「今のナツは可愛くない。俺が可愛いと思うのは、服が汚れることも気にせずに一緒に芝に横になったり一緒に川で遊んだりするナツだよ。俺はそんなナツが好きだったんだ」

 __好きだった。
 それは立派な過去形。
 確かに私達の関係は九年前のまま止まっている。だけど、少しでも過去の自分より綺麗になったであろうこの姿をその瞳に映して欲しかった。
 そんな私の気持ちまで否定されたみたいで、胸の奥が喉の奥がヒリヒリと痛みだす。

「……私だって好きで歳を取ったわけじゃないよ?」

 ポツリと呟いた声は秋雄には届いていない。こちらに背を向けたまま、ただ流れる川の水を眺めている。

 “__今のナツは可愛くない”

 あの顔は秋雄の傷ついた時の顔だ。久しぶりの再会にただ心を踊らされていた私は、変わったこの姿を見る度に傷ついていた秋雄の気持ちに気付かずにいた。
 __歳を取れない秋雄。
 __歳を取らざるを得ない私。
 お互いの気持ちを理解するのは、とても難しいことに今更気づくなんて……。

「こら! 待ちなさい!」

 土手の上からこちらに向かって走ってくる気配に、私は溢れ落ちそうな涙を手で押さえる。
 
「ごめんなさい!」

 顔を上げると三歳ぐらいの女の子が、すぐ近くで黄色い野花を摘んでいる。別に迷惑なんてかけられてはいないのに、女の子の母親は慌てて駆け寄ってくると私に頭を下げた。

「……いえ」と、つられて頭を下げるとジロジロと眺める不自然な視線に気づく。泣いていたことを不審に思われただろうか。と、伏し目がちに窺うと大きな黒目がちな瞳と視線が重なった。

「あ」

「え」

 声を出したのは同時だった。その声にその姿に面影が残っていた。

「……真由(まゆ)?」

 懐かしい名前を口にすると、彼女はパッと花が咲いたような笑顔を見せる。