「……ありがとう」
元はといえば人付き合いが苦手な私を、一緒に農協に引き摺り回って繋がりを作ってくれたのは秋雄だった。もしそれがなければ、今こうして戻ってきても私の居場所はなかったに違いない。
「おう」
振り返った秋雄は少し照れ臭そうに微笑むと、すぐに屋台村を指さす。
「次は、金魚すくいだ! 俺に大人の底力を見せてみろ!」
ふざけたことを言い出した秋雄に笑っていると、二人の間の空気を聞き慣れた音が揺らす。それは、ポーチの中にしまっておいたスマホのバイブ音。取り出してみると、ディスプレイには「啓太」の文字が表示されていた。
「電話だ。ちょっと、ごめん」
隠れるように、人混みに紛れると私はすぐに通話ボタンを押す。
「もしもし」
聞こえてきた優しい声に罪悪感が沸き上がる。気づけば、私は指輪を外した左手を隠すように握りしめていた。
「もしかして、外だった?」
「……あ、うん。久しぶりにびんずるに来てて」
「びんずるか。懐かしいな」
東京で出会った私達だが偶然にも二人の地元が長野だった。
啓太の地元は、もう少し山の方で昔は電車に乗ってよく長野市内まで遊びにきていた。と、いう会話で初対面の時に盛り上がったことを思い出す。
「私も久しぶりに来てみたけど懐かしくてね」
「まさか、踊ったの?」と、受話器越しで既に笑っている気配がする。
「……踊りました」
すると、ついに啓太は噴き出した。
「一人で勇気あるなー。夏実って、そんなキャラだっけ」
それが一人じゃないんだよな。と、受話器越しで苦笑する。
確かに秋雄がいなければ、私は一人静かに懐かしい景色を眺めているだけだった。勇気を出した所で、屋台で少し食事を買って楽しむ程度だったと思う。なのに、沢山食べて思いっきり踊って……。まさか、こんなにも満喫している自分がいることに自分自身でも驚いている。
元はといえば人付き合いが苦手な私を、一緒に農協に引き摺り回って繋がりを作ってくれたのは秋雄だった。もしそれがなければ、今こうして戻ってきても私の居場所はなかったに違いない。
「おう」
振り返った秋雄は少し照れ臭そうに微笑むと、すぐに屋台村を指さす。
「次は、金魚すくいだ! 俺に大人の底力を見せてみろ!」
ふざけたことを言い出した秋雄に笑っていると、二人の間の空気を聞き慣れた音が揺らす。それは、ポーチの中にしまっておいたスマホのバイブ音。取り出してみると、ディスプレイには「啓太」の文字が表示されていた。
「電話だ。ちょっと、ごめん」
隠れるように、人混みに紛れると私はすぐに通話ボタンを押す。
「もしもし」
聞こえてきた優しい声に罪悪感が沸き上がる。気づけば、私は指輪を外した左手を隠すように握りしめていた。
「もしかして、外だった?」
「……あ、うん。久しぶりにびんずるに来てて」
「びんずるか。懐かしいな」
東京で出会った私達だが偶然にも二人の地元が長野だった。
啓太の地元は、もう少し山の方で昔は電車に乗ってよく長野市内まで遊びにきていた。と、いう会話で初対面の時に盛り上がったことを思い出す。
「私も久しぶりに来てみたけど懐かしくてね」
「まさか、踊ったの?」と、受話器越しで既に笑っている気配がする。
「……踊りました」
すると、ついに啓太は噴き出した。
「一人で勇気あるなー。夏実って、そんなキャラだっけ」
それが一人じゃないんだよな。と、受話器越しで苦笑する。
確かに秋雄がいなければ、私は一人静かに懐かしい景色を眺めているだけだった。勇気を出した所で、屋台で少し食事を買って楽しむ程度だったと思う。なのに、沢山食べて思いっきり踊って……。まさか、こんなにも満喫している自分がいることに自分自身でも驚いている。