかもしれない。そう思いながらも、胃の奥がムカムカとして気持ち悪い。

「……そろそろかな」

「え!? そうなんだ!」

 適当に答えておきながら思わず振り返る。秋雄はこちらを見ていたけれど、当然この距離では会話が聞こえることもない。

「貴司も、夏実のことを心配してて。でも、元気そうで良かった」

 __元気そう。

「……あんなことが、あったからさ」

 __あんなことが「あった」。

「でも、乗り越えたんだね」

 __乗り越えた。

 真由の言葉が硝子の破片のように、この胸にグサグサと突き刺さる。