「だから、今日は思いっきり楽しもうぜ?」

「うん」

 本当は「今更遅い」と、文句の一つも言ってやりたかった。だけどこの瞬間、秋雄が目の前にいることが真実ならば遅いということはないのかもしれない。私も過去では素直になれなかった。ならば今、素直になればいい。

「まずは腹拵いだろ?」

 秋雄が突然、屋台が立ち並ぶ方向を指差す。

「俺は腹減らないから、ナツの旨そうに食べてる顔を拝んでやる」と、ニヤニヤと笑う顔をギロリと睨む。だけどお腹が空いてきたのも事実だ。

「じゃあ、何か買ってきてもいい?」

「おう。俺はここにいる」

 私はその場に秋雄を置いて、すぐにじゃがバタにフランクフルトに唐揚げ串に焼きそばを買って戻る。

「……お前、リバウンドかよ」

 なんて、飽きれた顔をしながらも秋雄はどこか嬉しそうだった。

「食べれるうちに好きなものを頂こうと思って」

「それは、いい考えだ」

 近くにある大きな石に腰かけると、私は買ってきた食べ物の器を全部膝の上に乗せて両手を合わせる。

「いただきます」

 端からみたら、一人で祭を満喫する私はどう見えるのか。いつもなら気になるはずなのに、今は不思議と気にならない。好きな物を好きなだけ頬張っている私を、秋雄は懐かしむように目を細めながら優しく見守っている。

「食べたら運動もしないとな」

 しかし食べ終えた途端、秋雄は片方の口角だけ上げて悪い笑みを浮かべている。その顔に嫌な予感がする。