大人になっても私は変わっていないようだ。
 内向的で腰が重くて、誰かが背中を押してくれなければ動けない。そんな私にきっかけを作ってくれるのが、いつも秋雄なのだ。

「大体のことは、やってみないとわからないもんだぞ?」

「そうだったね」

 いつしか忘れてしまっていた。
 最初は渋々始めてみたものが、最終的には誰よりも好きになっていたり。そこから沢山のことを学んだり。過程から得ることが沢山あることを、私は秋雄から教わったはずなのに。
 __できるか。できないか。
 __楽しいか。つまらないか。
 すぐに結論を出そうとするのは大人の悪い癖だ。

「みんな、元気そうで安心した」

 頭の後ろで腕を組むと、秋雄は踊りながら横を通りすぎていく農協の人達を懐かしそうに眺めている。

「凄く元気だったよ。それに、すごく久しぶりだったのにすぐに仲間に入れてくれた」

「当たり前だろ」

 一度立ち止まると秋雄は優しく微笑む。

「お前は仲間。一人じゃないんだよ」

 そしてまた、プラプラと歩きだす。私は思わずその背中に向かって「バカ」と、小さく呟いた。

 秋雄が死んで私は故郷を捨てた。そして自ら一人になる道を選んだ。
 しかし大学に入学して、すぐに母が過労で倒れ。このまま会えずに母を失うかもしれない。そう思ったら居てもたってもいられずに、久しぶりに故郷に戻ることを決めた。それをきっかけに、一年に一度は顔を出すようにしてきた。

 それでも、他者を遮断して周りの人達と触れ合うことだけは避けてきた。そうして弱い私は、過去を振り切ろうとしていた。
 だけど秋雄によってこの心は簡単に動かされた。みんなと踊って、笑って。そして、今でもこの町には居場所があることを知った。例え久しく顔を合わせていなくとも。何年時が経とうとも。例え私が故郷を捨てようと、故郷は故郷の人々は私をいつだって待っていてくれる。